ハルヒと親父 @ wiki

涼宮ハルヒのリフォーム その2

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haruhioyaji

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 元々は善良な街角の不動産屋であったのが、ひょんなことからSOS団熱に感染してしまい、不思議探索だけでは開き足らず、不思議物件を手に入れ、それをハルヒと俺に貸してくれるという。
 ハルヒが断定するところの、その「お化け屋敷」の間取り図をつくるために、俺はハルヒの親父さんとともに、あの不動産屋がある駅へと電車で向かっていた。

 「相談があるんだ」
家を出てから数分を待たずに親父さんは言った。
「はい」 なんだろう?
「さぼろう」
「はい?」 いきなりですか?
「大の男が雁首そろえて、かび臭い古屋で巻尺ふりまわしてるってのも、様にならん」
まあ、それはそうかもしれませんが。
「しかし、なんの策もなしに、たださぼるというのは、どうも……」
「しっかり尻に敷かれてるな」
周囲からすると、そう見えるかもしれんが、おれに言わせると、
「いや、それほど生やさしいものでは」
「むう、惚気なら、こっちも全力でいくぞ」
なんでこう、親娘そろって無駄に負けず嫌いなんだろうね。

 「はあはあ。傷つけあうだけで、お互いに益のない戦いだったな。争いからは何も生まれないことを改めて学んだぞ。キョン、握手だ」
 俺は右手を出しながら、結果が分かっていても避けられない災難というものがあると、改めて心に刻んだ。

 そうこうするうちに駅に着き、親父さんと俺は電車に乗りこみ、空いてる席にすわった。
 「それ、何か、ふしぎ道具でも入ってるのか?」
 巻き尺やら何かが入ったテント布製の丈夫なカバンを覗き込んでいた俺に、親父さんはのんびりと話しかけた。
「いえ、まさか」
「まあ、気楽に行こう。図面なら描けるし、何故だか建築士と土地家屋調査士の資格も持ってる」
と事も無げに言う親父さん。
「親父さんって……何やってる人なんですか?」
「そうか。聞くの、はじめてだったか?」
「ええ。なんか、聞きづらいというか、聞くのが怖いというか」
「答える方もつらいんだがな。……サラリーマンだ」
「……それを言うなら、スーパーマンだって、サラリーマンです」
「違いない」 
親父さんは親父笑いでそう応じた。


「なによ、いつの間にか、なじんちゃって!」
「お父さんとキョン君? いいじゃないの、仲良くて」
「よくないわよ! キョンに変態がうつったら、どうすんのよ!?」
「ふふ。楽しい家庭が築けそうじゃない?」
「まっぴらよ! ……母さん、楽しいの?」
「そりゃもう」
「……」
「キョン君、ちょっと、がっかりしてたわね」
「え、どうして?」
「せっかく2年も頑張って、ご褒美が『ふたりっきり』じゃないんだもの」
「で、でも、『みんなでルーム・シェア』ってことで、キョンのお父さんお母さんもOKしやすくなったわけだし、それに……」
「……ハル」
「な、なに?」
「カ・マ・ト・ト」
「!!」


 親父さんと俺を乗せた電車は十数分で駅に着いた。
「その『お化け屋敷』の鍵は持ってるのか?」
「いえ。不動産屋さんに寄って借りて行かないと」
例の不動産屋は改札を出てすぐである。
「ちょうどいい。挨拶でもしとこう。見せてもらいたいもんもあるしな」
「見せてもらいたいもの?」
「登記簿って知ってるか?」
「聞いたことがあるくらいで、よくは知りません」
「それで物件の位置と大きさ、歴代の所有者なんかがわかる」
親父さんは、大きなあくびをしてから、こう続けた。
「土地とか家みたいな不動産ってやつは、ポケットに入らんし、持ち運べない。すると持ってる奴が変わっても、不動産自体は変わらんから、他の奴から見たらわからんだろ? それで「今は誰が持ち主か」というのを法務局って役所に登録しておく。登記簿ってのはその登録台帳だ。売ったり買ったり、持ち主が死んで相続するなんてことになると、売り買いしたことや、持ち主が死んだことを証明する書類を持って、登記簿を書き換えに行くんだな。これから不動産を買おうって奴は、だからまず登記簿を見に行く。でないと、たとえばだ、ハルヒとかいう悪い奴が、ほんとは自分の持ち物でない土地を、俺に売りつけようとするかもしれん。金を払った後でそれに気付いたら悲惨だろ? だから登記簿で、今現在その土地がほんとにそいつの持ち物かどうか確認する。それに歴代の記録が残ってるから、つまり歴代の持ち主たちは誰で、いつどうやって手に入れたか、どんな風に誰から誰へと人手を渡って来たかなんて、おおざっぱなところはわかる。その家の『呪われ具合』なんかも分かるかもな」
「なるほど」
「それと、最初に言ったが、登記簿には建物の輪郭だけだが図面がついてる。それを使わしてもらって、おれたちは内の間仕切りだけ描けばいい。それでミッション終了だ」
「あ、ここ、この不動産屋です」
「じゃあ、最初は社交辞令モードな」
親父さんはニカッと笑ってうなずくと先に内へ入って行った。俺も後から続く。


 「結婚披露宴の高砂の席にいる新婚カップルは、その後すぐに成田離婚する人たちでも、みんなバカップルに見えるわ。どうしてだと思う?」
「……」
「それは『私たちは好き合って結婚するのよ、いいでしょ』と呈示する場だからね。ヤクザの役員さんがいい女はべらして金遣い荒く遊んで高級車に乗って見せるのと同じ。そうやって『良いところ』を呈示していかないと、若い人たちが人生をかけてくれないでしょ、結婚でもヤクザでもね。もっとも披露宴もヤクザも昔ほどは、みんなあこがれなくなっているみたいだけど」
「……」
「夕べのは、言わばちょっとした模擬の披露宴よね。あなたたちにはサプライズだったけど、お呼びしたみなさんはみんな、あなたたちを祝福しに、わざわざ来てくださった人たち。キョン君とハルがいいおつきあいができたらいいな、と思っている人たちね。もっと言えば『いいかげん結婚しちまえ、てめえら』と思ってる人たち」
「……」
「そこでまた、ごまかしちゃったわね、ハル。そしてまた、キョン君がフォローしてくれたね。……はい、母さんの、つまんないお話はおしまい。気分を切り替えて、お腹をすかせて帰ってくる二人に、おいしい昼食をつくりましょう!」
「……か、母さん」
「今後に期待してるわ、団長さん♪」
「……」


 「おはおうございます」
「あ、キョン君、いらっしゃい」
「えーと、こちらはハルヒのおやじ、もとい……」
「あれの父親で涼宮と申します。この若者ともども、娘のハルヒがお世話になっております」
「これは、これは。昨夜はお誘いいただいたのに、どうしても欠かせぬ用事がありまして失礼しました」
「いえ、こちらこそ。何ぶん、本人たちには事前に教えないという稚気じみた趣向でしたので、ご迷惑をおかけしました。今日は、娘から聞きました洋館風の建物の件で参った次第で」
「はい。これから現地をご覧になられますか」
「お願いします。あと登記簿の写しを拝見できれば」
「はい、こちらです。二人に渡そうかと思って用意しておいたものです。お持ちになってください」
「うちのバカ娘が、とにかく現場へと急かせたんでしょう。娘のくせに、親に輪をかけた粗忽者で」
「いえいえ、あの機転の速さ、行動力、私などはうらやましい限りですよ」
「拝見します。うーむ、なるほど。これはおもしろい。キョン『君』、君も見るか?」
「あ、はい」

 登記簿を一通り眺めた後、親父さんの肘でつつかれ、不動産屋を後にした。
 「気に入らねえな」
しばらく歩くと親父さんはため息を付くような感じで、そうつぶやいた。
「不動産屋のおじさんですか?」
「あいつは見るからに善人だ。おれが言ってるのは物件の方だ」
 登記簿のコピーを入れた大封筒をぽんと叩いて、親父さんはニヤリと笑った。
「こいつをみると、この家はな、持ち主が死亡して所有権が移ったなんてのは一回もない。それどころか、誰かに売り渡された後、しばらくすると元の持ち主に買い戻される、というが繰り返されてる。あるのは『呪い』というより『執着』だな。埋蔵金でも埋めてきたのか? あるいは子供時代に埋めたタイム・カプセルか? まあ、家なんてモノは、半分は住む奴、住んでいた奴の「想い」でできてるんだけどな」
「はあ」
「それともうひとつ。おれは臆病なんでな」
「はあ?」
「つまんないリアクションだな、キョン。……始めて来た町は、最初にとことん歩いて回ることにしてる。昼と夜、両方な。10数年前、この町に越してくる前、このあたりも歩いて回ったんだがな。こんな建物、ここにはなかった。おれは物覚えだけはいいんだ」
 いつしか俺たちは、洋館の前に来ていた。二人は壁の外から、建物を見上げた。
「しかも、登記簿には少なくとも30年前には、ここにこいつがあった、ことになってる。バカ娘が喜ぶはずさ。こいつはトンデモ物件だぞ、キョン」


その3へつづく

















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