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***神を持つ者 作者wikiの人◆SlKc0xXkyI  1931年、アメリカ――――。  禁酒法による治安の悪化や、世界恐慌による大不況が襲う暗黒の時代。  20年代の繁栄は見る影もなく、忌まわしきブラック・チューズディの爪痕は、国内の隅々にまで刻まれていた。  労働者や失業者の暴動が頻発し、人々は明日の暮らしを思えば、安らかに眠ることもままならない。そんな人々を尻目に、一部の裕福な者だけが天上のごとき、豊かな生活を送っていた。  夜は暗く、明日は見えず……しかしそんな時代にも、神の家はあった。  教会である。  日曜日ともなればミサが開かれ、敬虔なクリスチャンの集まる場所。  堂内に設置されたいくつもの長椅子の上、幼い少女が腰かけていた。  富裕層の出身らしい、たくさんのフリルとレースをあしらった、小奇麗なドレス。小枝のように細く愛らしい指は、一度も汚れに触れたことがないかのように白い。  少女は胸の前で両手を組み、銀のロザリオを握り締めて祈っていた。  そんな彼女に、横手から話しかける声があった。 神父「お嬢さん。熱心にお祈りしているようですが、何をお祈りされているので?」 少女「神父様……パパが病気になったの。    早く元気になって欲しいから、神様にお願いしてました!」 神父「それはそれは。お父さんも、君のような娘を持って幸せですね。    きっと神様も、君の祈りを聞き届けてくれることでしょう」 少女「本当? ねえ神父様、ウソじゃないよね?」 神父「本当ですよ。主は全ての人を平等に救ってくださるのです」  そう言って神父が微笑んだ時、教会の扉が開いた。  入って来たのは薄汚れた恰好の、みすぼらしい男だった。  一目で浮浪者と分かる彼は、そのまま教会の隅に体を横たえてしまう。 神父「……お嬢さん、ちょっと失礼しますね」 少女「神父様?」  怪訝そうな少女の声に答えず、神父は近くにいた若い牧師に声をかける。  目は不機嫌そうに浮浪者を見ており、牧師はただ頷いている。  そして話が終わったのか、牧師は浮浪者へと近づいて行く。  牧師は浮浪者に何か言ったようだが、少女の耳には届かない。  だが浮浪者は、すっくと腰を上げ、肩を落として教会から出て行ってしまう。 神父「やあ、お待たせしてすみません。    最近は教会を宿と勘違いする人が多いのですよ」 少女「勘違いって……でもさっきの人、困ってたんでしょう?」 神父「そうですね。確かにお困りのようでしたが、こちらも困るのです。    教会は神の家であって、浮浪者の家ではないのですから」 少女「でも……神様は、誰でも平等に……救ってくれるって……」 神父「ああ、何か勘違いされているようですね。    いいですか? ――貧乏人に神はいないのです」 少女「………………」 神父「そうそう、お嬢さんのお父上は病気だそうで。    千ドルほど寄進していただければ、きっとすぐに良くなるでしょう」 少女「……ねえ、神父様。    神様って……優しいかな?」 神父「とてもお優しい方ですよ――出すものを出していただければ、ね」
***神を持つ者 作者wikiの人◆SlKc0xXkyI  1931年、アメリカ――――。  禁酒法による治安の悪化や、世界恐慌による大不況が襲う暗黒の時代。  20年代の繁栄は見る影もなく、忌まわしきブラック・チューズディの爪痕は、国内の隅々にまで刻まれていた。  労働者や失業者の暴動が頻発し、人々は明日の暮らしを思えば、安らかに眠ることもままならない。そんな人々を尻目に、一部の裕福な者だけが天上のごとき、豊かな生活を送っていた。  夜は暗く、明日は見えず……しかしそんな時代にも、神の家はあった。  教会である。  日曜日ともなればミサが開かれ、敬虔なクリスチャンの集まる場所。  堂内に設置されたいくつもの長椅子の上、幼い少女が腰かけていた。  富裕層の出身らしい、たくさんのフリルとレースをあしらった、小奇麗なドレス。小枝のように細く愛らしい指は、一度も汚れに触れたことがないかのように白い。  少女は胸の前で両手を組み、銀のロザリオを握り締めて祈っていた。  そんな彼女に、横手から話しかける声があった。 神父「お嬢さん。熱心にお祈りしているようですが、何をお祈りされているので?」 少女「神父様……パパが病気になったの。    早く元気になって欲しいから、神様にお願いしてました!」 神父「それはそれは。お父さんも、君のような娘を持って幸せですね。    きっと神様も、君の祈りを聞き届けてくれることでしょう」 少女「本当? ねえ神父様、ウソじゃないよね?」 神父「本当ですよ。主は全ての人を平等に救ってくださるのです」  そう言って神父が微笑んだ時、教会の扉が開いた。  入って来たのは薄汚れた恰好の、みすぼらしい男だった。  一目で浮浪者と分かる彼は、そのまま教会の隅に体を横たえてしまう。 神父「……お嬢さん、ちょっと失礼しますね」 少女「神父様?」  怪訝そうな少女の声に答えず、神父は近くにいた若い牧師に声をかける。  目は不機嫌そうに浮浪者を見ており、牧師はただ頷いている。  そして話が終わったのか、牧師は浮浪者へと近づいて行く。  牧師は浮浪者に何か言ったようだが、少女の耳には届かない。  だが浮浪者は、すっくと腰を上げ、肩を落として教会から出て行ってしまう。 神父「やあ、お待たせしてすみません。    最近は教会を宿と勘違いする人が多いのですよ」 少女「勘違いって……でもさっきの人、困ってたんでしょう?」 神父「そうですね。確かにお困りのようでしたが、こちらも困るのです。    教会は神の家であって、浮浪者の家ではないのですから」 少女「でも……神様は、誰でも平等に……救ってくれるって……」 神父「ああ、何か勘違いされているようですね。    いいですか? ――貧乏人に神はいないのです」 少女「………………」 神父「そうそう、お嬢さんのお父上は病気だそうで。    千ドルほど寄進していただければ、きっとすぐに良くなるでしょう」 少女「……ねえ、神父様。    神様って……優しいかな?」 神父「とてもお優しい方ですよ――出すものを出していただければ、ね」

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