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**飛ぶ子供 製作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI ※注意 企画:夢の鬼の番外編のようなもの、です。 登場人物     トヨカ……視える女性。大学生。    カマツカ……死神もどきの黒猫。      子供……女の子。      女子A、女子B……噂好き。 【シーン1:プロローグ】子供役の語り。  雨が降りました。  雨が降りました。  雨が降りました。  私が降りました。  私が落ちました。  私が私が私が私が私が私が私が私が私が  私が私が私が私が私が私が私が私が私が  私が私が私が私が私が私が私が私が私が。  降って、落ちて、潰れてぐちゃり。  真っ赤なお花が咲きました。  雨に降られて赤い川。  潰れたトマトが運ばれます。 【シーン2:噂を聞いて】 トヨカ「おはよう。ねえ、経済史のレポートやった?」 女子A「やってなーい。どうしよ、提出明日までなのに……。     ねえトヨカ、お願い! ちょっと見せて?」 トヨカ「ダメダメ、あの先生は写したらバレるよ。     大変かもしれないけど、今回は自分でやるのが正解だからね?」 女子A「そこをなんとか! ちょっと参考にするだけだから。ね?」 トヨカ「いいから自分でやりなって。     参考資料ぐらいは教えてあげるから、自力で頑張るコト!」 女子A「むー。トヨカの鬼ー、ケチんぼー。     もうお弁当忘れたって、食べ物分けてあげないからね!?」 トヨカ「あ、それは困る。……じゃ、写すのはまずいから、アドバイスだけで」 女子A「プラス、大丈夫かどうかのチェック!」 トヨカ「オッケー。これで契約成立だね」 トヨカ・女子A「よし!」 女子B「朝っぱらから元気ねー……」 トヨカ「どうしたの? そっちこそ、やけに憂鬱っぽいけど」 女子B「それがさ、嫌なもの見ちゃってね……。     うちのマンションで、小学生の女の子が飛び降り自殺したの」 女子A「あ、それニュースで見た! あんたの所だったんだ」 女子B「そ、うちの所。昨日の夕方かな、外から悲鳴がしてさ。     何かと思ってベランダに出たら、真下に死体があるんだもん……。     さすがに気持ち悪くなって、昨日はあんまり寝れなかったよ」 女子A「うっわー、大変そう……。     テレビとか来てたみたいだけど、そっちは大丈夫?」 女子B「全然。マスコミって夜中でもうるさいんだよ、信じられない。     そりゃ事件だっていうのは分かるけど、あんなの非常識だよ」 トヨカ「……でもさ。その子、なんで自殺なんかしたのかな?」 女子B「さあ? どーせイジメか虐待じゃない?     子供が自殺する理由なんてそれくらいでしょ」 女子A「あーあ。嫌な世の中だねー。     ここ数年、暗いニュースばっかで嫌になるよ」 トヨカ「ぼやいてないで、経済史のレポートもやらなきゃね?」 女子A「うあー。ニュースも勉学も、お先真っ暗だー」 【シーン3:その現場を訪れて】トヨカの一人称シーン。  ……子供の自殺、か。  こういう話は悲惨だけど、それだけで終わらないのが困る。  大人と子供の自殺は根本的に違う。  大人は何かに絶望したり、日々に疲れて自殺を選んだりする。  だけど子供の場合は、自殺に宿る感情がそれだけじゃない。  死を見せ付ける事で、何らかの自己主張をする――そんなケースがある。  主張したところで、死んでしまったら意味なんかないのに。  ……まあいい。自殺の意味なんて、私が考える事じゃない。  自殺の理由だって――どうでもいいと言えば、どうでもいい。  私が確認しておきたいのは、自殺した子に執着があったかどうかだけ。  もしこの世に対する執着があれば……その子は、きっとまだいる。  だから私は、大学から帰るその足で、現場のマンションを訪れていた。 トヨカ「……やっぱり、現場は封鎖されてるか」  現場を直接視るのが一番だけど、さすがに警察は怖い。  屋上はどうかなと考えたけど、そちらも出入り禁止になってるだろう。  自殺した子の家に行くのは……遺族の感情もあるし、やめといた方が無難かな。  やれやれ。聞き込みなんかは避けたいし、今日のところは引き上げようかな……。  子供「おねーちゃん、どこ行くの?」  ……後ろからの声。  ああ、なるほど……視られていたのは、こっちだったのか。  私は意を決して振り向くが―― トヨカ「…………っ」  ――その姿に、思わず息が詰まった。  割れた頭。  半分だけの顔。  赤い、小さな体。  奇妙に折れ曲がった手足。  ……単純に壊れた姿は、人間のカタチだと認識するのに時間がかかった。 トヨカ「君は……何をしてるの?」  子供「おねーちゃん、遊ぼ」 トヨカ「……何をして?」  子供「なんでもいい。だから……ね、遊ぼ!」 トヨカ「……やだよ」  子供「なんで? ねえ、遊ぼ? 遊ぼうよぉー? おねーちゃん、私と遊んでよ。     おねーちゃん――私、視えてるんでしょ?」 トヨカ「帰る!!」  私はその場から逃げ出した。  あの子が怖くなかったと言えば、それは嘘になると思う。  だけど、それ以上に……分かってしまうのだ。  あの子にはきっと、友達がいなかった。  だから遊びたがる。  誰でもいいから友達にして、遊びたがる。  あの子が死後も執着する感情は、それ。  おそらくは……学校で、いじめられていた。  なのに、望んだのは復讐なんかじゃない。  遊んでくれる友達を、あの子は望んだのだ。  なんて悲しくて――なんて、恐ろしい。 【シーン4:落ちる】一人称部分はトヨカ。 カマツカ「――つまり、その亡霊をあちらへ送ればよいのですな?」  トヨカ「うん。あの子はちょっと、危ないから……。      誰でもいいから友達にして、遊びたがる。      他人しか見えてなくて、誰が相手でも巻き込むから」 カマツカ「ふむ……そこまで視るとは、さすがトヨカ様。      猫の目は闇を見通しますが、トヨカ様の目は人を見通すのですな」  トヨカ「褒めたって何も出ないよ。      ……それにカマツカは猫なのに、暗い所得意じゃないでしょ」 カマツカ「ワタクシは半端者ですからな。      死神の成り損ない。死神とも化け猫とも呼べぬ、未熟者でございます」  トヨカ「だったら、もう一度お山で修行すればいいのに。      前から思ってたけど……カマツカって、今の状態にこだわってない?」 カマツカ「この半端な身なればこそ、許される事もまた多いものでして。      ――さて、お喋りはこのくらいにして、件の亡霊退治へ行きましょうぞ」  トヨカ「このマンションだよ」 カマツカ「ほほう、ここでございますか。      む……確かにちと、空気が澱んでおりますな」  トヨカ「あの子は……いた。あそこ、視える?」 カマツカ「今はトヨカ様が目になっておりますので。      ほほう、なんとまあ若い魂……さぞや執着も強いのでしょうな」   子供「あ、おねーちゃん! 今度はネコさんも。      ねえ、遊ぼ? 今度は遊んでくれるよね?」  トヨカ「……ダメだよ。君とだけは、遊べない」   子供「なんで? どうして? ねえ、遊ぼうよ!」  トヨカ「言って分かるかな――君はもう、死んでるからダメ」   子供「分かんない。だから、遊ぼ?      おねーちゃん、私と遊んで。遊ばなきゃ、ダメなの」  トヨカ「……聞き分けのない子は嫌いだよ。      素直に聞いてくれたら、ちゃんと彼岸に渡れたのに……」   子供「なんのこと? どうでもいいから、遊ぼうよ!」 カマツカ「……トヨカ様。本当に、やるのですか?」  トヨカ「やって。この子は見逃すと、よくないから」 カマツカ「では――――」   子供「ネコさん、そんなに口開けてどうしたの?      ……やだ。やめて……やだ、なんか、やだ……!!」  トヨカ「カマツカの口は、あらゆる冥府に繋がるトンネル――――。      悪いけど、君には似合いの地獄へ落ちてもらうよ」   子供「や、やだ! 行きたくない、落ちたくない……!      おねーちゃんと遊びたい!!」  トヨカ「……でも、落ちるのを選んだのは君でしょ?      いつまでもしがみ付いてないで、――さっさと落ちなさい」   子供「やだ……!! やだ、やだ、やだぁ……!      私、遊んでない……遊んでもらってない……!      ここで遊ぶから、どこにも行きたくなんかない!!」  トヨカ「うるさい。――カマツカ、やって」 カマツカ「では、あちら側へ渡します――――」  カマツカの口が、さらに大きく開いた瞬間。  あの子は口の中へ吸い込まれ、どこへ通じるかも分からない闇に落ちた。 カマツカ「……ふむ。賽の河原にすら、落ちませなんだようで」  トヨカ「じゃあ……それこそ、本当の地獄に?」 カマツカ「幼い者の自殺は、それほど罪深いものでしてな。      救いのない話ではございますが、転生の資格も剥奪された事でしょう」  トヨカ「そう……」 カマツカ「トヨカ様はお優しいのですな。      たかが亡霊の末路に、同情なさるのですから」  トヨカ「そんな事ないよ……私には、あの子を救う事なんてできない。      同情なんて――自己満足でしかないのに」 カマツカ「トヨカ様……」  トヨカ「まいったなぁ……結構、割り切ってるつもりだったんだけど。      救いのない話って、当事者以外も救われないね?」 カマツカ「……自ら死を選ぶ者に、元より救いなどありませぬ。      どうか、その点だけは間違えませぬように」  トヨカ「うん、分かってる……。      ああそうだ、あの子をいじめてた連中、どんな奴か調べてくれる?」 カマツカ「……それを知って、どうなさるおつもりで?」  トヨカ「ちょっとだけ、悪夢を見せてあげようかなって。      このまま忘れられたら――あんまりにも、救いがなさ過ぎるから」 カマツカ「やれやれ……トヨカ様。術の悪用はご法度ですぞ?」  トヨカ「誰かが言わなきゃ、どこにも広まらないと思うけど?」 カマツカ「まあ……猫は喋らぬ生き物ですからな」  トヨカ「……うん。ありがとう、カマツカ」  こうして、一つの事件が終わった。  世間的にはよくある暗いニュースの一つとして。  関わった者には、救いのない話として。  ……けれどあの子は、どうして死を選んでしまったのか。  本当は――空でも飛んで、遊ぼうとしてたのかな。 終わり
**飛ぶ子供 製作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI ※注意 企画:夢の鬼の番外編のようなもの、です。 登場人物     トヨカ……視える女性。大学生。    カマツカ……死神もどきの黒猫。      子供……女の子。      女子A、女子B……噂好き。 【シーン1:プロローグ】子供役の語り。  雨が降りました。  雨が降りました。  雨が降りました。  私が降りました。  私が落ちました。  私が私が私が私が私が私が私が私が私が  私が私が私が私が私が私が私が私が私が  私が私が私が私が私が私が私が私が私が。  降って、落ちて、潰れてぐちゃり。  真っ赤なお花が咲きました。  雨に降られて赤い川。  潰れたトマトが運ばれます。 【シーン2:噂を聞いて】 トヨカ「おはよう。ねえ、経済史のレポートやった?」 女子A「やってなーい。どうしよ、提出明日までなのに……。     ねえトヨカ、お願い! ちょっと見せて?」 トヨカ「ダメダメ、あの先生は写したらバレるよ。     大変かもしれないけど、今回は自分でやるのが正解だからね?」 女子A「そこをなんとか! ちょっと参考にするだけだから。ね?」 トヨカ「いいから自分でやりなって。     参考資料ぐらいは教えてあげるから、自力で頑張るコト!」 女子A「むー。トヨカの鬼ー、ケチんぼー。     もうお弁当忘れたって、食べ物分けてあげないからね!?」 トヨカ「あ、それは困る。……じゃ、写すのはまずいから、アドバイスだけで」 女子A「プラス、大丈夫かどうかのチェック!」 トヨカ「オッケー。これで契約成立だね」 トヨカ・女子A「よし!」 女子B「朝っぱらから元気ねー……」 トヨカ「どうしたの? そっちこそ、やけに憂鬱っぽいけど」 女子B「それがさ、嫌なもの見ちゃってね……。     うちのマンションで、小学生の女の子が飛び降り自殺したの」 女子A「あ、それニュースで見た! あんたの所だったんだ」 女子B「そ、うちの所。昨日の夕方かな、外から悲鳴がしてさ。     何かと思ってベランダに出たら、真下に死体があるんだもん……。     さすがに気持ち悪くなって、昨日はあんまり寝れなかったよ」 女子A「うっわー、大変そう……。     テレビとか来てたみたいだけど、そっちは大丈夫?」 女子B「全然。マスコミって夜中でもうるさいんだよ、信じられない。     そりゃ事件だっていうのは分かるけど、あんなの非常識だよ」 トヨカ「……でもさ。その子、なんで自殺なんかしたのかな?」 女子B「さあ? どーせイジメか虐待じゃない?     子供が自殺する理由なんてそれくらいでしょ」 女子A「あーあ。嫌な世の中だねー。     ここ数年、暗いニュースばっかで嫌になるよ」 トヨカ「ぼやいてないで、経済史のレポートもやらなきゃね?」 女子A「うあー。ニュースも勉学も、お先真っ暗だー」 【シーン3:その現場を訪れて】トヨカの一人称シーン。  ……子供の自殺、か。  こういう話は悲惨だけど、それだけで終わらないのが困る。  大人と子供の自殺は根本的に違う。  大人は何かに絶望したり、日々に疲れて自殺を選んだりする。  だけど子供の場合は、自殺に宿る感情がそれだけじゃない。  死を見せ付ける事で、何らかの自己主張をする――そんなケースがある。  主張したところで、死んでしまったら意味なんかないのに。  ……まあいい。自殺の意味なんて、私が考える事じゃない。  自殺の理由だって――どうでもいいと言えば、どうでもいい。  私が確認しておきたいのは、自殺した子に執着があったかどうかだけ。  もしこの世に対する執着があれば……その子は、きっとまだいる。  だから私は、大学から帰るその足で、現場のマンションを訪れていた。 トヨカ「……やっぱり、現場は封鎖されてるか」  現場を直接視るのが一番だけど、さすがに警察は怖い。  屋上はどうかなと考えたけど、そちらも出入り禁止になってるだろう。  自殺した子の家に行くのは……遺族の感情もあるし、やめといた方が無難かな。  やれやれ。聞き込みなんかは避けたいし、今日のところは引き上げようかな……。  子供「おねーちゃん、どこ行くの?」  ……後ろからの声。  ああ、なるほど……視られていたのは、こっちだったのか。  私は意を決して振り向くが―― トヨカ「…………っ」  ――その姿に、思わず息が詰まった。  割れた頭。  半分だけの顔。  赤い、小さな体。  奇妙に折れ曲がった手足。  ……単純に壊れた姿は、人間のカタチだと認識するのに時間がかかった。 トヨカ「君は……何をしてるの?」  子供「おねーちゃん、遊ぼ」 トヨカ「……何をして?」  子供「なんでもいい。だから……ね、遊ぼ!」 トヨカ「……やだよ」  子供「なんで? ねえ、遊ぼ? 遊ぼうよぉー? おねーちゃん、私と遊んでよ。     おねーちゃん――私、視えてるんでしょ?」 トヨカ「帰る!!」  私はその場から逃げ出した。  あの子が怖くなかったと言えば、それは嘘になると思う。  だけど、それ以上に……分かってしまうのだ。  あの子にはきっと、友達がいなかった。  だから遊びたがる。  誰でもいいから友達にして、遊びたがる。  あの子が死後も執着する感情は、それ。  おそらくは……学校で、いじめられていた。  なのに、望んだのは復讐なんかじゃない。  遊んでくれる友達を、あの子は望んだのだ。  なんて悲しくて――なんて、恐ろしい。 【シーン4:落ちる】一人称部分はトヨカ。 カマツカ「――つまり、その亡霊をあちらへ送ればよいのですな?」  トヨカ「うん。あの子はちょっと、危ないから……。      誰でもいいから友達にして、遊びたがる。      他人しか見えてなくて、誰が相手でも巻き込むから」 カマツカ「ふむ……そこまで視るとは、さすがトヨカ様。      猫の目は闇を見通しますが、トヨカ様の目は人を見通すのですな」  トヨカ「褒めたって何も出ないよ。      ……それにカマツカは猫なのに、暗い所得意じゃないでしょ」 カマツカ「ワタクシは半端者ですからな。      死神の成り損ない。死神とも化け猫とも呼べぬ、未熟者でございます」  トヨカ「だったら、もう一度お山で修行すればいいのに。      前から思ってたけど……カマツカって、今の状態にこだわってない?」 カマツカ「この半端な身なればこそ、許される事もまた多いものでして。      ――さて、お喋りはこのくらいにして、件の亡霊退治へ行きましょうぞ」  トヨカ「このマンションだよ」 カマツカ「ほほう、ここでございますか。      む……確かにちと、空気が澱んでおりますな」  トヨカ「あの子は……いた。あそこ、視える?」 カマツカ「今はトヨカ様が目になっておりますので。      ほほう、なんとまあ若い魂……さぞや執着も強いのでしょうな」   子供「あ、おねーちゃん! 今度はネコさんも。      ねえ、遊ぼ? 今度は遊んでくれるよね?」  トヨカ「……ダメだよ。君とだけは、遊べない」   子供「なんで? どうして? ねえ、遊ぼうよ!」  トヨカ「言って分かるかな――君はもう、死んでるからダメ」   子供「分かんない。だから、遊ぼ?      おねーちゃん、私と遊んで。遊ばなきゃ、ダメなの」  トヨカ「……聞き分けのない子は嫌いだよ。      素直に聞いてくれたら、ちゃんと彼岸に渡れたのに……」   子供「なんのこと? どうでもいいから、遊ぼうよ!」 カマツカ「……トヨカ様。本当に、やるのですか?」  トヨカ「やって。この子は見逃すと、よくないから」 カマツカ「では――――」   子供「ネコさん、そんなに口開けてどうしたの?      ……やだ。やめて……やだ、なんか、やだ……!!」  トヨカ「カマツカの口は、あらゆる冥府に繋がるトンネル――――。      悪いけど、君には似合いの地獄へ落ちてもらうよ」   子供「や、やだ! 行きたくない、落ちたくない……!      おねーちゃんと遊びたい!!」  トヨカ「……でも、落ちるのを選んだのは君でしょ?      いつまでもしがみ付いてないで、――さっさと落ちなさい」   子供「やだ……!! やだ、やだ、やだぁ……!      私、遊んでない……遊んでもらってない……!      ここで遊ぶから、どこにも行きたくなんかない!!」  トヨカ「うるさい。――カマツカ、やって」 カマツカ「では、あちら側へ渡します――――」  カマツカの口が、さらに大きく開いた瞬間。  あの子は口の中へ吸い込まれ、どこへ通じるかも分からない闇に落ちた。 カマツカ「……ふむ。賽の河原にすら、落ちませなんだようで」  トヨカ「じゃあ……それこそ、本当の地獄に?」 カマツカ「幼い者の自殺は、それほど罪深いものでしてな。      救いのない話ではございますが、転生の資格も剥奪された事でしょう」  トヨカ「そう……」 カマツカ「トヨカ様はお優しいのですな。      たかが亡霊の末路に、同情なさるのですから」  トヨカ「そんな事ないよ……私には、あの子を救う事なんてできない。      同情なんて――自己満足でしかないのに」 カマツカ「トヨカ様……」  トヨカ「まいったなぁ……結構、割り切ってるつもりだったんだけど。      救いのない話って、当事者以外も救われないね?」 カマツカ「……自ら死を選ぶ者に、元より救いなどありませぬ。      どうか、その点だけは間違えませぬように」  トヨカ「うん、分かってる……。      ああそうだ、あの子をいじめてた連中、どんな奴か調べてくれる?」 カマツカ「……それを知って、どうなさるおつもりで?」  トヨカ「ちょっとだけ、悪夢を見せてあげようかなって。      このまま忘れられたら――あんまりにも、救いがなさ過ぎるから」 カマツカ「やれやれ……トヨカ様。術の悪用はご法度ですぞ?」  トヨカ「誰かが言わなきゃ、どこにも広まらないと思うけど?」 カマツカ「まあ……猫は喋らぬ生き物ですからな」  トヨカ「……うん。ありがとう、カマツカ」  こうして、一つの事件が終わった。  世間的にはよくある暗いニュースの一つとして。  関わった者には、救いのない話として。  ……けれどあの子は、どうして死を選んでしまったのか。  本当は――空でも飛んで、遊ぼうとしてたのかな。 終わり

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