「免許のある未来」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「免許のある未来」(2010/10/19 (火) 04:00:03) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**免許のある未来
作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI
私:14歳の大人。
ヒデキ:27歳の子供。
ヒ01「――よう、おめでとう。試験に受かったんだろ? 親から聞いたよ」
私01「イトコのヒデキは、いつものように。
シニカルな笑顔を浮かべて、そう言った」
ヒ02「あとは病院で検査するだけだな。
ま、お前はもう14歳だし、たぶんと大丈夫だと思うぜ」
私02「何が大丈夫なのだろう。大丈夫と言い切れるわけがないのに。
他の人はともかく、ヒデキだけは言い切れる筈がないのに」
ヒ03「つーか、ふらふら出歩いていいのか?
俺なんかと違って、お前は期待されてるんだ――しっかりしろよ」
私03「期待して欲しいと思った事は、一度もない。
そんなものは、いつだって重くてうっとうしいのに」
ヒ04「おいおい、なんだよ暗い顔して黙り込んでよ。
お前はもうすぐ、大人になるんだから――もう、子供じゃないんだから」
私04「――なりたくて、大人になるわけじゃないよ」
私05「そう答える事しか、できなくて。
ヒデキは困ったように笑うと、タバコをくわえて空を仰いだ。
私が子供として見るのは、最後になるだろう茜空を」
(間)
私06「――私が生まれるずっと前の話だ。
いつだったかは知らないけど、大人の社会責任を問われた時代があった。
未成年者の凶悪犯罪が増加して、大人に責任があるんじゃないのかって言われた。
その議論は段々と暴走して、最後にはこうなった。
大人になるための試験を用意して、合格した人にだけ大人免許を発行する。
大人免許を持たない人は、いつまでも子供のままで。
逆に免許さえ持っていれば、何歳でも大人になる事ができるようになった」
ヒ05「なあ。俺はこの歳でも無免許でさ――正直、ずっと子供のままだと思う。
親戚連中からも嫌われまくってるの、知ってるだろ?」
私07「そうだね――ヒデキは、子供だから嫌われてる」
ヒ06「あの試験――大人試験は、公序良俗に反する奴は合格しない。
精神年齢がガキ過ぎる奴も、合格させてもらえない。
……ついでに言うと、ガキを作れない奴も永遠に不合格だ」
私08「ヒデキは――大人になりたいの?」
ヒ07「さぁてな。俺は永遠に不合格だからよ、はなから考えてないんだ。そういうの。
だけどお前は大人になる――大人になれるんだから、しっかりしてくれよ。
子供のままだったら、俺みたいに嫌われちまうぜ?」
私09「親戚が集まるたびに、ヒデキは陰口を叩かれてきた。
彼自身には責任なんて少しもないけれど、彼は大人になれないから。
もう、大人になってしまった人達が、蔑むように馬鹿にした。
私には――どっちが子供なのか、よく分からなかった」
ヒ08「あ、もしかしてナイーブになってんのか?
そりゃそうだよな、いよいよ大人になるんだ、色々不安もあるだろうさ。
そこんところ、分かってやれなくて悪かったな」
私10「私を気遣ってくれるヒデキ。年老いて、お爺さんになっても、ずっと子供のヒデキ。
だけどその中身は、たとえ無免許でも、親戚の中では一番大人だと思う。
公序良俗に、反しないだけの大人よりも――ずっと、ずっと」
ヒ09「でもさ――いくら不安になっても、子供でいたい、なんて言うなよ?
そんな事を言ったが最後、お前はずっと不合格だぞ」
私11「……大丈夫。ちゃんと、大人になりたいとは思ってるよ」
ヒ10「そうか? それならいいんだが」
私12「そう、私は大人になりたいと思っている。
公序良俗に反しないだけの大人ではなく、ちゃんとした大人に。
たとえ無免許だとしても、本当の大人になりたいと思っている――――」
(間)
ヒ11「……で? どうしてお前は、試験で満点出しながら不合格になったんだ?」
私13「あれから数日。私が不合格になったと聞いて、家にヒデキがやって来た。
だから私は、彼に胸を張って答えた」
私14「病院でね、尊敬する大人は誰かって訊かれたから、ヒデキだって答えた。
そしたら不合格だって言われた――頭おかしいよね、大人って」
ヒ12「…………ああ、いや、たぶん頭おかしいのはお前だ。
俺はちっともそうだとは思わないが――社会的には、お前の頭がおかしいんだろうな」
私15「そうだろうね――だけど、これでいいんだよ。
子供は子供らしく、自分に正直じゃないとね」
ヒ13「ヒネたガキだなオイ……まったく、誰に似たのやら」
私16「誰だろうねー? あ、そうだヒデキ。私が高校卒業したら、一緒に暮らそうよ」
ヒ14「は?」
私17「私達はもう、ずっと子供だから。
大人が許してくれるように、おままごとをしよう」
ヒ15「ホント、お前って奴はよぅ……」
私18「きっと、これでいいのだと思う。
大人は正しいけれど、いつだって正しいわけじゃない。
間違えられた私達は、何かが間違った社会で、正しく生きていけばいい。
いつか間違いが正される、その日まで」
終わり
**免許のある未来
作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI
私:14歳の大人。
ヒデキ:27歳の子供。
ヒ01「――よう、おめでとう。試験に受かったんだろ? 親から聞いたよ」
私01「イトコのヒデキは、いつものように。
シニカルな笑顔を浮かべて、そう言った」
ヒ02「あとは病院で検査するだけだな。
ま、お前はもう14歳だし、たぶんと大丈夫だと思うぜ」
私02「何が大丈夫なのだろう。大丈夫と言い切れるわけがないのに。
他の人はともかく、ヒデキだけは言い切れる筈がないのに」
ヒ03「つーか、ふらふら出歩いていいのか?
俺なんかと違って、お前は期待されてるんだ――しっかりしろよ」
私03「期待して欲しいと思った事は、一度もない。
そんなものは、いつだって重くてうっとうしいのに」
ヒ04「おいおい、なんだよ暗い顔して黙り込んでよ。
お前はもうすぐ、大人になるんだから――もう、子供じゃないんだから」
私04「――なりたくて、大人になるわけじゃないよ」
私05「そう答える事しか、できなくて。
ヒデキは困ったように笑うと、タバコをくわえて空を仰いだ。
私が子供として見るのは、最後になるだろう茜空を」
(間)
私06「――私が生まれるずっと前の話だ。
いつだったかは知らないけど、大人の社会責任を問われた時代があった。
未成年者の凶悪犯罪が増加して、大人に責任があるんじゃないのかって言われた。
その議論は段々と暴走して、最後にはこうなった。
大人になるための試験を用意して、合格した人にだけ大人免許を発行する。
大人免許を持たない人は、いつまでも子供のままで。
逆に免許さえ持っていれば、何歳でも大人になる事ができるようになった」
ヒ05「なあ。俺はこの歳でも無免許でさ――正直、ずっと子供のままだと思う。
親戚連中からも嫌われまくってるの、知ってるだろ?」
私07「そうだね――ヒデキは、子供だから嫌われてる」
ヒ06「あの試験――大人試験は、公序良俗に反する奴は合格しない。
精神年齢がガキ過ぎる奴も、合格させてもらえない。
……ついでに言うと、ガキを作れない奴も永遠に不合格だ」
私08「ヒデキは――大人になりたいの?」
ヒ07「さぁてな。俺は永遠に不合格だからよ、はなから考えてないんだ。そういうの。
だけどお前は大人になる――大人になれるんだから、しっかりしてくれよ。
子供のままだったら、俺みたいに嫌われちまうぜ?」
私09「親戚が集まるたびに、ヒデキは陰口を叩かれてきた。
彼自身には責任なんて少しもないけれど、彼は大人になれないから。
もう、大人になってしまった人達が、蔑むように馬鹿にした。
私には――どっちが子供なのか、よく分からなかった」
ヒ08「あ、もしかしてナイーブになってんのか?
そりゃそうだよな、いよいよ大人になるんだ、色々不安もあるだろうさ。
そこんところ、分かってやれなくて悪かったな」
私10「私を気遣ってくれるヒデキ。年老いて、お爺さんになっても、ずっと子供のヒデキ。
だけどその中身は、たとえ無免許でも、親戚の中では一番大人だと思う。
公序良俗に、反しないだけの大人よりも――ずっと、ずっと」
ヒ09「でもさ――いくら不安になっても、子供でいたい、なんて言うなよ?
そんな事を言ったが最後、お前はずっと不合格だぞ」
私11「……大丈夫。ちゃんと、大人になりたいとは思ってるよ」
ヒ10「そうか? それならいいんだが」
私12「そう、私は大人になりたいと思っている。
公序良俗に反しないだけの大人ではなく、ちゃんとした大人に。
たとえ無免許だとしても、本当の大人になりたいと思っている――――」
(間)
ヒ11「……で? どうしてお前は、試験で満点出しながら不合格になったんだ?」
私13「あれから数日。私が不合格になったと聞いて、家にヒデキがやって来た。
だから私は、彼に胸を張って答えた」
私14「病院でね、尊敬する大人は誰かって訊かれたから、ヒデキだって答えた。
そしたら不合格だって言われた――頭おかしいよね、大人って」
ヒ12「…………ああ、いや、たぶん頭おかしいのはお前だ。
俺はちっともそうだとは思わないが――社会的には、お前の頭がおかしいんだろうな」
私15「そうだろうね――だけど、これでいいんだよ。
子供は子供らしく、自分に正直じゃないとね」
ヒ13「ヒネたガキだなオイ……まったく、誰に似たのやら」
私16「誰だろうねー? あ、そうだヒデキ。私が高校卒業したら、一緒に暮らそうよ」
ヒ14「は?」
私17「私達はもう、ずっと子供だから。
大人が許してくれるように、おままごとをしよう」
ヒ15「ホント、お前って奴はよぅ……」
私18「きっと、これでいいのだと思う。
大人は正しいけれど、いつだって正しいわけじゃない。
間違えられた私達は、何かが間違った社会で、正しく生きていけばいい。
いつか間違いが正される、その日まで」
終わり