ハルヒと親父 @ wiki

For piano four hands

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haruhioyaji

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「ハル、もう筋肉痛はいいの?」
「すっかり全快よ! 今ならリストの超絶技巧練習曲どころか、ソラプジの超絶技巧百番練習曲だって楽勝よ!」
「うーん。ソラプジを楽勝で弾くのはソラプジ本人にも無理っぽいけど。それに100曲あるから、全部弾くと7時間以上かかるわね」
「で、母さん、やる曲は決まったの?」
「演奏したいのは、いくつかあるのだけれど。……そうねえ。ハル、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』を、ラヴェルが連弾用に編曲したのがあるのだけど」
「母さん、前に一人で弾いてたことあったね」
ボーウィックがピアノ独奏用に編曲した方ね。10本の指の限界に挑戦、みたいな感じだったけど」
「あれ、よかったわ。ちゃんとドビュッシーに聞こえたもの」
「ありがと。あなたに褒められるのが一番うれしいわ。私たちもドビュッシーに聞こえるかどうか、やってみましょう」

「さすが、ハル。途中、随分飛ばしたのけど、ちゃんと付いて来たわね」
「ちがうわ。母さんに、合わせたの」
「へえ、絶好調ね。これも愛の力かしら」
「母さん!」
「実力よ、とまでは言わないんでしょ?」
「ど、努力よ、そう努力」
「努力できるって、幸せね。どれだけ恵まれているか、しっかりかみしめてね」
「うん、分かってる」
 今は力む必要も、めちゃくちゃに力を飛ばす必要もない。力は、込めれば込めるだけ、ちゃんと誰かに受けとめられる。手応えがある。だから、あたしは頑張れる。

 「For piano four hands」
「え?」
 母さんの言葉は、ときどき歌のようだ。とくに外国語を不意打ちされると、メロディだけを聞いてしまって、内容が入ってこない。バカみたいに聞き返すことになる。
 母さんは、うれしくって仕方がないって顔でこう言った。
「フォー・ピアノ・フォー・ハンズ。連弾のことをそう言うのよ。ピアノのための4つの手。ちょっとした駄洒落ね。ピアノはオーケストラに出せる一番低い音から一番高い音まで出せるでしょ。今のように録音装置がない時代にはね、誰それの新しい交響曲っていっても、実際にコンサートに足を運ぶことでしか聞くことができなかったの。あと、あるとすればピアノで再現することね。でも同じ高さの音が出せると言っても、多人に無勢、所詮は2つの手10本の指じゃ限界があるわ。だからね、ピアノのあるお家では大抵、4つの手で『再生』してみせたの。コンサートに行けなかった家族のみんな、おじいちゃんやおばあちゃん、ちっちゃな子たちと、感動を分かち合うためにね」
「そうなんだ」
「自分の娘と連弾できるなんて、夢にも想わなかったわ。夢がかなったよりも幸せね」
母さんはなんでもできる人だけど、思い描いていた夢をかなえられたわけじゃない。でも、今の母さんが幸せなことは誰にだって分かる。
「あなたは、どんどん夢かなえちゃっていいのよ、ハル。母さんに遠慮なんて要らないから」
「うん。あ、でも遠慮とかは全然してないから」
「そうね。してないわね」
真面目な顔でそう言ってから、母さんは笑った。あたしもつられて笑う。
「次の目標は、孫といっしょに演奏することね」
「な!母さん?」
「ひとりごとよ、ハル。ひとりごと」
「もう!その手の冗談には乗らないからね!」
「だから、ひとりごとよ」



連弾演奏シーンを含む
涼宮ハルヒのリフォーム



注釈(よけいなひとこと)
ラヴェルが連弾用に編曲した
ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』は、彼の名を高めた出世作で、2台ピアノ用にはドビュッシー自身が編曲してますが、ラヴェルが編曲した連弾用もまた、非情にピヤニスティックな「傑作編曲」です。もともと管弦楽曲である原曲の各パートをこれほど省略せずに、1台のピアノで弾けて、さらに元々ピアノ曲(しかも傑作の部類)であったかのようなクオリティ。悲しいかな、ほとんど演奏されることがなく、録音されたものも希少(楽譜はわりと入手しやすいのですが)。とおもったら、なんでもあるな、Youtube. Philip Chiu と Janelle Fungという若手ピアニストの連弾がありました;http://www.youtube.com/watch?v=E7ewdXpvles&translated=1
)。涼宮母娘が連弾をやるからというには外せない一曲、ということで選びました。
連弾用編曲のくわしい紹介はこちらをご覧下さい。連弾についての、楽しくてためになるサイトの一部です。
https://ss1.xrea.com/www.rendan.net/gold.rendan.net/debussy.htm


ボーウィックがピアノ独奏用に編曲した
こちらについては、
http://www.ne.jp/asahi/piano/natsui/Debussy.htm
の解説をご覧あれ。ここも、ピアノ用に編曲した楽曲(楽譜)を紹介する有名サイト。
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