ハルヒと親父 @ wiki
長門有希の空腹
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haruhioyaji
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- ハルヒ
- 親父! 味付けはともかく、あんたはいつになったら量の調整ができるようになるのよ!?
- オヤジ
- 母さんが精魂込めて育てたゴーヤだ。大事に使おうと思ってたら、他の食材が増えた。
- ハルヒ
- 意味がわかんない! このゴーヤチャンプルー、5人前はあるわよ! まあ、とりあえずキョンを呼ぶとして……。あ、キョン?あんた暇でしょ、今すぐうちに……。
- オヤジ
- おい、ハルヒ、ちょっと玄関先を見て来い。誰か倒れた音がした。
- ハルヒ
- 何を言って……。
- オヤジ
- 親父イヤーは、地獄耳だ。いいから見てこい。
- ハルヒ
- まったく、なんだって……。ち、ちょっと! 有希? なに、どうしたの!?
- 長門
- おなか……すいた。
- オヤジ
- ほう、いい食いっぷりだ。長門、もっと食っていいぞ。
- ハルヒ
- 親父、おかわり!
- オヤジ
- おまえは単なる食い過ぎだ。自重しろ。
ピンポーン
- ハルヒ
- 誰か、来たわよ。
- オヤジ
- 来たわよ、じゃない。おまえがキョンに電話したんだろうが。
- ハルヒ
- あ、そうか。でも、もうあたしたちで食べちゃったわね。
- 長門
- 食べた。
- ハルヒ
- 帰ってもらいましょう。
- オヤジ
- おまえ、そのうち捨てられるぞ。
- ハルヒ
- あ、あたしたちはねえ!
- キョン
- おい、ハルヒ。あがらせてもらうぞ。
- ハルヒ
- ち、ちょっと、勝手に上がってこないでよ。
- キョン
- いきなり電話が切れたら、心配になるだろ。お、長門、どうした?
- 長門
- 生活費が底をついた。3日間、何も食べてない。
- ハルヒ
- ちょっと、有希、それほんと?
- 長門
- ほんと。
- ハルヒ
- 何でもっと早く言わないの!
- キョン
- 底をついた、って何か高額なものを買うとか無駄づかいしたのか?
- ハルヒ
- あんたじゃあるまいし。
- 長門
- した。
- ハルヒ
- したの?
- キョン
- 何を買ったんだ?
- 長門
- マッサージ・チェア
- キョン
- 長門……肩、凝るのか?
- 長門
- 少し。
- ハルヒ
- 少しじゃないわよ、ガチガチのバリバリじゃない! キョン、特別に許すから、有希の肩を揉んで上げなさい。
- オヤジ
- 何で、おまえが特別にゆるす?
- ハルヒ
- 有希はね、あんたと違って思ったことをぱーぱー言っちゃえる娘じゃないの。むしろ内に貯めこむ方なのよ!ストレスもためれば、肩こりにもなるわ!
- オヤジ
- どの口で言うんだ、そういうことを?
- キョン
- それに、思ったことをいつもぱーぱー言ってる、おまえの肩こりもすごいぞ。
- ハルヒ
- あ、あたしのことはいいのよ! 有希、キョンはいつもほとんど何の役にも立たないけど、肩揉みだけはなかなかのものよ。
- オヤジ
- なんで、おまえがそんなこと知ってるんだ?
- ハルヒ
- なんどもいうけど、あたしのことはいいのよ! さあ、有希、日頃の疲れと気苦労ごと、揉みほぐしてもらいなさい!
- キョン
- じゃあ長門、いくぞ。
- 長門
- (こくり)
- オヤジ
- バカ娘、おまえがキョンにいつも肩もみさせてるのはよおく分かったから、キョンの動きに合わせた百面相をなんとかしろ。あと「くーっ」とか「きくーっ」とか唸るのもよせ。
- ハルヒ
- あ、あたしは有希に感情移入してんのよ!
- オヤジ
- だったら、それもやめろ。もしくは、心の中だけにしろ。
- ハルヒ
- キョン、有希が終わったら、今度はあたしの番だからね!
- オヤジ
- やれやれ、聞きやしねえ。……長門、晩飯も食ってけ。母さんが帰ってくるから、さっきよりマシなものが食えるぞ。それから食材も持って帰れ。あと、今度から倒れそうになる前に来いよ。うちは、いつでも歓迎だからな。
- 長門
- (こくり)
- オヤジ
- それから、キョン。二人の肩揉みが終わったら、おれがお灸をすえてやる。
- キョン
- ええっ!
- ハルヒ
- こら、親父! キョンが何したっていうのよ!
- オヤジ
- 叱ったり懲らしめたりするんじゃない。本物のお灸、鍼灸の灸の方だ。
- キョン
- さすが親父さん、なんでもありですね。
- オヤジ
- 経穴(ツボ)の場所さえ覚えれば、誰だってできる。もぐさを揉んで米粒の大きさにし、尖がらせた先をちぎるんだ。すると小さなトンガリ帽子みたいなのができるな。消毒アルコールで拭いた経穴の上に、これを置く。これは単に濡らせてもぐさをくっつけるためだから、アルコールがなけりゃ水でもつばでもいい。さてこのもぐさのチビ山に火を付けるんだが、目標が小さいから線香を適当な長さにした奴を、タバコみたいに、かるく握った手の人指し指と中指、あるいは中指と薬指で挟む。小指を下にして相手の体において、拳ごと傾けて線香の先で、さっき置いたもぐさのトンガリ帽子に火を付けるわけだ。こうすると安定するから、間違って皮膚に線香に火を押しつけなくて済む。こういうのが面倒なら、シールで貼り付けられる千年灸みたいな商品を使えばいい。もぐさの方が格段に安いけどな。
- キョン
- 熱くないですか?
- オヤジ
- そりゃ熱い。だが落語の我慢灸みたいに熱さに耐える必要はない。チカッと熱さを感じたら、その瞬間に指を押しつけてもみ消す。昔は大量の人間を相手に商売してたから、ひと固まりを大きくして手間を省いたが、いまはこの小さくて短い灸を繰り返しやる。熱いのは一瞬だし、やけどもしないし、跡がつかない。
- ハルヒ
- なんでそんなこと知ってんのよ?
- オヤジ
- 自衛手段だ。世界中ほっつき歩いてた頃、薬なんて手に入らないし、入手できても中身の保証がない。医者については言わずもがな、だな。灸は知識さえあれば、ほとんど道具もいらん。もぐさが手に入るとは限らないが、タバコなら大抵の場所で入手できる。タバコの火を経穴に近づける、いわゆる煙草灸だな。昔はガキが親父相手にやって、小遣いをもらったそうだ。
- ハルヒ
- わかった、根性焼きね!
- オヤジ
- それじゃ、カツアゲだろ。キョン、どうしたら、こいつとまともに会話できるようになるんだ?
- キョン
- いや、実の親に教えられるようなことは何も……。
- 長門
- やってみたい。
- オヤジ
- 灸をか? 経穴の位置は?……わかるのか。さっきの説明でやり方はわかったか?
- 長門
- (こくり)
- オヤジ
- じゃあ、やってみるか。
- 長門
- 恩返し。あなたも。
- オヤジ
- おれもか。それじゃあ、頼むとするか。
- 長門
- 軽い胃炎と逆流性食道炎の疑いがある。中院と、脾経、胃経の水穴である陰陵泉、足三里に灸を。
- オヤジ
- 足はまくるとして、上は脱がなきゃいかんな。
- ハルヒ
- こら!いきなり何脱いでんのよ!
- オヤジ
- シャツだ。これが着ぐるみに見えるか?
- ハルヒ
- 見えないわよ!
- オヤジ
- 服の上からは灸はできんだろ?脱がなきゃどうしようもない。
- 長門
- あおむきになって。
- オヤジ
- よしきた。
- オヤジ
- 見立てといい、選穴といい、いい腕だ。この道で食っていけるぞ。商売にするなら資格は要るけどな。一宿一飯の恩義の後払いだ。長門、泊まっていけ。
- キョン
- あの、おれは?
- オヤジ
- うむ、使った皿を洗っといてくれ。