『破綻の一類型』

A:女性。主婦。何よりもまず自分の直感を信じるタイプ。執念深い。
B:男性。Aの一人息子。多感な時期ということもあって、両親とは距離を置き気味。
C:男性。Aの夫の部下。Aに惚れている。場の空気に流されやすい性格。
D:男性。探偵。言葉遣いからものの考え方まであらゆる点で下品。
E:女性。風俗嬢。口調は丁寧だが、実はさばけきった性格。Aの夫に特別な感情はない。


(※注:基本的にはAの独白の合間にB~Eの台詞が背景で流れる感じで。台詞のタイミングや重ね
方は編集さんに丸投げ)

A01『夫の浮気を確信したきっかけ?そんなものは無かったわ。ただ、一緒に夕飯を食べて、一
  言二言会話して、同じ布団で眠って、その中で何となく気づいたの。何となくね。けれどそ
  の直感が間違っているなんて微塵も思わなかった。夫婦というのはそういうものよ』

B01「父さん、今日も遅いの?……ふうん。……寂しいかって?別に。いつものことだろ」
C01「俺、旦那さんのことを尊敬しています!誰よりも仕事に熱心で、誰よりも成績を上げてい
  て、その上こんな美人の奥さんまで!」

A02『私はすぐに探偵を雇ったわ。知り合いの奥様に教えていただいた、とびきり腕利きの探偵
  さん。鼻持ちならない喋り方が癇に障ったけど、大切な夫婦の絆を取り戻すためですもの、
  高い依頼料を支払ったわ。お金を受け取ったときの探偵さんの顔。こんな卑しい笑い方があ
  るものかと心底あきれたわ』

D01「どーも。すでにご存じでしょうが私、探偵業を営んでおります。要するに、人の不幸で飯
  を食ってるわけですな。ご依頼は浮気調査?……あー、だって奥さん浮気されやすそうな顔
  してますもん。……ま、冗談として受け取ってください。その代わりやることだけは完璧に
  やらせていただきますんで、そこはご安心を。私は奥さんの味方ですよ」

A03『けれどあの探偵さん、下品さに反比例して、仕事の方は本当に一流だったみたい。中間報
  告は週に2回あって、毎回何かしらの成果を見せてくれたし、撮ってきてくれた証拠写真は
  そのまま裁判で使えるものばかり。法律のことにも詳しくて、証拠がどのくらい集まれば充
  分な慰謝料を勝ち取れるかまでアドバイスしてくれたわ』

D02「どうやら旦那さん、とあるいかがわしいお店に入り浸ってるようですな。とある女の子に
  ご執心のようでして、しょっちゅうお店に入っては毎度同じ子ばかり指名しとります。こち
  ら、そのときの写真。相手の女の顔までばっちり写ってるでしょ」
C02「主任、最近様子がおかしいんですよね。何かトラブルを抱えてる様子ではないんですが、
  表情が少し変わったというか。最近飲みにつきあってくれなくなりましたし」
B02「父さんのこと?……うーん、別に。興味ない。母さんはどうして父さんと結婚したの?」
D03「裁判に勝つつもりならあと2、3証拠がほしいところですな。何、私にかかれば2週間もかか
  りません。……あー、こういうのはお好みでない?ですが……(※D04に続く)」

A04『けれどね、違うのよ。私が望んでいるのはお金なんかじゃないの。あくまで夫婦の絆を取
  り戻したいだけなの。夫にちょっとした釘を挿してあげたかっただけなのよ。私がそのこと
  を探偵さんに伝えたら、あの男はこう言ったわ』

D04「何をするにも切り札は用意しておくべきですぜ」

A05『それからしばらくして、探偵さんが夫の浮気相手と引き合わせてくれたの。いったい何を
  どうしたらそんなことができるのか見当もつかないわね。とにかく、私はその浮気相手の女
  の話を聞いたの。確か風俗をやっているとか言ってたかしら。若くて美人だったけれど、妙
  にくたびれた目をしていて、ファンデーションの匂いがぷん、と鼻についたわ』

D05「実は是非とも奥さんに会わせたい方がいましてね。何、払いのいい奥さんへのささやかな
  サービスです」
E01「初めまして。私、お店で、その、旦那さんのお相手をさせていただいておりまして。T子
  といいます。旦那さんが初めてお店にいらっしゃったのは半年ほど前のことでしょうか。仕
  事でのつきあいか、ウチの昔からの常連さんに連れられてて、おどおどしてましたね」

E02「……それから彼、毎週ウチのお店に来ては、私が添い寝して時間いっぱいまで眠るんです。
  セックスも何もしないで、本当にただそれだけ。それだとかえってやりづらいから時々私の
  方からサービスしようとするんですけど、『自分には妻がいるから』の一点張りで……」

A06『許せなかった。意図がつかめず、真意も見えず、行動ばかりがひたすら奇矯(ききょう)
  で、理解しようとするのもおぞましいばかり。ひとつだけわかったことといえば、それは、
  夫が、私の妻としての尊厳を粉々に打ち砕いてくれたこと。私との結婚生活、十数年間の時
  間を真っ向から否定しにかかったということ。これ以上の仕打ちはなかった。本当に、それ
  だけは許せないことだわ』

E03「ちょっ、なっ、痛い!やめてください。私、旦那さんとは何もないんです、本当に。好き
  とか、全然全く、あり得ませんから、あんなおじさん。常識で考えてください。そもそも年
  齢からして全然釣り合わないです」
B03「どうしたの、母さん。なんかすごい目してる……あ、そうだ、俺、今日友達の家に呼ばれ
  てるから。夕飯もいらない。今日、泊まる予定だから」
C03「ちょっと、落ち着いて!落ち着いてください、奥さん。何があったのかはわかりませんが、
  まずは落ち着いて話し合いを……泣いていらっしゃるんですか?」

A07『だから、私、寝たわ。夫以外の男性と。私の人生で初めてのことだったわ。相手の男性は
  優しくて、若々しくて、体力があって、私のことを必死に誉めてくれたわ。ちっともうれし
  くなかったけれど。あんなつまらないセックスは初めて。でも仕方がないわね。だってこれ
  は当てつけだもの。私がしたくてしたんじゃない、夫のために、仕方なくやったセックス
  だったんだから』

C04「ずっと好きでした、奥さん。主任のことを尊敬していたので今まで隠してましたが。初め
  て会ったときからずっと、一目惚れでした。こんな美しい女性がいるのかと。正直に言うと、
  俺、ずっと主任のこと、嫉妬してました。奥さん。すごくきれいです。奥さん。俺じゃ不足
  かもしれませんけど、だけどきっといつか。奥さん」
B04「最近家に居づらくなってさ。父さんは元々ああだし、それに最近は母さんも……。最近、
  知らない男の人がよく家に居るんだ」

A08『ねえ、あなた。わかるかしら?わからないでしょうね。あなたには一生わからないわね。
  わかるようなら、あんなこと絶対にするはずがないもの。今となっては、私とあなた、いっ
  たいどちらが悪者かしら。案外、世間では私の方が悪者かもしれないわね。理由はどうあれ
  不貞を働いたのは私ですもの。だけどね、いいの。これはあくまで私の尊厳の問題なのだか
  ら。この戦いには私という人間の在り方がかかってる。だから、ねえ、あなた。私、死んで
  も、殺しても、あなたを絶対に許さないわ』
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最終更新:2011年06月29日 17:41