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二人は暮らし始めました-外伝-ハルキョン温泉旅行 その1

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haruhioyaji

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「あー、やっとあんたも、ゼリーとプリンの日々にお別れできるわね」
 とはいうものの、おれはゼリー生活に少しだけ未練があった。ゼリーだけであれだけの種類のものが作れるのも驚異だが、そのすべてが極ウマだったのだ。栄養なんかのことは、味付け以上に考えてあったんだろう。それ以外のものを口にしてないのに、2キロ太ったぐらいだからな。
「あんたのおなかの具合もよくなったことだし、買い出しに行くわよ!」
 買い出し、は少々大げさでも、ハルヒはずっと付き添っていたせいで、おれが熱を出してからの買い物はすべてネットスーパーで済ませていた。数日ぶりに買い物に《出かける》ことになるな。
「おれも行こう。その勢いだと、おまえだけだと持ちきれんほど買っちまうだろう」
「あんたは病み上がりなんだし、……うーん、まあ、そこまでいうなら、お供に連れて行かないこともないわ」
 いや、単なる買い物だ。それ以上のご期待には添えんぞ。
「それ以上って何よ?」
 いや、だから超新星6個分、目を輝かされても困るんだが。

 が、ハルヒはやっぱりハルヒなのだった。一旦、期待した以上は、期待の斜め上の成果を強引にもぎ取って帰ってくる天才的狩人なのだ。
 夕食の買い物を一通り済ませた途端、そいつがハルヒの目に飛び込んできやがった。
「あ、福引きやってるわ、キョン!」
 ああ、なんとなく予想がついちまったぞ。
 本気になったハルヒの《引き》の強さは、出雲風土記の「国引き」神話に登場する八束水臣津野命を凌駕して余りあるゴッド・ハンドなのであった。たとえくじに当たりが入ってなかろうとも、必ずや引き当てたいものをゲットしてしまうであろう。ご存知のとおり、中には「神そのもの」と呼ぶ奴までいる。
「ね、キョン。あんたはどれがいい?」
 いや、あのな、ハルヒ。福引きってものはな、どれが当たるか、いや当たるかどうかすら分からないところに、わくわくどきどきの醍醐味があるんだ。受験校じゃないんだから、先から目標を絞り込むのは、どうかと思うぞ。
「じゃあ、あれを狙うわ。1等ペア温泉旅行」
 絞るどころか狙ってるよ、この人は。
「キャー、当たったわ。さすが、あたしたち、ついてるわ!!」
 一行のタメも描写もなしかよ!
 ああ、ガランガランと当たりをつげる鐘の音もどこか空しげだ。福引き初日に1等をかっさらわれたのだから無理もない。って前にもこんなことがなかったか? そのうち、「福引きプロおことわり」の回状が、あたりの商店街に回るんじゃないだろうか、おれたちの顔写真入りで。


 「さあ、キョン、温泉に行くわよ!!」
「テンション高いな、ハルヒ」
「あたりまえでしょ。ひなびた温泉旅館に逃避行、まるで演歌、もとい、かけおちじゃないの!」
「いや、おれたちの仲は両方の家公認だし、現に同棲だってしてる。いまさら、かけおちも何もないだろ」
「分かってないわね、キョン。障害があればこそ、愛は燃えあがるのよ!ロミオとジュリエットを見なさい!」
「燃えあがるのはいいが、あれバッド・エンドだぞ。10代そこらでお互い勘違いしたまま死んでいいのか?」
「うー」
「それに『ひなびた』っていうが、部屋ごとに露天風呂のある人気の宿みたいだぞ」
「それよ、エロキョン!」
「どれだよ? いいから、鼻血を拭けって」
「ああ、ティッシュを詰めると、よけいに鼻の粘膜が傷つくのよ。血が出てる方を、指で横から圧迫して止血するの」
「こうか?」
「ああ、もう。こうよ!」
「痛てて、おれの指ごと押しつけるな」
「血が止まるまで、しばらく、そうしてなさい」
「別に構わんが、鼻血ブーな妄想は胸にしまっとけ。しゃべっても、どうせ背景色でしか書けん」
「なんでそんな冷静でいられるの!カップル様ご専用の部屋つき露天風呂よ!」
「普通は部屋に風呂がついてると思うんだが。それで?」
「この部屋のちっちゃなお風呂じゃできないような、あんなことも、こんなこともやりたい放題よ」
「まてまて。貸し切りなのは、部屋とそれについた露天風呂だけだぞ。両隣も、ややずらしながら同じ構成だろうし、露天というのは、空に開けてるってことだぞ。声なんか周囲に聞こえ放題だ。お湯をかけ合って『きゃっ、きゃっ、やったわね!』ぐらいにしとけ」
「平気よ。第2宇宙速度で叫べば、重力を振りきって星になるわ」
「無理言うな。すでに音速を何倍も超えてる」


その2へつづく















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