ハルヒと親父 @ wiki

ハルヒ先輩

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haruhioyaji

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 「キョン、あんた、ちゃんと弁当つくってきたんでしょうね?」
 デカイ声でいうなよ。まったく、ちょっとは気を使って欲しいぞ。
「ふふん、相変わらずうまそうね。あんたに先に料理を仕込んだのは大正解だったわ! ほら、あんたの分もあるんだから、しっかり食べなさい!」
「『あんたの分』じゃなくて、どっちも俺が作ったんだ! あと、俺たちはまだ4限目、授業があるんだよ」
「却下。アホ教師の授業なんて聞く意味なし。遅れないように、後でしっかり教えてあげるから、とにかく座りなさい」
「授業に遅れなくても、出席日数に響くんだよ」
「そんなもの、なんとかなる。いざとなったら、なんとかし・て・あ・げ・る」
「それが怖いんだよ」
「まだ、何か?」
「わかったよ、食べる、食べるから」
「待った、あんたの席は、ここ」
 うわ、この人、自分の太もも叩いてますよ。おれたち、どこのバカップルですか?
「なんか、文句あんの?」
「あ、ありません」
「素直でよろしい♪」
「大学生がこんなとこ、うろうろしてて、いいのかよ」
「ぶつくさ言わない。付属高の分際で」
「ハルヒ先輩だって、付属高出身だろ」
「そうよ。だから、あんたを見つけたんじゃないの」
 おれはこの声も態度もでかい『先輩』につきまとわれて、受難の高校生活を送っている。先輩は俺より2つ上で、俺が高校一年のとき、同じ高校の三年だった。今は順調に上にある大学にご進学である。大層いい成績だったのに、どこも受験しなかったので、進学熱の高い職員室は、また嘆きのため息をつかされた、らしい。
「受験勉強? そんな暇があったら、キョンと遊んでるわよ!」
一言で切り捨てられた進路指導部にはパニックが走り、急遽「キョンとは何ものぞ緊急対策会議」が開かれたってのは、信じ難い事実だ。
 信じ難いのは進路指導の教師達もご同様で、まさか自分のところの生徒に、しかも成績、顔、身長、性格、すべて中くらいの、クラス担任ですら、あだ名以外の記憶を持ってなかった平凡極まる一年生に、あの涼宮ハルヒが入れ揚げてる、というのだから、アンビリーバボーだったらしい。いきなり身柄を拘束され、進路指導室に監禁された俺の前には、
「涼宮ハルヒと別れる」
「涼宮ハルヒに受験するよう説得する」
「極秘裏に退学」
という三択が用意された。あと小道具のカツ丼としぶい日本茶。
 いや、ちょっと、まってくれ。
「あの、涼宮ハルヒって、誰ですか?」
進路指導部の教師達は、今度こそ銅で被覆されたアンモニア氷塊をレールガンで打ち込まれたエンタープライズ号のような、パニックに陥った。
「涼宮ハルヒを知らん!?」
「はい」
「あれだけ目立つ女を知らないだと?」
「はあ」
「じゃあ、毎日、昼休みに中庭でいちゃいちゃ弁当を広げてるのは、どこのどいつだ!?」
 いちゃいちゃ、が何を指すのか見当もつかないが、確かにいっしょに弁当を食べてる先輩はいる。なるほど確かに目立つ。声も、態度も、銀河系をいくつ搭載したんだかわからない瞳もでかい。あと着やせするが、胸もそうなんだ。いや、今はそういう話じゃないぞ、っってそうだ、
「いや、あのですね、名乗らないんです、あの人。『あんたにはまだ早い!』だとか言って」
 そのくせ、キスは出会い頭だったしな。その次は「あたしの家に来なさい!」で、いきなり自宅に連れ込まれ、台所に立たされた。大好物ばかりを作らされたあげく、
「やっぱりあんた、あたしが見込んだ通り、筋がいいわ! 明日からは、自分ん家で、2人分、お弁当を作ってくるのよ! そして昼休みは、あたしと中庭で一緒に食べること! いいわね?」
 何がいいか分からんが、とにかく、この人が言えばその通りになる、というジンクスというか、悪夢はすでに始まっていたのだった。

 「そうね。あたしがあんたに教えたこと、その1がキス、その2があたし好みのお弁当の作り方、その3が……」
「待て」
「何よ?」
「今思い出したから言うってのもなんだけどな、普通最初に名乗らないか?」
「そういうのは普通の連中がやればいいことよ」
「教えないと、呼ぶのに困るだろ?」
「あんた、困った?」
「困ったぞ。半年間、ずっと『先輩』だけで呼ばせやがって」
「あんた、いきなりうちに来てるんだから、名字ぐらい表札みればわかるでしょ。注意力が足りん!」
「うっ」
「で、何が困るって?」
すごむな。体温上げるな。近づくな。……うわ、なんだか、くらくらするぞ。
「うん、青少年。あたしの色香に、あんた、メロメロね」
「う、うるさい!」
「さあ、何が困ったのか、言ってみなさい。話によっては、取り上げてあげるから」
「うう……」
「さあ、さあ」
 分かったから近づくな。
「大丈夫。鼻血出しても想定内だから」
「何が想定内だ。……笑うなよ」
「うん」
「もう笑ってる」
「うん」
「……」
「あ、うそうそ。真剣に聞くから、言ってみなさい」
「……キスするだろ」
「うん。会ってからは、毎日、何かと言えばキスしたわね」
「……家に帰って思い出すだろ」
「うん」
「ハ、ハルヒの顔とか目とか、その唇とか、体温とか、思い出すだろ」
「うんうん」
「……でも、その時は、まだ名前、知らないから、……心の中で呼ぶこともできないんだ」
「『先輩』でいいじゃない」
「昔の少女マンガじゃあるまいし、『遠くから憧れてずっと見てました、名前も知らずに』ってんじゃないだろうが。毎日、話すし、抱きつくし、俺のことはキョンって呼ぶのに、なんで、俺の方は、ただの『先輩』なんだよ? 一方的だ、不公平だ」
「うーん、なんかこう決め手にかけるわね」
「はあ?」
「あんた、まだ隠してる。それも肝心要のやつを」
「う……」
「あんたが言わないなら、あたしが当ててみようか? どんな暴速球がいくか、わかんないわよ」
「ううう」
「その1。あたしをオカズにしようとして、呼びかける名前がなくて困った」
 ちゅどーん。
「あ、命中。ごめん、キョン。いきなり当てる気はなかったんだけど」
「もう、知らん。おまえなんか!」
「あ、キョン、待ちなさいって」
 なんで、こいつは足まで速いんだよ!
「確かに半年遅れは悪かったわ。謝る。このとおり」
 涼宮ハルヒが頭を下げるなんて、あっただろうか。おれは今、夢を見てるのか?
「でもね、キョン。あたしが自分のファースト・ネームを呼ばせてるのは、あんただけなんだからね。他の奴はせいぜい、涼宮どまり。あんただけ『ハルヒ』」
「あ、うん」
「何故だか分かる?」
「う」 聞きたいが、聞きたくない気持ちが上回ってる。でも、こいつは絶対、言っちゃうんだろうな。
「あんたには、一生モノの名前を預けてある。そういうこと」
どさっ。
「どしたの、キョン」
「こ、腰、抜けた」
「若いわね、キョン。あんた、いくつ?」
「ハルヒより2つ下だ」
「そのうち追いつけるかもしれないから、がんばりなさい。若い時の苦労は買ってでもしろ、って言うし」
 誰か、こいつにその言葉を言ってやって下さい。でも、きっと肘か膝で跳ね返して、そのボールは俺の方に飛んでくるんだろうな。
 「さあ、キョン。キスの時間よ」
「いつも、思いつきで、のべつまくなしにしてるだろ!」
「あんたの萌え要素が、火をつけたの。早くしないと、辺り一面焼け野原よ」


























































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