ハルヒと親父 @ wiki

Sweet Pain

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haruhioyaji

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 「ただいまぁ……」
「不機嫌な声で、バカ娘がご帰還だ。やれやれ。キョンの奴、へまやったかな?」
「そうかしら。たくさん笑った日ほど、帰り道はさびしいものよ」
「なるほど。……だったら送らせりゃいい」
「そして、その先は『泊まらせりゃいい』、『いっしょになればいい』ね」
「うーん。母さん、失言した」
「……何、バカなこと言ってんのよ?」
「おかえりさない、ハル」
「ただいま、母さん」
「息災か、バカ娘?」
「大きなお世話よ」
「どうだ、この違い?」
「仲のいい父と娘だって、ご近所でも評判よ」
「「どこが!?」」
「……そういうところも」
「「……」」
「ハル、お夕飯は?」
「あ、ごめん。食べてきたの。連絡忘れてたわ」
「そう。次は思いだしてくれるとうれしいわ」
「ごめんなさい」
「あら、お父さん、お風呂?」
「いや、上でラブプラスでもしてくる」
「そう。気を付けてね」
「ああ」
「……ねえ、母さん」
「なあに、ハル?」
「ラブプラスやるのに、何を気を付けるの?」
「お父さん、何かに熱中しすぎると、息をするのも忘れるから」
「……」
「お父さんね、ハルの『ただいま』を聞いて、不機嫌だなって言ってたわ」
「そう」
「『キョンの奴、へまやったかな?』って」
「そんなわけないじゃない! そりゃ、いつも完璧には程遠いけど……でも、あいつは、あいつなりに……」
「ハルのことを大切にしてくれるのね。……ごちそうさま」
「あ、あのね!」
「なあに?」
「な……んでも、ない」
「そう? 『甘い痛みも恋の味』って言ってね。 Sweet pains are some parts of love.」
「何、それ? 誰かの詩(うた)?」
「お父さんが、母さんに、そう言ったの」
「ああ、そう……」
「『もう来ないで!あなたといると気分が悪くなるわ!』と言った、返しの言葉がそれで」
「……」
「この、女たらしって思ったわね」
「……」


『もう来ないで! あなたといると気分が悪くなるわ!』
『結構。おれは君に恋してる。それだけで十分だ』
『片想いでいいって言うの?』
『君はいつもだから気付かないんだろう。相手はそれだけで十分幸せになれる』
『じゃあ、地球の裏側にでも行って、そこで幸せに浸ると良いわ』
『……』
『なんとか言ったらどう!?』
『Sweet pains are some parts of love. 幸せだけじゃ、人生はおろか、恋にも足りない』
『好んで苦痛を味わうのね?』
『好んでるわけじゃない。ただの事実だ。目を開ければ光を感じる。石がぶつかれば、その部分が痛む。それと同じだ。人を愛せば、時に苦痛を感じる』
『石なら避ければいいし、目なら閉じればいいでしょ』
『目を開けてないと、石は避けられない。痛みは生物が最初に獲得した感覚だ。一時、麻痺させても戻ってくる。世界を手放しでもしない限り』
『苦痛ばかりの世界でも、手放せないのね』
『手放さない。それに、目は何かを避けるためにあるんじゃない』
『じゃあ、何?』
『光を感じるため、何かを見るためだ』
『……なにを……見てるの?』
『怒りに歪んだ女の顔だ。だが美しい』
『よくもまあ……。口から先に生まれて来たのね』
『多分』


「……どうしたの、ハル? こめかみ押さえて」
「う、うん……あまりにあんまりで……。『この親父、頭に何か、わいてるんじゃないの?』って思わなかった?」
「ええ、思ったわ」
「……母さんたち、ケンカなんてしないんだと思ってた」
「多分、母さんが一番ケンカした相手はお父さんね。そして勝てたことがない唯一の相手」
「うそ。親父がいつも言ってるわよ。母さんには勝てたためしが無いって」
「勝敗の基準が違うのね、きっと。でもお互い、こう思うのは同じ。『こんな奴、他にはいない』」
「……そりゃ、そうでしょ」
「親のバカップル話を聞くのっておもしろい?」
「面白いなんて次元じゃないけど……って、こんな時に携帯? 母さん、ごめん。続きはまた今度に」
「はいはい。キョン君でしょ。お部屋にあがったら?」
「そうする。……なんでもない! 何もしてないわよ。ちょっと待ちなさい! 今,部屋に戻るところだから……」

 「あら、お父さん。ラブプラスは終わり?」
「バカップルが大声で電話しながら上がって来た。興ざめだ。携帯電話なんて、誰が発明したんだろうな」
「ハルに昔の話をしてたの。お父さんとケンカした話」
「ふう。今日はとんでもない厄日だったらしい。だが、あと数時間だ。無事に終わらせよう」
「それだけあれば、一戦交えられそうよ」
「やれやれ。どこから始める? 母さんが『口から先に生まれて来たのね』と言うとこからか?」
「ふふ。その続きはないわ。お互いの口がふさがっちゃったもの」
「言葉なんか無くても、何かが伝われば、それでいい。そう思わないか?」
「いいえ。それがいい、と思うわ」
「やっぱり、かなわんな」
「そうでもないわよ……あら、キスだけ?」
「これは休戦協定の分だ」
「私の方は、部屋までの搬送費も入っていたのだけど」
「道理で少し長いはずだ。……いつもより軽いな、母さん。バカ娘とおれとで、苦労かけ過ぎたか? それとも今日は満月で、おれは狼男ってことか?」

























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