ハルヒと親父 @ wiki

フェバリット・メモリー

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haruhioyaji

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あんた、だれ?
ううん。あたし、あんたを知ってるわ。
たぶん。
あんたは、あたしを知ってるのよね?
ハルヒ? あたし、ハルヒっていうの?
すずみや はるひ
ふーん。で、あんたは?
キョン?
へんな名前。でもあんたに合ってるわ。うん、キョンって感じがするもの。
……そうらしいわね。覚えてないわ。
思いだせないっていうより、最初からそんなものはなかった、というのが実感ね。
ええ、ここに来てから随分になるわね。……正確には、そう思うというだけ。
いかれてるのは、記憶。長い方も、短い方もね。
たぶん、あんたがこの部屋を出ていったら、あんたのことも覚えていられないわ。
明日、あんたがやってきても、また同じことを言うのよ。
「あんた、だれ?」って。「キョンって感じがするもの」って。
昨日もあんたに、そういったかもしれないわね。
いいのよ。答えなくたって。それを聞いても、あたしにはどうしようもないもの。
そう、誰にもどうしようもないらしいわ。
ここは病院なんでしょ? でもあたし、医者も看護婦も見たことが無いわ。
単純に忘れているのかもしれないけどね。ひょっとしたらキョン、昨日、あんたは医者だって名乗ったのかも。
まあ、それはないか。
落胆? してないわ。とっくの昔に通り越した感じ。はは、覚えてもいないのに「とっくの昔」だって。
でも、あたしにも、「昔」があったはずよ。記憶を無くしても、過去をなくすわけじゃないはずだもの。
だって、あんたはあたしを知ってた。部屋に入って来たとき、「知ってる」って顔をしたわ。
それに、あたしが聞く前に、口の中で「ハルヒ」って言ったもの。
キョン、あんたは誰? あたしの、「ハルヒ」の何?友達?恋人?  
……ただそう思っただけよ。
ここには、めったに誰も来ないわ。
やってくるのは、いつも「特別」な連中だけ。なかなか、ここには入れてもらえないのよ、キョン。
だから、あんたが入って来れたってことは、あんたも「特別」ってことよ。
でも、あんたは、あいつらと違う。あいつらはあたしのこと何も知らないの。でも、キョン、あんたは違う。
あんたは、あたしのこと知ってるのね? そうなんでしょ? だから、あんたは「特別」なのよ。そう、他の奴らと違って!
……うそがヘタね、キョン。でも、悪いことじゃないわ。
言っちゃいけないと言われてるんでしょ? それじゃあ、こうしましょ、キョン。あんたはあたしの質問にすべてノーと答えるの。
いいわね? 「ノー」。そう、そんな感じ。
スズミヤ・ハルヒは女である。「ノー」。……なにげにむかつくわね。質問を変えるわ。
スズミヤ・ハルヒは男である。「ノー」。うん、そうね。じゃ、どんどん、いくわよ。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの知り合いである。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの友人である。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの幼なじみである。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒのクラスメイトである。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの生徒である。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの夫である。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの親類である。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの味方である。「ノー」。
キョンは、スズミヤ・ハルヒの敵である。「ノー」。
………
……

 キョン、あんたはあたしの一体何なの?
「おまえはおれの半分だ、ハルヒ」
半分って、どういうことよ?
「おれと会うまでのおまえのことは、人に聞いたことしか知らない。だが、おれに会ってからのおまえのことは残らず覚えてる」
キョン……。
「おまえが記憶を無くしたとき、おれは心を無くした。今日やっと、おまえのところまで来れた」
「あんたは、あたしの記憶を持ってるのね? そして、あたしはあんたの心を持ってるの?」
「そうだ……手を」
あたしは手を差し出した。こいつの指がはあたしの指先に触れた。
そこから膨大な記憶があたしの中に流れ込んでくる。あたしの中で、すべてのつながりを取り戻す。思いだしたくないことまで全部。なぜなら、みんなあたしの記憶だから。
「……あんた《たち》は、毎日こうしてやって来て、あたしに記憶を流し込むのね。それであたしが《力》を取り戻さなかったらリセット、あんたも、あたしの記憶も消されて、明日も今日の繰り返し?冗談じゃないわよ!」
こいつには心が無い。あたしが感情をぶつけても変えるべき表情も無い。
「《力》なんかくれてやるわ。記憶だっていらない!それよりキョン、キョンを返しなさい。あいつはどこ?どこにいるのよ!?」
「《彼》はもういない。おまえが記憶を失ったときに、彼は命を失った。我々は彼の遺伝子情報から作られたクローン。クローニングは未だ完成された技術ではない。同じ遺伝情報、記憶情報を持っていても、一体一体は同一ではない。実験は繰り返される。おまえが《力》を取り戻すまで」
「……」
「自殺しても無駄だ。おまえはこれまで3297回、自殺を試みたが、その度彼らはおまえを蘇生させた」
「あたしが《力》を取り戻したら、あんたたち全部、跡形もなく蒸発させて、キョンをよみがえらせるわ」
「それは宇宙の摂理に反すること」
「摂理なんて知ったことじゃないわよ!じゃあ、あんたらのやってることは何? あたしが死なないのはね、生きてまだやることがあるからよ! あんたたちの蘇生のおかげなんかじゃないわ。明日になって、あたしが名前さえ忘れても、これだけは忘れない。何度だって思い出す!絶対、あいつを取り戻すわ、絶対にね!!」













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