ハルヒと親父 @ wiki

ラブひげ危機一髪(二人は暮らし始めました)

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haruhioyaji

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「なんだ、また古泉から小荷物か。今度はどこの強壮剤だ?……『ラブひげ危機一発』?」
「あんた、なにしてんの?」
「ハルヒ、いや、古泉からまた怪しげな小荷物がとどいてな。中身をたしかめようと開けたところだ」
「今度はどこの精力剤?」
「いや、どうも、そうじゃないらしい。『ラブひげ危機一発』ってなんだ?」
「あんた、「黒ひげ危機一発」も知らないの?」
「それは知ってる。ナイフを順番に刺していって、『当たり』の場所に刺すと黒ひげが飛びだすゲームだろ」
「黒ひげがが飛びだしたら、そいつの負けだから、むしろ『はずれ』ね」
「こいつは、そのアレンジ版か?」
「そうね。簡単に言うと、『黒ひげ危機一発』に『王様ゲーム』を足しこんだみたいなものね。まあ、試しにやれば、どういうものか、察しの悪いあんたにも分かるでしょ」
「おう、やってみるか。……ハルヒ、突き刺すナイフになんか書いてあるぞ」
「それが『王様の命令』みたいなもんよ」
「……左となりの人にひざまくらする」
「ナイフを突き刺して、黒ひげを飛ばした者は、そのナイフに書いてある『命令』を必ず実行しなきゃいけないの」
「なるほど。先にやばそうな命令の内容が分かる上に、黒ひげ危機一発のドキドキ感が上乗せされるわけだな。しかしハルヒ、こういうのは複数人でやるから面白いんじゃないのか?」
「面白いかどうかは、あたしが決めるわ。だから、試しにやってみるんじゃないの」
「ふたりでか?」
「そう、ふたりで」
「これだと、左隣だろうと右隣だろうと正面だろうと、おれからすればみんな、おまえになっちまうんだが。それに二人だと必ずどちらかが負けるんだぞ」
「なによ、あたしでは不足だとでも?」
「ちがう、その反対だ」
「不足の反対は……過剰?……」
「ちなみに今おまえがもってるナイフには何と書いてある?」
「『みんなに土下座したまま、初恋話を30秒間する』」
「……ほんとにいいのか?」
「お互いの運と運とのデス・バトルね。いいわ、受けて立ちましょう!」
「いや、おれは一度も申し込んでない!そんな荒波に漕ぎ出したくないぞ」
「問答無用!!」

ブス(とナイフを突き刺す擬音)
ブス(とナイフを突き刺す擬音)
ブス(とナイフを突き刺す擬音)
ブス(とナイフを突き刺す擬音)
………
……

「そろそろ確率的には危なくなってきたな」
「そうね。キョン、あんたが今持ってるナイフは?」
「『中世の騎士のように膝まついて、左の人の手の甲に忠誠を誓うキスをする』だ。ハルヒ、おまえのは?」
「『ドラキュラのように、右の人の首筋を甘噛みする』……」
「……予想されたことだが、段々と『ジョアンナの愛し方: 男性があなたに夢中になる203の方法 (小学館文庫 R せ- 3-1)』に出てくるラブカップル・カードゲームの様相を呈してきたな」
「何それ?」
「2種類のカードがあって、二人でそれぞれ1種類づつを引きあう。『体の場所カード』には、指先とか唇とかへそとか××(某性感帯)とか××(某性感帯)といった体の場所が書いてある。そしてもう一方の『行為カード』には動詞が書いてあって、『やさしく触れる』、『キスする』、『なめる』、『口に含む』、『噛む』……とかなんとか書いてある。『体の場所カード』を引いた者は、『行為カード』を引いた者から、その行為をあまんじて受けなくちゃならない」
「なによ、そんなことがしたかったの? じゃあ早速カードをつくるわ」
「いや、まてまて。それだと、当たり率100%、必中必殺の「ラブひげ危機連発」になるだろうが。……せめて、この勝負の決着をつけてからにしようぜ」
 ハルヒは明らかに「勝負」という言葉に反応した。
「望むところよ!ぎたぎたにして泣かせてあげるからね!」
 別の意味で泣きそうだぞ。

ブス(とナイフを突き刺す擬音)。おれ、セーフ。
ブス(とナイフを突き刺す擬音)。ハルヒ、セーフ。

「ふー、なかなかやるわね、キョン」
 そうだな。こんなことで運を使い果たしたくはないけどな。
「泣いても笑っても、次で最後ね。あんたのナイフは?」
「『右隣の人を、膝の上にのせて腕を回し、松崎しげる『愛のメモリー』をフル・コーラス歌う』」
 これは、やられる方にとっても罰ゲームじゃないのか? あとジャスラックがだまっちゃいないだろう。
「おまえのは、なんだ、ハルヒ?……おい、ハルヒ?」
「な、な、な、んでも、ないわ」
「ものすごく、見るからになんでもあるぞ」
「うっさい、うっさい、うっさい。とにかく勝てばいいのよ!」
「というか、負けなきゃいいんだがな。じゃあ、いくぞ」
「あああああ、待ちなさい!」
「なんだ?」
「いやいやいや、いいんだけど」
どうやら、かなりすごいのが手元に残ってるらしいな。
「き、キョン、提案があるんだけど」
「なんだ?」
「あ、あたしが先に刺していい?」
「なんで?」
「つ、つまりね。あんたがセーフだったら、自動的にあたしがアウトってことじゃないの。あたしはね、そういう不戦敗みたいなのは嫌いなの」
 たしかにハルヒが嫌いそうな状況だ。どうせ負けるなら、生殺しよりも自爆玉砕か。
「わかった。おまえが先にやれ。勝負は同じだ」
「うん。そうする」
 ハルヒはすでに突き刺す穴を決めているようだった。しかしゆっくりゆっくり、太極拳のスロー再生のようにナイフが樽に近づき、ため息とともに、また少し離れる。そういうためらいを何度か繰り返し、いよいよハルヒは思いっきりナイフを樽に突き刺した。

飛び出す黒ひげ!!


 と、同時におれは何故か、最後に残った穴に自分のナイフを突き刺していた。
 ハルヒが突き刺す最後の最後になって、目を閉じたのに気付いたからだ。
 床に落ちた黒ひげが、ハルヒの足下に転がっていく。
 ハルヒはゆっくり目を開けた。そして黒ひげに目を留め、悔しさいっぱいの表情になった。しかし、樽に伸びている俺の腕を見つけて、その表情は憤怒のそれに変わった。
「あ、あんた!! 何やってんのよ!!」
「す、すまん。あんまりおまえが時間をかけすぎるんでな、緊張感に耐えきれず、思わず刺しちまった。これじゃ、どっちが負けなのか、わからんな。……おれの反則負けってことに……」
「語るに落ちるとは、このことね、キョン! あたしは負ける大嫌いだけど、それ以上に人に情けをかけられるのが最高に嫌いなの!! たとえそれがあんたでも、ううん、あんただからこそ、許せない!! 見損なったわ、キョン!!」
「……すまん」
「あんたが何を考えてとっさにそんなことをするか、あたしに分からないとでも思ったの? あたしが目をつぶってたから、バレないとでも?」
 ハルヒは自分が樽に刺したナイフを抜き、俺に突き付けた。
 それには「意中の人にマジ告白する(3分間フルに使って)」と書いてあった。

 「キョン、あたしたちは今こうして一緒に暮らしているし、反対だとか問題だとか、いろいろあったけど、二人なら楽勝で解決できると思ったし、実際そうだったわ。あんたとこれからは好きなだけ一緒にいれるんだと思うとうれしかったし、何より、あんたもあたしと同じことを考えてて、二人でどんどん話を進めていけたのも楽しかった。
 あたしは、あんたとはじめてキスをした、あの夢のことを忘れない。はじめて手をつないだ感触も、初めてはっきり好きだと言ってあんたの胸で泣いたことも、はじめて肌を合わせた夜のことも、おもちゃだけど互いに交換した指輪のことも、1年5組の初めてのホームルームであたしの自己紹介にあんたが振り返ったときのこと、あんたの言葉がきっかけでSOS団を作ることを思いついて、階段のところであんたに計画を話したときのことも、あたしは永遠に忘れないわ。
 あたしたち、この先どうなるか分からないけど、何をして暮らしていくか、どんな人たちに囲まれて、どんな風に過ごしていくのか知らないけれど、あたしはずっと、あんたのそばにいたいと思う。あんたと肩をぶつけ合って歩いたり、あんたと同じものを見て、あんたと口ケンカして、あんたがあたしを許してくれたり、あたしがあんたに甘えたり、そうやって生きていけたら、すごい幸せだと思う。だって、あたしは今だって、ものすごく幸せだから。
 でも、これだけは、あたしから、ちゃんと言っておくべきだと思うの。多分、最初で最後の告白、掛け値なしのあたしの気持ち。
 ……あ、あたしはね、あんたが『ハルヒが好きだ』と言ってくれた時ほど、幸せで温かくて包まれるような気持ちになったことはなかったわ。その後は何度もあったけどね。だからって、あたしがあたしの気持ちをあんたに伝えないっていうのは、変よ。不公平だと思うわ。だから、つまりね、……あんたが、あたしを好きでいてくれても、そうじゃなくても、あたしの気持ちにたとえ応えてくれなくたって、あたしはね、キョン、あ、あんたのことが、大好き、です」










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