ハルヒと親父 @ wiki
ロール・プレイング その2
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haruhioyaji
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- キョン
- でも、手配書なんて、どこで手に入れたんですか?
- オヤジ
- 街だ。酒場があったろ。お前が寝てから行ってみた。で、酒場にベタベタ貼ってあるのを見て、こっちは仰天だ。一枚ひっぺがして、こう言った。『このべっぴんさんは誰だ? どこに行けば会える?』。よっぱらい連中が、ああかわいそうな奴って感じで、いろいろ教えてくれたぞ。
- キョン
- さすがです。……おれも、そこまでは、とても……。
- オヤジ
- うちのバカ娘がブスだと言うのか?
- キョン
- いや、そっちじゃなくて!
- オヤジ
- 冗談だ。
- キョン
- だいたい酒場なんて、お金はどうしたんですか?
- オヤジ
- 飲んでもないのに、金なんか払えるか。
- キョン
- 飲みもしないで、よく追い出されませんでしたね。
- オヤジ
- よっぱらい連中を乗せて乗せて、酒場の雰囲気を盛り上げて、いつもの倍は飲ませたろう。おれ一人分の酒代じゃおつりが来る。
- キョン
- ただ酒飲ませたら、きっと世界一ですね……。
- オヤジ
- いや、多分宇宙一だ。
- キョン
- ……話、戻して良いですか? ハルヒの行方ですが……。
- オヤジ
- ああ。いろいろ聞いたが、諸説紛々でな。どれも噂の域を出ないが、熱が出そうな話ばかりだった。
- キョン
- た、たとえば?
- オヤジ
- どっかの山で手下集めて山賊やってるとか、荒くれ者束ねて海賊やってるとか、窃盗団つくって貧しい家に小判を降らせてるとか。
- キョン
- 賊ばっかりじゃないですか!?
- オヤジ
- 腕っ節と統率力だけは、評価されてるようだな。もっとも後者は過大評価だ。おまえがいないと、あのバカに集団は率いれん。
- キョン
- いや、いない方がむしろ周囲に頼らないで、あいつは自分でなんとかしますよ。
- オヤジ
- だからだ。周囲に頼れない奴に、集団を回すのは難しい。中間管理職になってから苦労するタイプだ。
- キョン
- それは想像できませんが。でも「盗賊」ってのは……僧侶か賢者とまで言いませんが、せめて……
- オヤジ
- ひょっとして、あいつに「癒し」を求めてるか? なら人選ミスだぞ。
- キョン
- いや、選んだとか、そういう話ではなくて……
- オヤジ
- おいおい。「出会っちまった」とでも言うつもりか。デレは現実でやれ。アホらしい。さっさとラスボス片付けて帰るぞ。
- キョン
- いや、まだそういうシナリオと決まったわけじゃ……。
- オヤジ
- 異論は大いに持ってもらって構わんが、いずれにしろ議論にはならん。バカ親父ってのは、世界で一番最期に気付くんだ、自分の娘が女だってことにな。その時には、バカ娘はついぞ見せたことのない表情でうつむいて、バカ親父と並んでバージン・ロードを歩いてやがる。
- キョン
- ……その痛々しいくらいリアルな、とおれが言っていいのかわかりませんが、描写はいったいどこから?
- オヤジ
- 言ってなかったか? おれは予知夢が見れるんだ。
- キョン
- ……しょっちゅうですか?
- オヤジ
- ……いや、ほとんど毎晩だ。……話を戻してもいいか?
- キョン
- すみません。……あの、噂は他には?
- オヤジ
- たとえば?
- キョン
- ……かどわかされたとか、連れ去られたとか?
- オヤジ
- 酷なようだが、キョン、現実を見ろ。全くない。あのバカの性格は国中に知れ渡ってるらしいな。
- キョン
- 前回、親父さんが言ってたアドバンテージがもう、霞んできました。
- オヤジ
- 動機を理解できるかはともかく、行動は予測しやすいからな、あいつは。
- キョン
- どうするんですか、この後?
- オヤジ
- この賞金をかけた奴に会いに行く。そうまでして、あいつを捕獲したい理由が知りたい。いずれにせよ、どっかで出会う相手だろう。情報交換もやっといた方が良いな。この手の奴には、先に当たっておくに限る。ゲーム前半と後半じゃ、言うことが違ってくる典型だ。あと、求婚だなんだと、向こうが面倒なこと言いだしたら、キョン、おまえが話つけろよ。
- キョン
- はあ。
- オヤジ
- どうした? 声が出てないぞ。
- キョン
- ちょっと、素巻きにされたまま水の中に放り投げられた気持ちです。
- オヤジ
- 親の前で言いにくいことがあるんなら、後を向いててやってもいいぞ。
- キョン
- おもいっきり、意味がないです。
- オヤジ
- 確かに当人がいないところで愛を叫んでも、滑稽なだけだな。
- キョン
- それを言いますか。
- オヤジ
- まあ、お前さんは、やるときはやる男だ。そういう時がいつ来てもいいように、おれの方は、心の準備は万端だから安心しろ。
- キョン
- あまり、うれしくありません。
- キョン
- 船に乗っていくんですか?
- オヤジ
- どうも、馬みたいな家畜がいないか、いても希少みたいでな。移動はもっぱら足か、船を使うらしい。騎兵も飛び道具もない戦争なんか、フットボールに毛が生えたようなもんだな。平和で結構なことだ。だが、騒がしいのが来たぞ。
- 兵A
- 勅命である! この船を徴用する!
- オヤジ
- 誰の勅命だ? 返事次第によっちゃ斬るぞ、こいつが。
- キョン
- ええ!おれですか?
- オヤジ
- その岩から引きぬいた剣は飾りか? そして、おれは今のところ素手だ。
- キョン
- 親父さんなら、手刀と悪知恵だけで黒曜石を刻めそうです。
- オヤジ
- そりゃ、どこの烈海王だ?
- 兵B
- きさまら、何者だ?
- オヤジ
- 説明しても、おそらく分からん。だから思いっきり簡単に言ってやる。あんたらは、どっかの偉いさんの命をうけて動いてるみたいだが、こっちは世界を背負ってる。ぶっちゃけ、神の使いだ。
- キョン
- ぶっちゃけ過ぎです!
- 兵A
- 神の名をかたるとは、不敬な!!
- オヤジ
- キョン、世界中どこでも、相手と憎み合おうと思ったら、相手の神様か、相手がうまそうに食ってる料理をけなすに限る。そう、人類学者のマーガレット・ミードが言ってる。
- キョン
- あんまり憎しみ合いたくないです!
- オヤジ
- ひとり、そっちに行ったぞ、キョン。普段は自分も忘れてる実力を見せろ。うん? なるほど、船の上だと、震脚を使う八極拳はまずいな。船底を踏みぬきそうだ。
- キョン
- なんで、相手だけじゃなく、状況まで逆撫でするんですか?
- オヤジ
- うまいこと言う。 おいおい、なんだ、お前のその剣は? 一応、役人みたいなもんだろ?そんな装備で大丈夫か? 青銅とは恐れ入るぞ。おまえら、鉄も知らんのか?
- 兵B
- 鉄は錆びる!
- オヤジ
- おい、こいつらに、ステンレス・スチールの作り方を教えたら、ほんとに神様扱いじゃないか?
- キョン
- オーパーツ、禁止です!
- オヤジ
- おい、キョン、おまえ、何やってんだ? 相手の剣なんか受けとめるな。剣ごと斬ってやれ。
- キョン
- そんなことしたら、この人、ケガするじゃないですか!
- オヤジ
- 大丈夫。ゲームじゃよくあることだ。
- キョン
- 日常じゃ、まずありません!
- オヤジ
- まったく、人生ずっとR指定でいくつもりか? 楽しいことは何もできんぞ。 ネットゲームですら半分は無理だ。同人ソフトなら、ほぼ全滅だ。おい、非実在雑兵、二人まとめて相手になってやる。何ゴールドにもならんだろうが。
- キョン
- 親父さん! ヒトを狩っちゃだめです。X指定でも!
- オヤジ
- ひどいクソ・ゲーだ。現実以下だぞ。オンライン版一揆の方がまだましだ。
- キョン
- 沈んでいきます。あの人たち、泳げないんじゃ?
- オヤジ
- 青銅の鎧なんかつけてるからだ。古式泳法なら、30キロある鎧をつけて、立ち泳ぎして、扇に筆で絵まで描くぞ。いや和歌を詠んで、それを書くんだっけか? それも70越えたじいさんがだ。
- キョン
- きっと鍛え方が違うんです。助けてもいいですよね?
- オヤジ
- 構わんが、どうやって?
- キョン
- ちょっとやってみます。
- オヤジ
- 水面を斬ってどうする? ん? おお、おまえら泳げたのか? 鎧はどうした?
- 兵B
- わからん!
- 兵A
- 分からんが……助けてもらったのは認める。
- オヤジ
- ふーん。キョン、何やった?
- キョン
- 鎧だけを斬りました、多分。
- オヤジ
- 触れずにか? 大した飛び道具だな。この世界じゃ圧倒的だ。そんな使い方、よく思いついたな。
- キョン
- いや、なんか思い浮かんだというか、剣が教えてくれたというか。
- オヤジ
- いずれにせよ、おまえさんは自分の道徳心を満たしながら、敵を斬れるわけだ。人間相手なら武装解除だけで、そこそこゲームは進められるだろ。だが中ボス以上は、あなどらず本体ごと斬れよ。