ハルヒと親父 @ wiki

涼宮ハルヒのリフォーム その6

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haruhioyaji

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 それでも、この大掛かりで、ひょっとするとものすごくばかばかしいかもしれないミッションに、俺も参加しない訳にはいかないようだった。
 おれは開けっぱなしの窓から恐る恐る手鏡を出して下を見た。続いて、今度は首を出してノクト・ビジョンをしたまま真下を見た。
 さっきまで影にしか見えなかったやつが、こちらを見上げていた。つまり目があった。
「なにしてるんだ、おまえ?」
 いや、わかってる。こっちの方こそ、何してるんだってことはな。
「下見」
 相手が答えた。
「下見って、何の?」
「一緒に住むこと」
「キョン、今おまえ、女の子と喋ってるみたいに聞こえるんだが、知り合いか」
「長門です」
 親父さんにそう答えて、俺はノクト・ビジョンをひっぺがし、長門に言った。
「銃なんか向けてすまなかった。どこか痛めてたり、すりむいてないか?」
「平気」
 平気じゃなくても治してしまいそうだがな。
「トラウマというか、心の傷になったりは?」
「大丈夫。あなたたちの行動は理解できる」
 おまえなら鍵なんか無しでも、どんなドアも自由に開閉できるだろうし、さっき見せたような超人的な判断かつ動きも朝飯前だろう。ゴム弾だって平気で跳ね返すかもしれんが、そっちはおれの方がトラウマが残りそうだ。撃たなくて良かった。
 窓からの閃光にひるんで出てこないなら、こっちから踏みこむ。即座に反応して、部屋から飛びだすタマなら、相手が逃げる階段の方向とは逆(つまり背中側)から「ホールド・アップ!」を叫べは大抵のやつならビビって足がすくむだろう。まだ逃げ出すなら威嚇射撃、これでほとんど場合は決着する。というのが、親父さんの立てたプランだった。いい加減そうで(たとえば影が凶悪なやつで、後ろから声をかけた俺たちに逆に襲いかかってくる場合だって考えられた)、よく練られていたのか、結果オーライなのか、とにかく事態は収拾された。(長門を窓から飛び降りさせて)。 
 窓の下を見ると、ハルヒが到着して事態を把握したらしく、涼宮父娘は、植えこみから助けだした長門に、かわるがわるペコペコ頭を下げていた。
「キョン!あんたもさっさと降りてきて、有希にちゃんと謝りなさい!」
言われるまでもない。おれは廊下を抜け階段を駆け降り、玄関から外へ出て、中庭の方へ走った。

 さんざん謝り倒し、長門から3度目の赦しが出たところで、俺はヘタな疑問が誰かの頭に浮かぶ前に、こう言った。
「長門、下見の方はまだだろ。よかったら、これから一緒に、部屋を見てまわらないか?」
「(こくん)」
「ま、まあ、有希がそういうんなら」
「ああ、そうしよう」
 涼宮父娘にも、当然異論はなかった。

 ● ● ●

 次の日、俺は長門のマンションを訪れた。
 何故か? 引越しの手伝いのためである。
 4人での深夜の「下見」の際中、長門はある部屋の中で、こう宣言したのだ。
「ここがいい。明日からここに住む」
 それは、あの涼宮ハルヒをも、置き去りにしかねないほど素早い決断であり、さすがのハルヒもこう応じた。
「さすがは有希ね。あたしも、あんたにはこの部屋がぴったりって感じがしてたのよ! 善は急げっていうし、キョン、明日の有希の引越し、手伝いなさい! あ、心配しなくても、あたしたちの部屋の方は万事任せてくれてかまわないわ。家具とか必要なものを順じ運び込んでいくから」


 「夕べは悪かったな」
「謝罪は済んでいる。気にしないで」
 おれは、昨夜はあの二人、涼宮父娘がいたので聞けなかったことを尋ねた。
 ひとつ目は、長門なら、姿を消して、見つからずにすむようにもできただろうし、見つかった後でもどうにでも逃げられただろうに、という疑問だ。
「それではあの二人が満足しない」
「やっぱり、わざわざ付きあってくれたのか。わるいな、長門」
「問題ない。私も楽しんだ」
 え? 今、なんと?
「また、やりたい」
 マジですか?
「真剣」

 そして二つ目の疑問の方が本題だった。
 「長門、夕べ、ほんとは何やってたんだ?」
「時空間特異点の消去ないし回収」
「その、なんだ、特異点ってのは?」 ハルヒみたいなやつのことか?
「この建物は、この時代の技術で作られていない。そのため、存在を維持するために、時空平面に多くのギャップを生み出している。それはアインシュタイン-ローゼンブリッジのような位相構造体を生む恐れがある」
「アインシュタイン-ローゼンブリッジって何だ?」
「ワームホールとも呼ばれている」
「それは、自分の部屋だと思ってドアを開けたら、しずかちゃんが入浴中だったりする、あれか?」
「そう考えても、あながち間違いではない」
 長門、やっぱり『ドラえもん』、読破したんだな。
「ちょっと待ってくれ。今、『存在を維持するため』と言ったな。ってことは、ワームホールみたいな奴は、あの建物が存在する以上、次々生まれるってことか」
「そう」
「それって住むには、ヤバくないか?」 いや、プライバシーの問題以前に、だぞ。
「時空間特異点を逐次、発生の初期段階で消去・回収していけば問題ない。それには、わたしがあの建物に常駐するのが望ましい」
 つまり、まずは長門を、という訳か。この分で行くと、毎週どこか一室でミニ閉鎖空間が発生してスモール神人が暴れまわったり、アフタヌーン・ティーの支店ができたりして、他の団員を呼び寄せてしまうんだろうか。
「それはない。涼宮ハルヒがここに住み、加えて私が常駐することは、他の勢力が彼らを送りこむ十分な理由となる」
 やはり古泉と朝比奈さんも来ることになるわけか。


 長門の引越し自体は、実に実に、スムーズに行われた。
 長門自身の荷物はそもそも少なかったが、部室から引き上げてきた長門の本やSOS団の数少ない資産(?)であるぬいぐるみその他も、長門のところに「一時預かり」になっていたから、総量では結構な量になっていたのだが、それらすべてを長門は事前に、学生カバン程度の大きさへと非常にコンパクトにパッケージングしてくれていた。
「四次元ポケ○ト」
 20世紀日本の生んだマンガを、そこまで気に入ってくれて、なんだか嬉しいぞ、長門。
 さらに、長門の宇宙パワーなのか、昨夜のうちに時空間特異点と話が付けてあったのか、長門のマンションの部屋を出ると、そこは入浴小学生のいる浴室ではなく、夕べ長門が気に入った、洋館のあの部屋の中だった。あ、待て、長門、言わなくていい!
「ど○でもドア」


その7?へつづく













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