ハルヒと親父 @ wiki
新興宗教(一攫千金シリーズ)
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haruhioyaji
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- ハルヒ
- ねえ、キョン。新興宗教ってやっぱり儲かるのかしら? 宗教団体って税金かからないんでしょ?
- キョン
- いや、そりゃちょっと違うぞ、ハルヒ。営利事業ではない部分は、宗教法人に限らず任意団体(親睦会、サークル)でも課税されない。たとえば町内会の会費に税金はかからないだろ? みんなで町内のことに使うお金を分担し合ってるだけで、町内会長の「給料」がそこから出てるわけでもない。あれと同じ理屈なんだ。
- キョン
- お寺や神社などの宗教施設を維持管理する団体(檀家組織や氏子組織等の信者団体)が、その施設の維持管理費の負担で出し合った御布施等の寄付金は、とりあえず当該宗教法人の所得になるんだが、元をたどれば町内会費や町内の寄付金みたいなもので、町内会費と同様に課税はされん。非課税なのは、町内会館の維持管理と同様に、宗教法人の施設維持管理費用として「信者が出し合ってる」と見なされる御布施等の法人収入だけだ。
- キョン
- ちなみに町内会の余ってる土地を貸し駐車場にして他人に課すと、これは営利事業だから税金を払うことになる。宗教法人も営利事業を行った場合は同じだ。ちなみに、寺の住職や神社の神主などで、その宗教法人から給与をもらってる者は、サラリーマン同様に源泉徴収され年末調整もあるし、要するに普通に課税されるんだ。
- ハルヒ
- なんかややこしい話ね。そういうめんどくさいのは、あんたに任せるわ。
- キョン
- ちょっとまて。嫌な予感がするが、誰が教祖になるんだ?
- ハルヒ
- あたしに決まってるでしょ! あたしのようなカリスマがやらなくて誰がやるの?
- キョン
- 反対だ。
- ハルヒ
- どうしてよ? ちゃんと理由を説明しなさい。
- キョン
- というか、おまえが、いろいろいろいろな奴の好奇の目に触れるのが嫌だ。
- ハルヒ
- キョン……。
- キョン
- もう紙面に限りがあるから、ツンなしでいうが、おまえがどこか遠くに行っちまうみたいな感じだ。……要するに、ケチな嫉妬だ。忘れろ。
- ハルヒ
- ……ふう、バカキョン。デビューはね、バンドのメンバーみんな一緒に決まってるでしょ!
- キョン
- バンド? デビュー? それ、なんのこと?
- ハルヒ
- とにかく! あたしたちは何も変わらないわ。あんたが嫌だっていうのを押し切ってまで、淫祠邪教を興すつもりはないから、安心しなさい!
- キョン
- っていうか、淫祠邪教をやるつもりだったのか?
- ハルヒ
- 呪いから呪詛まで請け負う予定だったわ。
- キョン
- それ、ほとんど変わらんぞ。
- ハルヒ
- あとは信者を洗脳して、自作パソコンをバカほど作って売りさばくの! 資金が貯まったら、国政に打って出てもいいわね。
- キョン
- おまえに悪気がないのは痛いほど分かるのが、分かるからこそ頭と胸が痛いぞ! そもそも宗教ってのはそういうもんじゃないだろ?
- ハルヒ
- そうね。まずは人の心を救わないとね。
- キョン
- 救った後、洗脳するのか? 洗脳してから救うのか?
- ハルヒ
- そんなの、どっちだって良いのよ! 救うのも洗うのも、似たようなもんでしょ?
- キョン
- 日本人の平均的な宗教理解と大して違わないように見えて、大違いだ。
- オヤジ
- おー、なんだ? 悪いことするなら、俺も混ぜろ。
- キョン
- わー、原作にない不穏因子だ!
- ハルヒ
- バカ親父! 勝手に混ざってくるな!
- オヤジ
- いま「洗脳」とか、聞こえたもんでな。
- キョン
- さすが親父さん、食いついてくるところが違う。
- ハルヒ
- ただの洗脳じゃないわ、新興宗教の洗脳よ!
- キョン
- 待て待て。それだと、あらゆる新興宗教に洗脳が付き物ってことになっちまうぞ。日本人の平均的な宗教理解が似たり寄ったりだとしても、「事実とは違う」ってことを言っとかないと面倒なことになるぞ。
- オヤジ
- ああ、そっちの方が得意だ。
- キョン
- そっちですか?得意なんですか?
- オヤジ
- とりあえず「親を大事にしろ」とお道徳みたいなことしか説かないのが新宗教、「親を捨てろ」と道徳以下のことをいうのが新々宗教、と思っといて間違いない。
- キョン
- この親にしてこの子あり!
- オヤジ
- 近代化が進むと脱魔術化がすすんで、宗教やおまじないみたいなものは廃れていくだろうと、かつては言われていた。ところが近代化は一方向に脱魔術化をすすめたとは言えん。それどころかより近代化の影響が進んでいるはずの、若い世代の方にこそ、呪術的な新々宗教やおまじないは人気がある。何故こんなことになるかといえば、近代化に伴って生じる個人主義が、ひとつは個人の生き方の幅(自由)を、もうひとつは(実は同じことの裏面なんだが)他人の生き方への口出し禁止を、もたらすからだ。
- オヤジ
- 伝統社会から近代社会へ進むと、格段に個人の生き方は自由になる。かつての「こう生きるべきだ」という規範やモデルは廃れ、最低限の規範(法律)を守っていれば、あとはどうでも好きに生きてかまわないことになる。けれど、このことは人にとって負担ともなり得る。「どう生きてもいいのは分かったけど、いったい自分はどんな風に生きたらいいのだろう?」って訳だ。
- ハルヒ
- そんなの決まってるじゃない、好きに生きればいいのよ!
- オヤジ
- そう自信を持って言えるのは、おまえが「好き勝手に生きる」ことを、すぐ近くで、認めて見守ってる奴がいるからだ、バカ娘。
- ハルヒ
- わ、わかってるわよ、そんなこと!
- オヤジ
- 近代化が進み個人主義が浸透すると、他人の行動や生き方に対して、誰も文句を言わなくなるし、言ったら言ったでトラブルになるケースも増えてくる。「どう生きてもそれは個人の自由」だからだ。相手が法を犯したり、他人にひどく迷惑をかけているなら別だが、基本的には他人の生き方に口出しすることは相手の自由を侵すことであり、それ自体が「いけないこと」になっちまっている。
- オヤジ
- だがな、これは裏返すと、自分の生き方について周囲の人たちは「何も言ってくれない」ってことでもある。人間は他人に承認されたいという欲求を持っているし、他人から認められる,OKと言われることでもって、自分の行動や生き方に自信を積み重ねていく。他人の生き方に口出ししない社会は、裏から見れば、他人からの承認が得難くなる、とても貴重なものになる社会ということだな。
- オヤジ
- こんな自由で哀れで、他人からの承認に飢えた近代人に対して、宗教は3つのものを提供する。すなわち《宿命》、《因縁》、《実感》だ。マルチ商法や自己啓発セミナー、心理療法カルトなどの、疑似宗教も、大きく見ればご同様だから、まとめて片付けるぞ。
- キョン
- もう,突っ込んでいいのか,流していいのか、わからん!
- オヤジ
- 《宿命》は、普遍的な枠組み(フレーム)、すなわち世界について一貫した説明を与え、人々がいったい何をすべきなのかを示す規範を与える。「何でもできる」「どう生きても良い」近代人に対して、「人は本来こう生きなければならない」という、誰もが受け入れるべき人生の目的と方向性、そして選択の不可能性を提供する。
- オヤジ
- 《因縁》は、個別的・個人的な枠組み(フレーム)だ。おまえは(たとえば前世がこうだから、うまれた星がこうだから)、そうした人間なのだ、と個人個人に具体的な「役割」とその「理由づけ」を提供する。人間ってのは、理由が無いことが一番耐え難い。そして因縁は、個人ごとに、そしてあらゆる出来事に、それが生じた「理由」を提供する。カート・ヴォネガットが占いについてこう言っていた。「占い(星座占い、手相占い)こそは最高のコミュニズムです。すべての人に誕生日があり、大抵の人には手のひらがあります」ってな。日本人ならここに「あらゆる人には血液が流れてます」と追加すべきだな。要するに、「業が深い」人が買わされる壷(あるいはその他の対人サービス)は、不幸の除去手段ではなく、不幸の理由づけなんだ。
- オヤジ
- 《実感》は大抵の場合、宗教活動によってもたらされる。たとえば戸別訪問だ。いきなり見ず知らずの人間が自宅にやってきて、いままで聞いたこともないような宗教に入れ、といわれて入ると思うか? あれは勧誘としてはきわめて効率が悪い。目的は別にある。
- オヤジ
- さっきも言った通り、近代人は人から承認される機会が少ない。その裏面だが、こっぴどく拒絶される機会もまた少ない。戸別訪問は、信者個人に、他では得られないほど、はっきりと拒絶される機会を提供するんだ。もちろん拒絶されるのは苦痛だ。しかし、宗教ってのは、さっきも言ったように不幸や同じことだが苦痛に理由を提供する機能がある。戸別訪問で得た心の傷は、すぐさま宗教的に意味付けされ、教祖や他の信者から承認される。あまり体験したことのない苦痛から救い上げられれば、それがどんなデタラメな理由付けであっても、人は「救われた」と思うだろう。
- オヤジ
- 戸別訪問での拒絶は、これまでの日常生活やそこでの人間関係では得られなかったほどに熱く、意義深い体験になる訳だ。だから「神様の話を」という端からドアをばんと閉めてやるのは、あいつらに塩を送ってやるようなものだ。
- キョン
- な、なるほど。
- ハルヒ
- そんなの、どうだっていいのよ! 結局,儲かるの,儲からないの?
- キョン
- まだ視点はそこに居残りかよ?
- オヤジ
- 儲かる以前に、おまえには無理だ。新興宗教ったって客商売だぞ。教祖のおまえが飽きたといっても、信者はいつまでもしがみついてくるが、どうだ?
- ハルヒ
- それは気持ち悪いわね。
- キョン
- 1秒でも良いから、信者の気持ちになってやれ。
- ハルヒ
- じゃ、この案はボツってことで良いわね、キョン?
- キョン
- このタイミングで俺に振るか? もちろん結構だ。宗教なんかやめとけ。
- ハルヒ
- じゃあ、次の儲かるネタを探すわよ!
- キョン
- 続くのかよ!?