ハルヒと親父 @ wiki

親父さんと谷口くん2

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haruhioyaji

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「えーと、前にも尋ねた覚えがあるんだが、誰だっけ?」
「このあいだ、親父さんの教えを受けた谷口です」
「おー、そうだった。その後、どうだ? もてたか?」
「おばあさん相手に100人切りを完遂しました。どっちかというと、返り討ちにされた気がしますが、勉強になりました」
「で、今はどうしてる?」
「はい、それが高じて、介護施設にボランティアへ」
「そうか。人生何が幸いするかわからんな」
「親父さん、もう一度、チャンスをください!」
「ん?何の?」
「大変充実した日々を送りましたが、本来のナンパ道から遠ざかっている気が。それに、おれ、正直言って、若い女が好きなんです!」
「それで、なんか、アドバイスすればいいんだな?」
「ぜひともお願いします!」
「アーリー・ラーニング・セットって知ってるか?」
「いや、いいえ」
「20世紀最大の催眠療法家ミルトン・ハイランド・エリクソンは、クライエントに何気ないおしゃべりをしたり、握手をしたりするだけで、相手を催眠に入れる凄腕野郎だが、そのための準備として種をまく。その種まきのバリエーションの一つだ。何でも良いんだが、誰もが体験しているような「はじめての学習体験」について話をするんだ。それも、今目の前に情景が広がるように詳しく描写的にな。たとえば初めて自転車に乗れたときの話、初めて文字を覚えたときの話。その話に引き込まれると、何かを学び始める時の脳の状態にセットされるという訳だ。これが催眠に入るという初体験への準備になる」
「で、女の子を催眠に入れて、いろいろするんですか? ぐへへ、げ、外道ですね」
「言っとくが、相手を催眠に入れて犯したりしたら、酒に酔わせて襲うのと同じで準強姦罪に問われるぞ。もう一ついうと、そういう邪な考えはすぐバレてしまうんで、相手はそもそも催眠につきあってくれん」
「がっかり」
「そういう妄想は2次元で満たしておけ。本題はここからだ。詳しい話をしてそこに引き込むと、相手の脳の状態をセットできる。これを応用してみるか。催眠なんて必要ないぞ。何の話をすれば良いと思う?」
「えーと、さっぱり」
「ずばり、恋の話だ。妄想はパターンが決まってて、あまり人を引きつけない。だから実話に限るぞ。それも詳しく描写的にな。さらに言うとだ、初恋ばなしは、相手を初めて恋をした状態にするので、相手を落とすのにもってこいだ。どうだ?」
「ああ、ものすごく納得したんですが、いますぐにでも試してみたいと思ったのですが……、すみません。人に語れるような恋を、この谷口、まだしたことがありません!!」
「顔を上げろ。エリクソンは数えきれないほどのテクニックを開発したが、その一つに、『マイ・フレンド・ジョン』技法というのがある。『おれのダチのジョンって奴がいて、そいつが〜』と前置きして、自分の友人の話として喋るんだ。これだと、かなりエロい話も、オブラートにつつんで話せるぞ。つまり、おまえ自身の話じゃなくとも、おまえの周りにいる奴について語っても良いんだ。相手を、初恋ばなしの世界に入れればいいだけなんだからな」
「うほ、それなら、心当たりがあります! ありまくりです!」

  ●  ●  ●

 「バカ親父!! 出てきなさい!」
「出てくるも何も、同じ家に住んでるだろ」
「あんた、アホの谷口に何教えてたのよ!?」
「んー、忘れた」
「あのアホ、あたしたちの話をネタに、ナンパしてんのよ! 当然失敗してるけど、あんまりあちこちでやるもんだから、あたしたちの話が町中で大ブームよ」
「ほう、ハルキョンで町おこしか。西宮市もやるな」
「やるな、じゃない!」
「マニアの巡礼スポットに、『神足の恋愛スプリンター谷口の像』を入れるように提言しとこう」
「しとこう、じゃない!!」




親父さんと谷口くん





神足(しんそく):

仏典に登場する六つの神通力(神足通・天耳通・他心通・宿命通・死生智・漏尽通)のひ
とつで、「一刹那の中にでも、百千億・百万の仏国土を飛び越えて行く」ほど、めちゃくちゃ足が速いという意味。
大辞林の「六神通(ろくじんずう)の一。自由自在に自分の思う場所に思う姿で出現し、思いどおりに外界のものを変えることのできる超人的能力」というのは、ちょっと行き過ぎかも。

以下、出典です。

漢文
 設我得仏国中人天不得神足於一念頃下至不能超過百千億那由他諸仏国者不取正覚

読み下し文
 たとひわれ仏を得たらんに、国中の人・天、神足を得ずして、一念のあひだにおいて、下、百千億那由他の諸仏の国を超過することあたはざるに至らば、正覚を取らじ。

 世尊よ。もしも、かのわたくしの仏国土に生まれた生ける者どもが皆、たとえ心のほんの一刹那の中にでも、百千億・百万の仏国土を飛び越えて行く(神足通)ということによってでも神通自在の最高の完成に達しないようであったら、その間はわたくしは、<この上ない正しい覚り>を現に覚ることがありませんように。
(『無量寿経』(梵文和訳)/岩波文庫 より)













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