「挟まれた老人」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「挟まれた老人」(2010/10/19 (火) 03:55:27) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**挟まれた老人
作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI
A:乗客。
B:乗客。
老人:数奇なる運命を人生の最終局面にて歩む者。
車掌:そのまんま。
SE:電車
車01「えー、次は赤羽ー、赤羽でございまーす」
A01「夜も遅くなると、電車には色んな奴が乗るもんだ。
いかにも疲れたって感じのリーマンや、音楽を聴きながらケータイをいじる大学生。
化粧の手直しをするOLは、これからまだ予定があるのだろうか。
とりあえずこんな時間に子連れの家族が電車に乗るな、せめてクソガキを黙らせろ。
ああイライラする。普段は気にもしないってのに、今日はやけにイライラしてしまう。
それというのも、隣に座ってるジジイだよ!
このジジイ、ちゃんと風呂に入ってんのか? 全身臭くってたまんねーぜ!
ったく、これだから電車は好きになれないんだ。
ちゃんとルールを守って、人に迷惑かけないようにしろよな。
あー……気分悪ィ。ジジイが臭いせいで、吐き気までしてきやがった。
このジジイ、なんでこんなに臭いんだ?
…………つーか、息してんのかこれ?」
B01「臭い。ええ、何が臭いかと言えば隣に座るご老人です。
人様を臭いと評すのは失礼だと理解していますが、こればかりはどうにも。
まるでそう、馬糞のような、とでも言えばいいのでしょうか。
人体が発するとは思えぬような悪臭が漂っておりまして、中々に辛いものがあります。
私の反対側、つまりご老人を挟むようにして座る男性も、これには辟易しているようですね。
……おや? 何やら驚いた顔をしていますが、何かあったのでしょうか?」
A02「おいおいおい、ちょっと待てジジイ。百歩譲って臭いのは勘弁してやってもいい。
けどな、よりにもよって、なんで俺の隣でぽっくりしてんだよ!
まさかボケ? これが老化によるボケですか? 呼吸の仕方を忘れたとか?
それともあれか、ストライキか。心臓が職務放棄かましちゃってるのか。
いや、そんなのはどうでもいい。問題は、反対側に座る男が俺を見ている事だ。
ジジイが死んでるっていうのに、なんだあの冷静な顔は。つか、なんで俺を観察してやがる。
ま、まさか……こいつがジジイに何かして、ジジイを殺したのか!?」
B02「大変です、どうした事でしょう。先ほどの男性が私をめっちゃ睨んでいます。
目は口ほどに物を言うとありますが、眼光だけで殺そうとしてるんじゃないかと思います。
ええと、私、何かしましたっけ?
とりあえず敵意はない事を伝えるために、微笑みかけてみましょう。にっこり」
A03「わ、笑ってやがる……! なんて奴だ……!
これで間違いないぜ。ジジイを殺したのはこいつだ!
あの笑顔は、騒いだら俺も殺すって意味だ。そうに違いない。
くそっ……! なんでこんな電車に、あんな恐ろしい殺し屋が乗ってるんだよ!?
なあ神様、俺が何かしたか? そんなに俺が嫌いなのか?
ああもう、ケガしていいから飛び降りてェ――ッ!!」
B03「なんかもう大変過ぎます。例の男性が、飛びてー、とか呟いています。
ひょっとすると彼は、薬物中毒か何かで、今まさにトリップしているのでは。
そうだとすると、私をあんな目で睨んだ事も納得がいきます。
彼は私を睨んだのではなく、幻覚によって別のものに見えた私を睨んでいたのでしょう。
しかしそんな人が電車に乗っているとは……この国の治安も落ちたものですね。
――おや、車内アナウンスが流れ始めましたね」
車02「えー、この先、揺れますのでご注意くださーい」
SE:振動
A04「ぬおっ……ジジイが、ジジイの死体がこっちに!?
外傷とかないし、ジジイの死因って毒か何かだよな?
って事は、触ったらヤバイじゃねーか! こっちくんな! あっちいけ!」
B04「なっ!? 倒れかけたご老人を、こちらに押し飛ばしてきましたよ!?
確かに臭いのは認めますが、か弱い老人になんて事をするのでしょう。
ご老人、大丈夫ですか――っていうか、息してませんね?
え、まさか死にました? 押し飛ばされて、この世からも飛び出しちゃいましたか?
……なんて、酷い事を。
薬物中毒だとしても、許される行いではありませんよ……!」
A05「うわあああ! や、やっぱ睨んでる! 超怒ってる!
けど俺だって、死体とくっついてるのなんて嫌だし!
元はと言えばお前が殺したジジイなんだから、責任取ってテイクアウトしろよ!?」
B05「な、なんという事でしょう……彼は怯えたように、激しく身悶えしているではありませんか。
そのクネクネした動きは、明らかに常軌を逸しています。理性は欠片も残っていないでしょう。
しかし私がここに偶然居合わせたのも、何かの運命なのでしょう。
まずは彼に、ご老人が死んでしまった事を認識させる必要があります。
死者を冒涜するようで気が引けまが、ご老人の死体を押し付けてやりましょう」
A06「何ー!? 何これ!? 何が起きてるの!?
どうしてこいつ、ジジイの死体をぐりぐり押し付けてくるんだよ!?
やり返すにしても、もっと別の方法がいくらでもあるだろ!
怖いっつーかキモイ! キモ怖い!
その死体、もうお前が持ってろよ!」
B06「馬鹿な、ご老人の遺体を押し返してくるだなんて!
彼には死者を尊ぶ気持ちなど、欠片もないという事なのでしょうか。
いえ、それだけではありません。
ご老人が亡くなっている事を理解しながら、私へやり返すかのように遺体を押しているのです。
まるでゲームに興じているようではありませんか!
遺体を弄び、ゲームの道具にするとは、まさに悪鬼の所業。
ですが私も、ここで引き下がるわけにはいかないのです……!」
A07「なんでだよー!? なんでもっと強く押してくるの!?
ごめ、ごめんなさい! キモ怖いとか思ってごめんなさい!
もう怖いだけだから、マジ怖いから、ホントやめてください!
ああほら、挟まってるジジイからなんか、骨のポキポキ鳴る音がしてるから!
もうこのくらいにして、引き下がってくださいよ!?」
B07「くっ、押し返すのをやめるどころか、さらに強く押してくるではありませんか。
このままでは押し切られてしまいます。
足を踏ん張り、肩を入れて、押し込むようにしなければなりません。
ここまできたからには、意地というものがありますよ!」
A08「ほ、本気過ぎる! 何そのタックルみたいな姿勢は!?
俺も同じようにしないと、押し切られてジジイを全身で抱き締める事になりかねない。
さあ、これが俺の本気だ、諦めてその死体持って帰れよ!」
老01「ご、ぶふっ……! い、痛い、痛い痛い痛い!!」
A09「…………は?」
B08「…………おや?」
老02「な、何をするんじゃ!?」
A10「いや、何って……なあ?」
B09「ええ、まあ……ねえ?」
老03「わしのようなジジイを挟んで、何が楽しいんじゃ!?
ハッ……! ま、まさか!」
B10「まさか……?」
老04「このわしの、熟れた肉体を目当てにあんな事を!?」
A11「気持ち悪い事言ってんじゃねぇぞジジイー!?
さっきまで死んでたクセに、なんだその発想は!!」
B11「まったくです! 息を吹き返したからいいものの……!」
老05「あ、違う違う。わし、睡眠時無呼吸なんちゃらってやつでの?
息止まっても、心臓はちゃっかり動いておるのよ、これが」
A12「……つまり俺らは、何か恐ろしく不毛な争いをしていた事になるわけか?」
B12「認めたくはありませんが……そうなるでしょう」
A13「じゃあさ、もうさ、いっそ……な?」
B13「ええ、ええ。いいでしょう、そうするべきです」
老06「お、おい? お前さんら、なんじゃその物騒な目付きは。
いやいや、考え直せ! 老い先短いわしと違って、未来とかあるじゃろー!?」
車03「赤羽ー、赤羽ー。お降りの方は、忘れ物のないよう、ご注意下さーい」
終わり
**挟まれた老人
作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI
A:乗客。
B:乗客。
老人:数奇なる運命を人生の最終局面にて歩む者。
車掌:そのまんま。
SE:電車
車01「えー、次は赤羽ー、赤羽でございまーす」
A01「夜も遅くなると、電車には色んな奴が乗るもんだ。
いかにも疲れたって感じのリーマンや、音楽を聴きながらケータイをいじる大学生。
化粧の手直しをするOLは、これからまだ予定があるのだろうか。
とりあえずこんな時間に子連れの家族が電車に乗るな、せめてクソガキを黙らせろ。
ああイライラする。普段は気にもしないってのに、今日はやけにイライラしてしまう。
それというのも、隣に座ってるジジイだよ!
このジジイ、ちゃんと風呂に入ってんのか? 全身臭くってたまんねーぜ!
ったく、これだから電車は好きになれないんだ。
ちゃんとルールを守って、人に迷惑かけないようにしろよな。
あー……気分悪ィ。ジジイが臭いせいで、吐き気までしてきやがった。
このジジイ、なんでこんなに臭いんだ?
…………つーか、息してんのかこれ?」
B01「臭い。ええ、何が臭いかと言えば隣に座るご老人です。
人様を臭いと評すのは失礼だと理解していますが、こればかりはどうにも。
まるでそう、馬糞のような、とでも言えばいいのでしょうか。
人体が発するとは思えぬような悪臭が漂っておりまして、中々に辛いものがあります。
私の反対側、つまりご老人を挟むようにして座る男性も、これには辟易しているようですね。
……おや? 何やら驚いた顔をしていますが、何かあったのでしょうか?」
A02「おいおいおい、ちょっと待てジジイ。百歩譲って臭いのは勘弁してやってもいい。
けどな、よりにもよって、なんで俺の隣でぽっくりしてんだよ!
まさかボケ? これが老化によるボケですか? 呼吸の仕方を忘れたとか?
それともあれか、ストライキか。心臓が職務放棄かましちゃってるのか。
いや、そんなのはどうでもいい。問題は、反対側に座る男が俺を見ている事だ。
ジジイが死んでるっていうのに、なんだあの冷静な顔は。つか、なんで俺を観察してやがる。
ま、まさか……こいつがジジイに何かして、ジジイを殺したのか!?」
B02「大変です、どうした事でしょう。先ほどの男性が私をめっちゃ睨んでいます。
目は口ほどに物を言うとありますが、眼光だけで殺そうとしてるんじゃないかと思います。
ええと、私、何かしましたっけ?
とりあえず敵意はない事を伝えるために、微笑みかけてみましょう。にっこり」
A03「わ、笑ってやがる……! なんて奴だ……!
これで間違いないぜ。ジジイを殺したのはこいつだ!
あの笑顔は、騒いだら俺も殺すって意味だ。そうに違いない。
くそっ……! なんでこんな電車に、あんな恐ろしい殺し屋が乗ってるんだよ!?
なあ神様、俺が何かしたか? そんなに俺が嫌いなのか?
ああもう、ケガしていいから飛び降りてェ――ッ!!」
B03「なんかもう大変過ぎます。例の男性が、飛びてー、とか呟いています。
ひょっとすると彼は、薬物中毒か何かで、今まさにトリップしているのでは。
そうだとすると、私をあんな目で睨んだ事も納得がいきます。
彼は私を睨んだのではなく、幻覚によって別のものに見えた私を睨んでいたのでしょう。
しかしそんな人が電車に乗っているとは……この国の治安も落ちたものですね。
――おや、車内アナウンスが流れ始めましたね」
車02「えー、この先、揺れますのでご注意くださーい」
SE:振動
A04「ぬおっ……ジジイが、ジジイの死体がこっちに!?
外傷とかないし、ジジイの死因って毒か何かだよな?
って事は、触ったらヤバイじゃねーか! こっちくんな! あっちいけ!」
B04「なっ!? 倒れかけたご老人を、こちらに押し飛ばしてきましたよ!?
確かに臭いのは認めますが、か弱い老人になんて事をするのでしょう。
ご老人、大丈夫ですか――っていうか、息してませんね?
え、まさか死にました? 押し飛ばされて、この世からも飛び出しちゃいましたか?
……なんて、酷い事を。
薬物中毒だとしても、許される行いではありませんよ……!」
A05「うわあああ! や、やっぱ睨んでる! 超怒ってる!
けど俺だって、死体とくっついてるのなんて嫌だし!
元はと言えばお前が殺したジジイなんだから、責任取ってテイクアウトしろよ!?」
B05「な、なんという事でしょう……彼は怯えたように、激しく身悶えしているではありませんか。
そのクネクネした動きは、明らかに常軌を逸しています。理性は欠片も残っていないでしょう。
しかし私がここに偶然居合わせたのも、何かの運命なのでしょう。
まずは彼に、ご老人が死んでしまった事を認識させる必要があります。
死者を冒涜するようで気が引けまが、ご老人の死体を押し付けてやりましょう」
A06「何ー!? 何これ!? 何が起きてるの!?
どうしてこいつ、ジジイの死体をぐりぐり押し付けてくるんだよ!?
やり返すにしても、もっと別の方法がいくらでもあるだろ!
怖いっつーかキモイ! キモ怖い!
その死体、もうお前が持ってろよ!」
B06「馬鹿な、ご老人の遺体を押し返してくるだなんて!
彼には死者を尊ぶ気持ちなど、欠片もないという事なのでしょうか。
いえ、それだけではありません。
ご老人が亡くなっている事を理解しながら、私へやり返すかのように遺体を押しているのです。
まるでゲームに興じているようではありませんか!
遺体を弄び、ゲームの道具にするとは、まさに悪鬼の所業。
ですが私も、ここで引き下がるわけにはいかないのです……!」
A07「なんでだよー!? なんでもっと強く押してくるの!?
ごめ、ごめんなさい! キモ怖いとか思ってごめんなさい!
もう怖いだけだから、マジ怖いから、ホントやめてください!
ああほら、挟まってるジジイからなんか、骨のポキポキ鳴る音がしてるから!
もうこのくらいにして、引き下がってくださいよ!?」
B07「くっ、押し返すのをやめるどころか、さらに強く押してくるではありませんか。
このままでは押し切られてしまいます。
足を踏ん張り、肩を入れて、押し込むようにしなければなりません。
ここまできたからには、意地というものがありますよ!」
A08「ほ、本気過ぎる! 何そのタックルみたいな姿勢は!?
俺も同じようにしないと、押し切られてジジイを全身で抱き締める事になりかねない。
さあ、これが俺の本気だ、諦めてその死体持って帰れよ!」
老01「ご、ぶふっ……! い、痛い、痛い痛い痛い!!」
A09「…………は?」
B08「…………おや?」
老02「な、何をするんじゃ!?」
A10「いや、何って……なあ?」
B09「ええ、まあ……ねえ?」
老03「わしのようなジジイを挟んで、何が楽しいんじゃ!?
ハッ……! ま、まさか!」
B10「まさか……?」
老04「このわしの、熟れた肉体を目当てにあんな事を!?」
A11「気持ち悪い事言ってんじゃねぇぞジジイー!?
さっきまで死んでたクセに、なんだその発想は!!」
B11「まったくです! 息を吹き返したからいいものの……!」
老05「あ、違う違う。わし、睡眠時無呼吸なんちゃらってやつでの?
息止まっても、心臓はちゃっかり動いておるのよ、これが」
A12「……つまり俺らは、何か恐ろしく不毛な争いをしていた事になるわけか?」
B12「認めたくはありませんが……そうなるでしょう」
A13「じゃあさ、もうさ、いっそ……な?」
B13「ええ、ええ。いいでしょう、そうするべきです」
老06「お、おい? お前さんら、なんじゃその物騒な目付きは。
いやいや、考え直せ! 老い先短いわしと違って、未来とかあるじゃろー!?」
車03「赤羽ー、赤羽ー。お降りの方は、忘れ物のないよう、ご注意下さーい」
終わり