必殺!削除人

(其の一)

『夜の帳も降りて闇はいよいよ深くなり
 闇夜こそ隠れ蓑と さもしい悪がまた一つ……』

悪代官「ガッハッハッハッハ……何度見ても笑えるのう!
    見ろ越後屋、草紙(そうし)殿が書いたこの書状。
    ”詰問”と”訪問”の字を見事に書き間違えていなさるわ!」
越後屋「ヒヒヒ。上様にお渡しする書状にてこの粗相。
    厳罰はまぬがれぬでしょうなあ!」
悪代官「粗相どころでは済まぬかもしれぬぞ。
    ひょっとすると…」
越後屋「ひょっとしますかなぁ?」
悪代官&越後屋「ガッハッハッハッハッハ!!!ガーハッハッハッハッハッハ…」

チャララ~
削除人「動くな」(背後から悪代官の首筋に刀シャキーン)
悪代官「ぬう!? だ、誰だ!!」
削除人「命が惜しければこちらを向くな。
    そこのお前も おとなしくしていることだ」
越後屋「ひぃぃ!」
削除人「静夏喜太郎歩如(せいげ きたろうほにょ)、
    文筆改方(ぶんぴつあらためかた)の身にも関わらず
    罪のない文に、反逆の咎(とが)をかけるとは言語道断!!」
悪代官「きっ貴様、何が目的だ!?」
削除人「その罪…削除致す!」

(水をぶっかける音)

悪代官「わぶっ!? ……ぺっぺっ!!
    なな、なんじゃこの白くてネバネバした苦い液体は!」
越後屋「ペロッ……こっ、これは修正液でございます!!」
悪代官「修正液だとおお!?」
削除人「誤字脱字を削除すれば……貴様らの野望も叶わず!」
悪代官「ぐぬぬ…」
越後屋「きき、貴様、草紙(そうし)の手の者か!!」
削除人「フッ。俺は自由を愛する一匹狼。
    誰の手にもつかぬ。さらばだ!!」シュタッ
越後屋「なっ!消えた!?」
悪代官「も……者ども出やれ!! 出やれええええ!!!
    奴を追えええええええ!!! 追うんだあああああああ!!」

『闇夜こそ隠れ蓑 自由を愛する狼は
 夜の中に 溶けていったのでございます……』



(其の二)

『暗雲たなびく闇の中 宙(そら)を舞う獣が
 ここに一匹(ひとひき)…』

(ひそひそ…)
悪代官「越後屋……今宵の警備は万全であろうな?」
越後屋「勿論にござりまする。怪しい物陰の一片も見逃さぬよう
    三千の配下が控えてございます」

悪代官「ハッハッハ!!
    先の会合は妙な子ネズミに邪魔をされてしもうたが…
    この蜜の味の余興と思えばオツなものよ。
    ……越後屋、例の原本の所在は…」
越後屋「はっ、ここに。肌身離さずもっておりましてござります」
悪代官「くっくっく。奴がいくら小細工をしようと……
    偽筆家(にせひつか)にかかれば、この通りよ!」
越後屋「ヒヒヒ。どこをとっても、本物と見分けがつきませんなぁ!」
悪代官「この、寸分替えた書状と摺りかえれば……」
越後屋「書状の書き手である草紙(そうし)殿のご身分も難しいことになるやも…」
悪代官「そうかもしれぬか…なぁ…?」
越後屋「ヒヒヒ。悪いお代官様でございますなぁ」
悪代官「なぁにお主の芸狂いには 及ばぬさ」
悪代官&越後屋「ガッハッハッハッハ!! ガーッハッハッハッハッハ…」

(ギシッ)

悪代官「!? な、何奴!!」

(チリリン♪と鈴の音)
猫「にゃー」

悪代官「ね…猫か…。おどかすでないわ」
越後屋「も、申し訳御座りませぬ、どこから入ったやら…
    しっしっ、あっち行け!」
悪代官「よいよい。ふふ、なかなか別嬪ではないか。
    ほれ、来い来い、刺身でも食うか?ん?」

(ガターーーンと机を倒す音)

悪代官「うおっ!!!」
越後屋「ああっ!! ね、猫、ほら、その書状返せ!! だいじなものなんだ!!
    返しなさい、こらっ!!」

(ビリビリビリと破く音)

越後屋「あああああああぁあああああぁぁ……原本がぁぁぁぁ!!
    このドラ猫!」
(猫逃げる)猫「にゃー」

悪代官「よいよい、どうせ始末する筈のものだ、支障あるまい。」
越後屋「はぁ…それもそうですな!はっはっは……」



猫「にゃー」
削除人「よしよし、よくやった。
    書状をすりかえられた事にも気付かぬとは……。
    間の抜けた悪党ども、お主らの腐ったたくらみ、この削除人が削除致す」

『暗雲たなびく闇の中 宙(そら)を舞う 獣を従え削除人
 朝風吹かれて、次の闇へ、ふらり……』


お題:おっと、台本に「指摘」すると消されるぞ…
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最終更新:2011年02月15日 20:26