今日は父の日。お父さんに日ごろの感謝を伝える日です。
下の人間の世界では子供たちがお父さんに、
子供「おとうさん、いつもありがとう」
子供「おしごとおつかれさまです」
子供「おとうさん、ずっとげんきでいてね」
そんな言葉といっしょに、お父さんへプレゼントを渡しています。
お父さんはにっこりにっこり笑って、「ありがとう」と子供たちをぎゅっと抱きしめていました。
息子「僕もおとうさんに感謝をつたえたいな」
神様の息子はそう思いました。
息子「人間の子供は、何をプレゼントしているのかな? ネクタイに、くつした・・・似顔絵。そうだ、僕も似顔絵を書いてあげよう」
神様の息子はしろいふかふかした雲をひとつちぎって、うすくたいらにのばして、
まっさらな画用紙にしました。
そして、天の白い小鳩から、抜けた羽を一本もらい、ペンにしました。
息子「お父さんはどんな顔だったかな、そうだ、白い長いおひげがあるんだよ。そうして、背が大きくて・・・鼻は・・・口は・・・」
神様の息子はお父さんの絵をいっしょうけんめいに書きました。
顔も手も墨だらけにして、いっしょうけんめい、かりかり、かりかり、かりかり。
息子「できた」
とうとう絵が完成しました。
ですが、神様の息子はかなしそう。
どうしたのでしょう?
目がしらがぎゅっと下がって、鼻の頭がむずむずなって、耳が赤くなって・・・とうとう、息子は泣きだしてしまいました。
神様の息子がぽろぽろ、ぽろぽろ、なみだをこぼすと、地上にも大粒の雨がぽろぽろ、ざあざあ、ふってきました。
下の世界は大慌て。あわてて洗濯物をとりこんだり、家の中に入ったり・・・
びっくりした太陽は、息子に聞きました。
太陽「どうして泣いているの?」
息子「だって、だって、この絵、ちっとも、おとうさんに似ていない」
神様の息子は泣きじゃくりながら答えました。
ぽろぽろ、ぽろぽろ、大粒の雨が落ちて来ます。
太陽「これは大変だ、僕の、太陽の炎も、涙で消えてしまうよ」
太陽はあわてて 雲の間に隠れてしまいました。
空は暗くなり、人間たちはびっくりぎょうてん。
なにが起こったのかと、空を見上げています。
おどろいた月のウサギが、神様の元に走りました。
ウサギ「かみさま、かみさま、大変です。かみさまのむすこが、えんえん、えんえん、泣いています。空はずうっとまっくらで、人間たちが困っています」
神様はびっくりぎょうてん。急いで息子の元にかけつけました。
神様「どうしたのだ、何を泣いているのだね」
神様の息子はえんえん、えんえん、泣くばかり。
空はますます暗くしめっています。
神様は、やさしく息子を抱きしめ、背中を叩きました。
とんとん、とんとん、とんとん・・・
ひとつ叩くと、しゃくりあげる声がひとつやみ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・
最後に、とん、と叩いたときには、雨はやみ、息子の涙もとまっていました。
むすこは暗い顔でうつむいたままです。
息子「僕ね、おとうさんの絵を書きたかったんだ。でもね、うまくかけなかったの。喜んでもらいたかったのに、何もできなかったの」
むすこはぐしゃぐしゃになった絵をにぎりしめて言いました。
神様は、むすこのにぎりしめたこぶしをぽんぽん、ぽんぽん、とたたきました。
一つ叩くと、息子のにぎった手はやわらかくなり、ぽん、ともうひとつ叩くと、画用紙は雲の上におちました。
神様「これは、白い、長いひげだね。私のひげだ」
神様「髪も長い、ちぢれて、のびほうだい。私の髪だ」
神様「ほほ、木の杖をついているぞ。これは私の杖だ」
神様は嬉しそうに笑いました。
神様「私を書いてくれたんだね。私をよく見ていてくれたんだね。ありがとう」
息子「でも、うまくないよ。さっぱり似てないよ」
神様「何を言っているんだい、これは私の絵じゃないか。それとも、本当は他の誰かを書いたのかい?」
息子「違うよ、お父さんを書いたんだ。お父さんはいつもお仕事大変だから、ありがとうっていいたくて・・・」
言いながら、息子はまた、涙があふれそうになりました。
神様は、息子のひじをとんとん、とんとん、とたたきました。
とん、とひとつ叩くと、かなしい気持ちも、つらい気持ちも、どこかにふきとんでしまいます。
とん、と最後に叩いたとき、息子はふふっと笑いました。
空には、涙の虹がかかり、太陽はまた、美しく地上を照らしはじめました。
このことにとても喜んだ神様は、人間にも神様の力をわけあたえました。
辛いとき、かなしいとき、とんとん、とんとん、とやさしく叩かれると、
かなしい気持ちも、つらい心も、どこかにいってしまうお力です。
そんなのはうそじゃないかって?
さあ、どうでしょうね
あなたも どこかで かなしいひとを つらいひとをみつけたら・・・
とんとん、とんとん
最終更新:2011年01月07日 20:05