ハルヒと親父 @ wiki
二人は暮らし始めました 10日目
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haruhioyaji
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- ハルヒ
- うちは女二人に男一人よ。
- キョン
- 俺のところは、男女二人づつだな。
- ハルヒ
- うちではトイレの便座は、普通降ろしてあるわ。
- キョン
- おれのところは、上げてある。
- ハルヒ
- あんたん家は、なんで便座を上げてるの?
- キョン
- 知らん。父親に対する、わずかばかりの敬意の表現じゃないか。
- ハルヒ
- 妹ちゃんは、あんたと結構歳が離れてるわよね。上げたままだと、小さい頃危なくなかったの?
- キョン
- ああ、トイレトレーニング用の奴があるだろ。あれ取り付けるには、便座を上げとかないといけなかった。その名残かもしれんな。……しかし、これは今決めなきゃならない問題なのか?
- ハルヒ
- 甘いわね、キョン。新婚、同棲に関わらず、男と女が暮らし始めたとき、もめごとの種になる第3位が、この「トイレの便座は上げたまま(男性優位)それとも降ろしたまま(女性優位)」問題よ。事は生物の根幹に関わること、しかもはっきり口するのが憚られる話だからこそ、お互い不便と不都合を心の中に抱えたまま、それが火種となって、思いもしないときに紛争に発展するの!
- キョン
- そ、そういうものなのか?
- ハルヒ
- さて今、この部屋は、あんたとあたし、二人きりよね。
- キョン
- ああ、男女一人づつ、同数だ。
- ハルヒ
- 多数決で決める訳にはいかないということよ。
- キョン
- こういう問題は、お互いに自分の慣れ親しんだ習慣を「基準」にするから折り合いがつかないんじゃないのか? おれはいいから、おまえとこの方式にしよう。そうすりゃ、混乱は少ないだろ。
- ハルヒ
- ちょっと待ちなさい。何、自分は細かいことにこだわらない包容力の大きい男だ、みたいなこと言ってるの?あんたとあたしを冷静に比較した場合に、どっちが順応性に優れてるの?
- キョン
- それは何をモノサシにするかで大きく変わってくるぞ。
- ハルヒ
- どういうことよ?
- キョン
- つまりだ、世の中のどんなジャンルでもいい、新たに知識を獲得したり、新しいスキルを身につけたり、といったことじゃ、おれとおまえじゃ比較にならん。むしろ、おれはおまえ以上に、この点について秀でた奴を見たことがない。
- ハルヒ
- ふんふん、それで。
- キョン
- しかしだ、一度決めたことが、あとでどんなに不合理で不都合だと分かったとしても、それを絶対に変えないという点で、ぜんぜんまったく融通の利かないという面で、おまえほど「順応」という言葉からほど遠い人間を、おれは人類の長い歴史の中で、見つけ出すことができん。
- ハルヒ
- 褒めてるの、それ?
- キョン
- 褒めてない。だが惚れてる……ところの、ひとつではある。
- ハルヒ
- ……ば、ばか。
- キョン
- ……ば、ばかだとも。
- ハルヒ
- ……ん、ん、ごほん。じゃ、あたしの提案を言うわ。あんたの家の方式にしましょう。あんたがどう思ってるか知らないけど、あたしは本来《つくす》タイプの女だから。
- キョン
- それは、「食べ尽くす」とか「燎原の火となって野山を焼き尽くす」とか「大海を酌みて水をば尽くす」(『三宝絵詞』)の、「つくす」じゃないよな?
- ハルヒ
- 当たり前でしょ! ちなみに「乱暴狼藉の限りを尽くす」という意味でもないわ。相手のために献身的に努力する、という意味の「つくす」よ!
- キョン
- それに関しては、いまでも十分おつりがでるくらいだぞ。
- ハルヒ
- そ、そう?
- キョン
- お前は、何やらしても器用にこなすし、手を抜くことをしないし、すべてにおいて全力投球だから「この程度は当たり前」と思ってるのかも知らんが、部屋代折半とは言え、大して余裕のない生活費の中で、毎日こんなにうまいものを食べて、掃除の行き届いた部屋で居心地よくすごして、ホテルみたいに完璧にベッドメイクされた寝床で眠って、となりに、すぐ届くところにお前の笑顔があれば、あとはもうなんにもい……
- ハルヒ
- バカップル・モード解除!! そこへ持って行くと、もう何がどうだって良い状態になって、何も決まんないでしょ! 釣った魚に餌をやらないというけれど、あんたは逆よ! どうしても、あたしを「愛の北京ダック」状態にしたいらしいわね。
- キョン
- それはこっちのセリフだ。このままだと、ひきこもりバカップルが一組できちまうぞ。
- ハルヒ
- でも、距離を置くとか、別居するとか、別れるとはダメだからね。
- キョン
- 論外だ。
- ハルヒ
- とにかく、なし崩し的にずるずる行かないためにも、私達に今必要なのは規律よ。二人の合意に基づくルールよ。
- キョン
- 大筋で同意だ。
- ハルヒ
- で、どうすんの?便座は上げたまま?それとも降ろしたまま?
- キョン
- やっぱりそこかよ!?
- ハルヒ
- 千里の道も一歩からよ!
- キョン
- ……ちょっと待て、おれたちは二人だぞ。
- ハルヒ
- 一万年前と二千年も前から二人っきりよ!
- キョン
- いや、そんなアクエリオンな話は知らんが、とにかくだ、おれじゃなかったらおまえだし、おまえじゃなかったらおれだ、ということだよな。
- ハルヒ
- あたりまえのことを、どうやったらそこまでややこしく伝えられるの!?
- キョン
- だから、この家としてどちらかに決める必要はないんじゃないか、と言ってるんだ。おれがトイレから出る時は、次に入るのがどっちだろうが、おれはおまえのために便座を下げておく。これで、どうだ。
- ハルヒ
- つまり、あたしがトイレから出る時は、次に入るのがどっちだろうと、あんたのために便座は上げておく、ということね。
- キョン
- そうだ。
- ハルヒ
- そのルールを採用してもいいけど、今すぐ施行しない方が良いわね。
- キョン
- 何故だ?
- ハルヒ
- あんたに高熱を出させた腸炎は、熱はおさまったけれど、腸としての機能は回復し切ってないから、あんたは当分、トイレに通いつめることになるからよ。
- キョン
- うっ・・・。ちょっと行って来る。
- ハルヒ
- いってらっしゃい。
ハルキョン温泉旅行 その1へつづく