ハルヒと親父 @ wiki

ハルヒのピアノ

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haruhioyaji

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 ピアノ? ああ、それは母さん。なにしろ、バレエとピアノで根っこができてる人だからね。


 習った、というより、遊びね。砂時計がピアノの上に置いてあってね、それを倒して、3分間、一人で弾くの。

 最初は曲にも何にもならないわよ。でもピアノの鍵を叩けば、とにかく音は出るでしょ。最初はそれで十分楽しいわけ。デタラメに叩いて、デタラメな音でね。

 3分間が終われば、次の人の番。あたしが最初なら、次は母さんね。母さんも何か3分間だけ弾くの。それはうっとりするようなきれいな曲だったり、ただあたしが叩いたのをそっくり真似したりとか、いろいろだったけど。

 母さんが真似するあたしのデタラメを聞いてたら、嫌になるじゃない。だから、あたしも母さんみたいにきれいなのが弾きたいと思うようになったわ。

 でも教えてといっても、笑ってるだけでね。ほら、ハルの番よ、って。で、自分なりに母さんのを真似してみるの。最初は同じ鍵を、ただリズムだけは同じように叩くのがせいいっぱい。

 そしたら、かあさんも、キーを一つだけ叩いて返してくるの、ちょっとしたメロディになったやつをね。これなら真似できそうだと思って弾くと、やっぱりちょっと間違えたりしてね。母さんはもう一度同じのを弾いてくれて、そしたら今度はできて。喜んでたら、うれしそうなメロディを母さんも弾いてくれるの。そういう遊びね。

 お互いに弾き合う曲もちょっとずつ複雑で難しくなっていくし、段々と使う指の数も増えていくしで、結構大変だったけどね。でも、おもしろかったし、楽しかったわ。

 で、きっちり3時間で終了。なんで?って聞いたら、もっとやりたいな、ってところで終わった方が、明日もやりたい!って気持ちになるでしょ、って。だから、その3時間はお互い一言もしゃべらないの。時間がもったいないでしょ。ほんと鍵盤を叩いて、コミュニケーションしてた感じね。

 だから今でも、一回聞けば大抵の曲は弾いて再現できると思うし、なんかメロディーを投げて来られたら、いくらでもアレンジして投げ返せるわよ。


 でも正式に習った訳じゃないし、バイエルとかツェルニーの何番とか、そういうのわかんなかったわ。

 小学校でピアノ習ってる子と話が合わなくて、その話を母さんにしたら、ニコニコして聞きてて、どっこいしょと、何冊もある楽譜の束を出して来てね。

 今から、この本、弾くからね、と、すごいスピードでがんがん弾いて行くの。はい、一冊終わり。じゃあ、あなたの番よ。弾いてみて、って。

 確かこんな感じだったかな、とうろ覚えで弾き終えると、だいたいできてたから、次へ行きましょう、って。

 バイエル、チェルニー、ブルグミュラーソナチネ、いわゆる教則本の類いをぜんぶ駆け足で二人して弾いてみて(実は母さんが以前弾いてくれたことのある奴がほとんどだったんだけどね)、「どうだった?」って母さんが聞くの。

「どうって?」
「ピンと来るものとか、これってやつあった?」
「うーん、いくつか、へえ、と思う奴はあったけど」
「これと、これと、あとこれかしら?」
「ああ、うん。よくわかるね」
「隣で弾いてるのを聞いてるんだもの、ハルの心まで分かるわよ」
「そうなの?」
「ハルだって分かるでしょ?あたしが弾いてたら」
「ああ、そうかも。というより、ピアノでお話してる感覚だった気がする」
「そうね。この手の本は、弾きたい曲を弾けるよう指がちゃんと動くように、っていう訓練なの。せっかく親と娘なのに、知らない人が書いた教則本弾かせて「ここ間違えた」とかやっても悲しいじゃない。せっかくのハルとの時間を、そういう風に使いたくなかったの。母さんのわがままね。でも、演奏家になりたいんだったら、ちゃんとした先生に習うのもいいわね」

 それでどうしたかって? もちろん、「ピアノでお話」の方を選んだわ。ピアノを習ってるって子、全然楽しそうじゃなかったから。











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