ハルヒと親父 @ wiki
捨て猫と会った日のこと
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haruhioyaji
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- ハルヒ
- あ、猫だ。
- オヤジ
- うむ。捨て猫らしいな。
- ハルヒ
- ほんと、捨ててあるの?……ここは人道的配慮から、あたしが拾ってて、うちで飼うわ!
- オヤジ
- ハルヒ、猫が死ぬところを見たことがあるか?
- ハルヒ
- え? ううん、ない。
- オヤジ
- 質問を変えよう。猫が死ぬとこが見たいか?
- ハルヒ
- そんなの見たくないわ。
- オヤジ
- だったら、そいつに手を出すな。
- ハルヒ
- な! なんで? どうしてよ!
- オヤジ
- 言って欲しいか? そいつはもうすぐ死ぬからだ。
- ハルヒ
- え……。
- オヤジ
- 随分弱ってる。もうミルクどころか水も飲めないだろう。
- ハルヒ
- そ、そんな! 親父、なんとかして! たまには役に立ちなさい!
- オヤジ
- じゃあ、死ぬときまで、おれが責任持って見ててやる。それでいいか?
- ハルヒ
- そうじゃない! 助けなさいっていってんの! あんた、それでも人間? 血も涙もないの!?
- オヤジ
- 涙ぐらいいくらでも流せる。血も誰かに分けてやりたいくらいだ。だが、人間は神じゃない。手助けしてやることはできても、生死をどうにかする力はない。
- ハルヒ
- 神様なら、できるの?
- オヤジ
- 神だったら、バカじゃないから、そういうことはしない。
- ハルヒ
- なんでよ?
- オヤジ
- 誰も死ななきゃ、地上はあっという間に一杯になる。人間が少し考えればわかるようなことは、神ぐらいならとっくに承知してるだろう。その証拠に、今この瞬間にも、地球上では数えきれん数の生き物が死んでる。生まれる奴もいるなら、死ぬ奴もいる。これがおまえやおれのいる世界だ。
- ハルヒ
- だったら、あたしが神様になって、誰も死なないようにしてやるわ。
- オヤジ
- おまえみたいなバカが神になったら迷惑だ。
- ハルヒ
- うるさい。あんたみたいに、できるのに何もしない横着者を取り除けば、いくらでも隙間はできるわよ!
- オヤジ
- 好き嫌いでこの世に君臨するつもりか? 政治に自分の趣味を持ちこむ政治家と同じだ。力はそんなえこひいきをするために与えられるのでも、存在するのでもない。仕方ない、連れて帰るぞ。
- ハルヒ
- え?
- オヤジ
- 神になると言ったんだ、最後までつきあえよ。
- 母さん
- お父さん、お帰りなさい。あら、その子?
- オヤジ
- ああ、見ての通り虫の息だ。うちのバカ娘は神様になって、臨終を見届けるそうだ。
- ハルヒ
- 死ぬって決めつけるな!最後までベストをつくしなさい!
- オヤジ
- 簡単に言ってくれる。母さん、ウエスにする予定だったバスタオル、あとお湯とスポイトと……。ハルヒ、バカのおまえが見てもわかるくらいのベストを見せてやるから、全部見とけよ。
- ハルヒ
- ……ぐすん、ぐすん。
- 母さん
- ハル、ミルクを暖めたわ。ゆっくり飲みなさい。
- ハルヒ
- ぐすん……飲まなきゃダメ?
- 母さん
- そうね。ハルが飲まないと、多分、母さん悲しくなると思うわ。
- ハルヒ
- ……飲む。
- 母さん
- ……。
- ハルヒ
- ……ねえ、母さん。
- 母さん
- なあに、ハル?
- ハルヒ
- あたし、いけないことしちゃったの?
- 母さん
- どうして?
- ハルヒ
- 猫は死ぬところを人に見せたがらないって、何かで読んだわ。あたし、あの子の死ぬ場所を選ぶ権利、奪ったの?
- 母さん
- 「権利」ねえ。むずかしいわ。でもお父さんの話だと、あなたたちがあの子を見つけたときはもう、あの子はどこかへ歩いていく力はなかっただろうって。
- ハルヒ
- ……あんなに一生懸命になっても、死んじゃうものは助けられないの?
- 母さん
- ええ、多分。助けることができるときもあれば、できないときもあるでしょう。それから、生きるものは、いつかはみんな死んでしまうわ。
- ハルヒ
- 母さんや親父も!?
- 母さん
- ええ、そうよ。それに、いつそんな日が来るか、誰にもわからないの。
- ハルヒ
- 神様も?
- 母さん
- なったことも、直接聞いたこともないから、はっきりとは言えないけれど、母さんはそう思うわ。思わない人もいるでしょうね。
- ハルヒ
- 神様って、悲しくないの? 毎日、いまでも、いろんなものが死んでるんでしょ?
- 母さん
- 悲しいけれど、伝える相手がいないのかもしれないわね。
- ハルヒ
- 神様って何でもできるんじゃないの? どうして聞いてくれる相手を作らないの?
- 母さん
- きっと神様が自分をモデルに作ったから、神様の聞き相手にはならず、神様に聞いて欲しいことばかりたくさんある者たちになっちゃったのかしら?
- ハルヒ
- 神様、失敗したの?
- 母さん
- なんでもできる力を持つと、逆にできなくなることがあるのかもしれないわね。
- ハルヒ
- え?
- 母さん
- 母さんの想像だけどね。
- オヤジ
- なんだか難しい話をしてる。風呂から上がると、妻と小学生の娘が理神論の議論を戦わしている
- 母さん
- 湯加減、どうでした、お父さん?
- オヤジ
- 今まで完璧でなかった試しがない。
- ハルヒ
- あ、あの、親父……ごめん、それから、ありがと。
- オヤジ
- うむ。どんなバカも、それを言えるうちは、まだ救いようがある。風呂へ行け。湯舟の中だと、泣いても目立たんぞ。