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**ぬるい麦茶はいかがですか 製作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI あらすじ 白い世界に生きる人のお話。 登場人物     男……若い男。     女……若い女性。    ナレ……ナレーション  白い街が広がる。  家も、ビルも、街路樹も……何もかもが白い、真白の街だ。  陽射しを受けて煌めくその白は、けれど建造物などが持つ本来の色ではなかった。  塩だ。  全ての物質は結晶化した塩に覆われ、白以外の色は存在しない。  あるとすれば、それは空の見せる冷徹な青色だけだ。  乾いた街の空は同じく乾いており、雲一つない。  遮るものない陽射しは、僅かに残る住民を苦しめ、熱を放っている。  ある者は諦めたように吐息を洩らし、憎々しげに空を睨んだ。  しかし睨まれた空の下を往く、一人の若い男がいた。  強い紫外線から身を守るためだろう、全身を黒の服に包んだ若者だ。  塩の大地を踏み締め、汗で前髪を額に貼り付けて。  しっかりとした足取りで、彼はどこかを目指していた。 男「もうちょっと……もうちょっとだ……」  白い世界で、黒い旅人は呟いた。 男「やっと……手に入れたんだ……」  あらゆる生を拒むよな街で、まだ生きている彼は歩き続ける。 男「……神様。もう少しだけ、時間をください……!」  痛切な声で祈りながら、彼は一軒の廃屋へと入って行く。  今にも崩れそうな、やはり白い、塩に支配された廃屋。  その中には、彼を待つ若い女がいた。 男「待たせた……今、戻ったよ。   ずっと前の、最後の約束を果たしに来た」 女「…………遅刻ね」 男「すまない……でも、約束は守れそうだ」 女「じゃあ……約束の物、見せてくれる?」 男「ああ!」  頷いた男が取り出すのは、古びた水筒だ。  中身は僅かなようで、随分と軽そうに見える。  けれど女は目を細め、とても嬉しそうに笑っていた。 女「本当に……まだ、残ってたんだ」 男「少しだけな。冷たかったら、もっといいんだけど……」 女「……いい。飲めるだけで、考えられないぐらい幸運なんだから」 男「ああ、そうだな……じゃあ、悪いけどこのままで」  差し出された水筒を受け取り、女はその中身を飲む。  薄い琥珀色の、美しい液体だった。 女「……美味しい」 男「これで……満足か?」 女「うん――これで、心置きなく死ねる」 男「……そっか。じゃあ、俺はもう行くよ」 女「さようなら……アナタはどうか、私のようにならないでね」  そう言って、男を見送る女――その体は、半ば塩の結晶となっていた。  誰が見ても同じ事を言うだろう。  ……この女はすぐにでも死ぬ、と。 男「――どうして、こんな世界になったんだろうな」 女「さあ……でも、私はもう助からない。   それだけが、はっきりしてる真実だから」  振り返らずに行け、と。  言葉に背中を押されて、男は白い街へと戻る。  いつ果てるとも知れぬ体で、果てがあるかも分からぬ白い世界を生きる。  ただ、それでも彼は、呟かずにはいられなかった。 男「……塩よりも、涙の方がしょっぱいな」
**ぬるい麦茶はいかがですか 製作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI あらすじ 白い世界に生きる人のお話。 登場人物     男……若い男。     女……若い女性。    ナレ……ナレーション  白い街が広がる。  家も、ビルも、街路樹も……何もかもが白い、真白の街だ。  陽射しを受けて煌めくその白は、けれど建造物などが持つ本来の色ではなかった。  塩だ。  全ての物質は結晶化した塩に覆われ、白以外の色は存在しない。  あるとすれば、それは空の見せる冷徹な青色だけだ。  乾いた街の空は同じく乾いており、雲一つない。  遮るものない陽射しは、僅かに残る住民を苦しめ、熱を放っている。  ある者は諦めたように吐息を洩らし、憎々しげに空を睨んだ。  しかし睨まれた空の下を往く、一人の若い男がいた。  強い紫外線から身を守るためだろう、全身を黒の服に包んだ若者だ。  塩の大地を踏み締め、汗で前髪を額に貼り付けて。  しっかりとした足取りで、彼はどこかを目指していた。 男「もうちょっと……もうちょっとだ……」  白い世界で、黒い旅人は呟いた。 男「やっと……手に入れたんだ……」  あらゆる生を拒むよな街で、まだ生きている彼は歩き続ける。 男「……神様。もう少しだけ、時間をください……!」  痛切な声で祈りながら、彼は一軒の廃屋へと入って行く。  今にも崩れそうな、やはり白い、塩に支配された廃屋。  その中には、彼を待つ若い女がいた。 男「待たせた……今、戻ったよ。   ずっと前の、最後の約束を果たしに来た」 女「…………遅刻ね」 男「すまない……でも、約束は守れそうだ」 女「じゃあ……約束の物、見せてくれる?」 男「ああ!」  頷いた男が取り出すのは、古びた水筒だ。  中身は僅かなようで、随分と軽そうに見える。  けれど女は目を細め、とても嬉しそうに笑っていた。 女「本当に……まだ、残ってたんだ」 男「少しだけな。冷たかったら、もっといいんだけど……」 女「……いい。飲めるだけで、考えられないぐらい幸運なんだから」 男「ああ、そうだな……じゃあ、悪いけどこのままで」  差し出された水筒を受け取り、女はその中身を飲む。  薄い琥珀色の、美しい液体だった。 女「……美味しい」 男「これで……満足か?」 女「うん――これで、心置きなく死ねる」 男「……そっか。じゃあ、俺はもう行くよ」 女「さようなら……アナタはどうか、私のようにならないでね」  そう言って、男を見送る女――その体は、半ば塩の結晶となっていた。  誰が見ても同じ事を言うだろう。  ……この女はすぐにでも死ぬ、と。 男「――どうして、こんな世界になったんだろうな」 女「さあ……でも、私はもう助からない。   それだけが、はっきりしてる真実だから」  振り返らずに行け、と。  言葉に背中を押されて、男は白い街へと戻る。  いつ果てるとも知れぬ体で、果てがあるかも分からぬ白い世界を生きる。  ただ、それでも彼は、呟かずにはいられなかった。 男「……塩よりも、涙の方がしょっぱいな」

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