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***ある少女 夏の邂逅 作者:蟻 ◆vA0bquCiP2 【ある少女 夏の邂逅】 あごから滴る汗が体力を削っていく。 背中のリュックがじわじわと重さを増していく。 今年の夏は例年に無い酷暑だという。 ここ数年、温暖化だとかなんとかで毎年暑くなっているらしい。 だが、そんなことは僕には関係ない。 僕が知りたいのは山頂まであとどれだけ歩かなければいけないかということだ。 趣味で登山を始めてから3年になる。 登山とはいっても近隣の低い山を歩く程度のもので 僕をこの道に引き込んだ先輩からは「そりゃピクニックだろ」と小馬鹿にされる。 それに反発して整備されていない、地元の人もあまり入らない山に行く! などと宣言したことがそもそもの間違いだった。 足場の整備されていないこの山は、もちろん歩けないほど険しくもなく獣道もあるのだが、想像以上に険しかった。 砂利道などまだいいほうでぬかるみ、岩場、背の高い草などなんでもござれだ。 これでも崖を上るよりはマシ、と自分に言い聞かせて歩を進めていく。 やっとの思いで開けた場所に出ることが出来た。山頂はまだまだ先のようだがここで一息いれることにした。 息を切らしながら岩に腰掛け、水筒の水を飲み干す。……そこで僕は大変なミスに気付いた。 飲み干してしまった……山頂まではまだあるというのに。 幸いここは山だ。川の一つもあるだろう、それで何とかするしかない。 僕は耳を澄ましながら草むらの中に分け入っていく。 しばらく歩くと水の音が聞こえた。そして、それにあわせるような歌声も。 川に出ると一人の少女がいた。 赤い着物を着た、時代に似つかわしくない少女だ。 少女を横目に水を汲む。この辺りは上流のようで水も澄んでいておいしい。 ふと、少女の歌がやんだ。振り返ると目が合った。いつのまにか後ろに立っていたのだ。 服のせいかどこか大人びて見える。黒く艶やかな髪、黒くきらめいているような瞳……。 「何か……用?」そんなことを言ったような気がする。少女は何も答えず、僕を見つめている。 どこの子だろう?地元の子だろうか。しかしこんな山の中で、それもひとりで。どこに住んでいるのだろう。 「こんなところで何してるの?お父さんかお母さんは?」少女は何も答えない。どうしたものだろう。 突然少女が走り出した。少し離れて、また僕を見ている。呼んで……いるのだろうか? 気がつくと僕は彼女についていっていた。 どこへ行くのだろう。どんどん茂みの中へ入っていく。僕はただ彼女を追いかけることだけを考えていた。 少女は一本の木の前で立ち止まった。古く、大きな木。大きなうろが開いている。 少女はその中へ入っていった。僕も続いて入っていく。 大人の背丈よりも少し大きなうろ。その中で少女は座っていた。僕も座る。 長い沈黙があった。だが不思議と安らかだった。僕らは何もせずただ座っていた。 少女は僕を見つめていた、ずっと。蝉の声が耳に響いている。 目が覚めた。いつのまにか眠ってしまったらしい。傾いた陽光がうろの入り口から入ってくる。 もう外は夕空だった。少女の姿は無かった。 少し歩くと川に出た。もっと離れていたような気がするが気のせいだったのだろうか。 少女はどこに行ったのだろう。気にはなったが、野宿をするわけにもいかない。 僕は山を降りた。ずっと少女の姿が頭に鮮明に浮かんでいた。 あの少女に会わなければ。なぜかそう強く思いながら僕は帰路についた。 【あとがき】 どう見ても小説です、本当にありがとうございました。 実はもっと長かったです。しかも続きます。
***ある少女 夏の邂逅 作者:蟻 ◆vA0bquCiP2 【ある少女 夏の邂逅】 あごから滴る汗が体力を削っていく。 背中のリュックがじわじわと重さを増していく。 今年の夏は例年に無い酷暑だという。 ここ数年、温暖化だとかなんとかで毎年暑くなっているらしい。 だが、そんなことは僕には関係ない。 僕が知りたいのは山頂まであとどれだけ歩かなければいけないかということだ。 趣味で登山を始めてから3年になる。 登山とはいっても近隣の低い山を歩く程度のもので 僕をこの道に引き込んだ先輩からは「そりゃピクニックだろ」と小馬鹿にされる。 それに反発して整備されていない、地元の人もあまり入らない山に行く! などと宣言したことがそもそもの間違いだった。 足場の整備されていないこの山は、もちろん歩けないほど険しくもなく獣道もあるのだが、想像以上に険しかった。 砂利道などまだいいほうでぬかるみ、岩場、背の高い草などなんでもござれだ。 これでも崖を上るよりはマシ、と自分に言い聞かせて歩を進めていく。 やっとの思いで開けた場所に出ることが出来た。山頂はまだまだ先のようだがここで一息いれることにした。 息を切らしながら岩に腰掛け、水筒の水を飲み干す。……そこで僕は大変なミスに気付いた。 飲み干してしまった……山頂まではまだあるというのに。 幸いここは山だ。川の一つもあるだろう、それで何とかするしかない。 僕は耳を澄ましながら草むらの中に分け入っていく。 しばらく歩くと水の音が聞こえた。そして、それにあわせるような歌声も。 川に出ると一人の少女がいた。 赤い着物を着た、時代に似つかわしくない少女だ。 少女を横目に水を汲む。この辺りは上流のようで水も澄んでいておいしい。 ふと、少女の歌がやんだ。振り返ると目が合った。いつのまにか後ろに立っていたのだ。 服のせいかどこか大人びて見える。黒く艶やかな髪、黒くきらめいているような瞳……。 「何か……用?」そんなことを言ったような気がする。少女は何も答えず、僕を見つめている。 どこの子だろう?地元の子だろうか。しかしこんな山の中で、それもひとりで。どこに住んでいるのだろう。 「こんなところで何してるの?お父さんかお母さんは?」少女は何も答えない。どうしたものだろう。 突然少女が走り出した。少し離れて、また僕を見ている。呼んで……いるのだろうか? 気がつくと僕は彼女についていっていた。 どこへ行くのだろう。どんどん茂みの中へ入っていく。僕はただ彼女を追いかけることだけを考えていた。 少女は一本の木の前で立ち止まった。古く、大きな木。大きなうろが開いている。 少女はその中へ入っていった。僕も続いて入っていく。 大人の背丈よりも少し大きなうろ。その中で少女は座っていた。僕も座る。 長い沈黙があった。だが不思議と安らかだった。僕らは何もせずただ座っていた。 少女は僕を見つめていた、ずっと。蝉の声が耳に響いている。 目が覚めた。いつのまにか眠ってしまったらしい。傾いた陽光がうろの入り口から入ってくる。 もう外は夕空だった。少女の姿は無かった。 少し歩くと川に出た。もっと離れていたような気がするが気のせいだったのだろうか。 少女はどこに行ったのだろう。気にはなったが、野宿をするわけにもいかない。 僕は山を降りた。ずっと少女の姿が頭に鮮明に浮かんでいた。 あの少女に会わなければ。なぜかそう強く思いながら僕は帰路についた。 【あとがき】 どう見ても小説です、本当にありがとうございました。 実はもっと長かったです。しかも続きます。

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