ハルヒと親父 @ wiki

クレイマークレイマー

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haruhioyaji

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 いつもは、静かでこじゃれたレストランなのに、怒鳴り声をまき散らしてる馬鹿一人のおかげで、散々な事になってる。
 料理もいつもの通りおいしいし、連れに若干の問題があったけど、それを帳消しにするだけのものがあったわ。
 まったく、それなのに、ね。料理人まで呼びつけて、意味のわかんないこと、わめいてる。
「なんなのよ、あれ? 連れの女の人だっているのに」
「大方、出掛けに娘につれないことでも言われたか、ネコに飯を食わせるのを忘れたんだろ。あいつらを怒らせると、後が怖い」
「その『あいつら』の中に、あたしも入ってるのかしら?」
「キョン、おまえさんを男にしてやろう。いや、変な意味じゃないぞ。あれを解決して来い」
「行かなくていいわよ、キョン。親父が見本を見せれば?」
今日のディナーはキョンと、あと余計な馬鹿親父と。まあ、親父のおごりだっていうし、この店は気に入ってるしね。
「ご指名とあっちゃ仕方がないな」
「あ、こら、バカ親父! お店のもの、壊すんじゃないわよ!」
「ばかもの。それじゃ手本にならんだろ」
親父はキョンに「よく見とけよ」と言って、怒鳴りつづけてる男のテーブルにすたすた歩いていった。

 親父が歩いていくのと見て、ギャルソンやソムリエが動きを止めた。
 親父はテーブルに近づくと、怒鳴られつづけてる料理人と、怒鳴り男の間に体を滑りこませた。
「なんだ、おめえは!?」
「紳士だ。だから口の聞き方を知ってる」
「はあ?おれは、そのコックに話があるんだよお!」
「料理人は料理を作るのと、失敗があったら謝るまでが仕事だ。こいつは謝った。大勢の人間が、こいつの作る料理を待ってる。話はおれが聞こう」
「突然、割りこんできて、何だ、おまえは?」
「当ててみろ」
「な!」
親父は、怒鳴り男が立ち上がろうとするより早く、人差し指を男の額に押しつけた。
「手品で見たことないか?こうすると、どんな屈強な男でも立ちあがれん。……十分試して納得したか? お互いに座った方が話がしやすいだろう。あんたも見下ろされるのに慣れてないだろうし、おれも見上げられるのは好きじゃない」
「か、勝手にしろ!」
「で、どうした?食った飯が死ぬほどまずかったのか? それともゴキブリでも入ってたか? いずれにしろ保健所に連絡した方がいいな」
「い、いや、そういうことじゃない。あいつら、おれとこいつが注文した料理を間違えやがった。舐めてやがる!客をなんだと思っていやがる? 人を見てサービスを変えるのがレストランか!?」
「レストランでは、誰であろうと、客は王様だ。料理人も給仕も、先輩に必ずそう習う」
「はあ?だったら、これはどういうことだよ!!」
「そして先輩は必ずこう付け加える。『ただし、王様の中には首を切られたものも大勢いる』とな」
「……」
「で、何を頼んだんだって? ああ、これは値段ばかりで、たいしてうまくないぞ。これと、こっちにしろ。おーい、誰か注文を頼む。伝票はこっちに回してくれ。……あんたたち、まだ食ってないんだろ? 誰だって、怒ったり怒鳴ったりすれば腹が減る。腹が減ると怒りっぽくなる。そして人間誰にも、うまい飯を食っていい酒を飲んで、夜を楽しむ権利がある。じゃあ、おれは席に戻る。食事の途中なんでな。あ、それから……これはあちらのご婦人からだ」
親父は、ことあろうか、あたしを指さした。袖のなから細い瓶を取りだしてテーブルの上に置き、給仕の人にグラスを2つ頼んだ。なんとかいうシャンパンだ。
「じゃあな。よき夜を」

 テーブルに戻ると、親父はまずキョンの方を見た。
「なんか質問はあるか?」
「あのテーブルの食事は、おやじさんのおごりですか?」
「それと、「首を切られた王様」の話は、『王様のレストラン』の、まんまパクリじゃないの!」
「引用と言え。適切な場面で引きだして来れるかどうかが技なんだ。バットマンがいつもやってるだろ? あと、『おごり』うんぬんはな、話のわかったパトロン(店主)なら……、ほら、来た」
「涼宮様、またご迷惑をお掛けしたようで」
「静かに飯を食いたかっただけだ」
「当店のスタッフ一同、せめてものお礼を、と申しておるのですが」
「ここは飯を食わせるところだろ? 料理も酒も大変結構だった。それにこれ以上は入らない」
「では、このようにさせていただきたいのですが……」

 「つまりだ、本来なら店の連中で解決すべき話なんだ。クレーマーの分は無料にするとかな、いろいろ取引材料はある。だが、店が直接それを言いだすと、そればかりを狙った連中が増えるだろ? どこかの親父が格好をつけたことにしとけば、模倣犯が出ない。で、店の代わりに解決を代行してくれた「上客」に「損」をさせず、再来店の可能性を残すためには、その分は店で持ちますとした方がいい。出す金額は同じでも、出す意味がぜんぜん違ってくるのがミソだな」
「あのちっちゃいワインは何よ?」
「ソムリエとすれ違っただろ。あのときシザーズした。できたソムリエでな、多分あのワイン一本で、事をおさめようとしたんだろう。ワインで済むところを、フルコースになって悪いことをしたな。
 まあ、ここで店には二つの選択肢があるわけだ。さっき、これはまずい、こっちにしろ、とか言ってたろ。この店のものは、どれだってそれなりにうまい。まあ単に期待を高めただけなんだが、ここでまずい料理を出して、お勧めしたおれにも恥をかかせ、あの無作法な兄ちゃんたちに「二度と来るもんか」と思わせて追い返すのか、それとも「こんなうまいもの食ったことがない」と感動させて、今度はまっとうな客として、人生の大事な節目にまたここで食事をしたいと思わせるのか。ここがレストランなら、答えは言うまでもないよな? で、キョン、100点満点だと、これで何点になる?」










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