ハルヒと親父 @ wiki

一人旅に必要な事 エピローグ1

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haruhioyaji

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アキとハルヒ


 「ねえ、ハルヒー。赤ちゃんって、いつ来るの?」
アキはハルヒの隣に座りながら、足をぱたぱたと上下に動かしてる。
「半年は先ね。それと来るんじゃなくて、生まれるの。そしてあたしが生むの」
「えー、コウノトリとか、そういうのは?」
「関与せず」
「死んでもお花畑に行く訳じゃないんだ」
「最終的には水と二酸化炭素に分解されるわね。魂はこの際、置いとくにしても」
「えーっ、アキの死生観、根底から崩壊だよ」
「大丈夫。あんたはまだ若いから、十分建て直せるわ」
「ママって随分とあたしにウソ教えたんだね。パパなんか優柔不断の二股掛け男だって教わったし、ハルヒなんかすごいヤリマン女扱いだったよ」
「ヤリマンとコウノトリね。確かにバランス悪いわね。でもウソっていうのとは、ちょっと違うのよ。アキ、蜘蛛って嫌い?」
「んー、人気無いけど、あたしは結構好き。蜘蛛の巣ってよくみると、すごい芸術品みたいだもん」
「そうね。でも蜘蛛の巣は、人に見せるために作ってある訳じゃないのは知ってるよね。それは蜘蛛の住処だし、餌をとる捕虫網だし、世界を知るレーダーでもあるの。蜘蛛はほとんど目が見えないのよ。蜘蛛の巣の糸がゆれて、その信号で餌がどの位置にいるかを知るのね。人間も、糸じゃなくて、言葉でつくってあることが多いけれど、蜘蛛の巣みたいなものを作って、それを介して外界や社会を知るの。それは確かに「作り物」だけど、他の人からすると理解できないものであることも多いけれど、そういうものなしに現実に触れると傷ついたり、そもそも理解できなかったり耐えられなかったりするのが人間なの。宗教とかおまじないが、例になるかな。ちょっと難しいね。どっちかっていうと、キョンの方が専門なんだけどね」
「じゃあ、パパにも聞いてみる」
「そうね」
「でも、パパって押し切られちゃうタイプだよね」
「あはは。パパが優柔不断ってのは、確かに否定しないけどね。二股ができるようなタイプじゃないわ。それに、あれでも、やるときはやる奴なのよ」
「知ってる。パパ、ときどきかっこいいもの」
「そう? あたしには、いつでもカッコイイけどね」
「ハルヒ、それ惚気? そういうのバカップルっていうの?」
「どうせ、そんなの教えたのは、親父でしょ?」
「うん。親父ちゃんっておもしろいね。ウソばっかり言ってるし」
「ううん、アキ、あれはウソじゃないわ」
「なあに?」
「ホラよ」

「こら、アキ。いつになったらハルヒのこと『ママ』って言うんだ?」
「家族じゃない人がいるところじゃ、ママって呼んでるよ。ちゃんと使い分けてるよ」
「そうじゃなくてだな」
「あたしが、そうして欲しいって言ったの」
「ハルヒ」
「アキは、あんたとあの人の子供だもの。アキにも、それを忘れて欲しくないの」
「ハルヒ」
「といっても、あたしの愛に分け隔てがあるはずないわ。縁あってうちに来てくれたアキにも、新しく生まれて来るナツキにも、もちろんキョン、あんたにもね。あ、親父は論外よ、とりあえず」
「ハルヒ、かっこいー」
「こら、アキ。……って、しょうがないなあ」
「ハルヒ、母さんには、愛はないの?」
「あるけど、母さんの方から来るの方が多くて、輸入超過で貿易愛赤字よ。そのうちイーブンに持って行けるよう、なお一層精進するわ」
「はいはい。気長に待ってるわ」
「ほんとにそれでいいのか、ハルヒ」
「それがいいのよ、キョン。でも、あんたの意見も聞くべきだったわね」
「あいつが、元妻が、おまえの事をどう言ってたかとか、思い出すとな」
「不安だったからよ」
「ハルヒ?」
「あの人は不安だったの。自分の夫や家族が、いつどこの馬の骨ともわからない女にかっさらわれるか、と思うとね。不安を一時的に抑えるにはね、怒りでも性欲でも食欲でもいいの。でも一時的に抑えた不安は、また大きくなる。ますます怒りその他に頼りたくなる。一種の依存症よ。自分が作り上げた怒りの巣に、自分を不安に陥れる人たちを配して役付けしたくなる。そんな風に社会や世界を眺めたくなる。珍しい事じゃないのよ。人間がもっと闇と恐怖と近いところで暮らしていた社会では、ごくごく当たり前の事。あんたに教えてもらったんじゃなかったっけ?」
「ふう。おまえにはかなわんな」
「まだまだよ。まだこれから。とりあえずアキのママとは、親友とはいかなくても、茶飲み友達ぐらいになるのを中間目標に置いているわ」
「ハルヒ、おまえ……」
「アキの、あんたに似てない、あたしが大好きな、才気ばしったところは、あの人から受け継いだものでしょ。多分、あたしたち、いい友達になれると思うわ。時間はたっぷり必要でしょうけど。あたしの計画では、とりあえずアキの結婚式には出席してもらう予定。それぐらいのスパンで考えてるの」
 ぱたぱたと廊下を走る軽い音がした。
「?……お、おい、アキ? 今の聞いて?」
「あらら。まだ計画発表には早いと思ってたんだけどね。まあ、いいわ」
 廊下を走る音は、やがて、階段を上って、上の階についたところで止まった。
 そして我が娘の涙まじりの叫び声。
「ハルヒー、サイコー!!」
 目の前の最愛の妻は「あたりまえでしょ」とばかりに、ふんと鼻をならしてから、
100ワットのあの笑顔を俺に向けた。
「そういう訳だから、あんたも頼んだわよ、キョン!」



















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