ハルヒと親父 @ wiki

二人は暮らし始めましたー場外ー親父が来る その3

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haruhioyaji

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  ……この親父、家族愛に訴えてまで、娘を怖がらせようとしている。しかし怖がらせたところで、この親父に何の見返りがあるというのか。ある意味なけなしの父娘の絆をまた損なうだけじゃないのか。
 それにしても、こいつもまたダブル・バインドだ。まともに受け取れば冗談にして茶化すことができるし、相手にしなければ親の死に冷淡な態度を非難できる。いずれを選んでも、向こうに負ける余地はない。
 おれはハルヒの反応を見ようと後ろを振り返った。
「ふう。で、その不幸の手紙は何人に出せばいいの?」
おい、ハルヒ。いきなり《肝心なことは聞いてない》攻撃か?
「バカ娘、そうじゃない。死を回避する方法はないんだ」
そうだ、そういう設定だろ。
「人間いつかは死ぬわよ!」
一般論!!
「だからいつ死んでもいいように、今日の今この時を一生懸命生きるの! キョン、あたし何か間違ったこと言ってる?」
「いいや。間違ってなんかないぞ」
おれは首を振り、親父さんは天井を見上げ、ため息を付いた。
「おれが死んでも悲しくないか、バカ娘?」
「悲しいに決まってるでしょ、このバカ親父!あたしはまだいいわ。キョンがいるもの。でも、あんた、母さんをどうする気よ!? 俺と同じくらい長生きしろって言って結婚したんでしょうが!? あんたが死んで、母さんに、もしものことがあったら、生きてようが死んでようが、あんたをただじゃおかないからね! こんなとこで油売ってるんじゃない!! はやく母さんのところに行きなさい!!」
ハルヒのすがすがしいまでの正論が、親父の悪ふざけを打ち砕いた瞬間だった。
「お、おう。……キョン、邪魔したな」
「いや、大丈夫です。親父さんこそ、気を付けて帰って下さい」
「ふん、この先、50年は死ねそうにないぞ」
「100年よ」
「と、言ってやがる。あーあ、太く短く生きるはずだったんだがな」
「太く長くてもいいじゃないですか」
「人ごとじゃないぞ、キョン。おまえも、《死ねない》一人だ。しかも名簿の順位は一位だぞ。……ほんとに、そんな奴で良かったのか?」
「はい。こいつがいいんです。こいつ以外考えられない」
「バカップルが感染(う)つるから、帰る」
それから振りかえらず、親父さんは帰って行った。

 その圧倒的勝利を祝福しようと向き直ると、ハルヒは涙目だった。
「キョン! ど、どうしよう、親父、死んじゃうかも」
やれやれ。このときおれが、思わず吹きだすのをどれだけ必死の思いで堪えたか、とても言葉じゃ伝えきれない。
「あの親父さんが死ぬわけないだろう。呪いだか何だかしらないが、たとえ超常的な何かが起こったとしても、おまえのタンカやまっすぐな思いに勝てる呪いなんてあるもんか」
このあと、泣きじゃくるハルヒをどうやってなだめ、なぐさめたとか、記録しておく値打ちもないだろうから割愛する。人と人が同じ気持ちになり、そのことを確かめるために長いことやってきたあの方法、二人で腕を回して、互いに相手を自分の中に感じる以上のことは何もないからだ。

 後日、親父さんからおれのケータイに電話があった。
「あれから、昔のバカ同級生とまた集まったんだがな。おれが披露した話が、きわめつけに評判悪かった。まあ、しょうがないけどな」
 やれやれ。まったく、世の中には、家族を脅かして喜び、それを手柄話のように語りあう、悪趣味なバカ親父たちがどれくらいいるんだろう? 
「だが、ハルキョンの人気はうなぎ登りだ」
「ハルヒはともかく、おれはなにもしてませんよ」
「そんなわけがあるか。ハルヒはあの後、緊張が切れて泣いただろう? 舐めるなよ。バカ親父だって、親なんだからな」
 それを時々思い出させるんじゃなくて、いつも親らしくあってほしいと願うのはおれだけだろうか。

〜おしまい〜




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