ハルヒと親父 @ wiki

ツンデロイド

最終更新:

haruhioyaji

- view
管理者のみ編集可
 このどうみても人間にしか見えない、いやもうはっきり言ってしまおう、あの涼宮ハルヒにしか見えないロボットが、俺の部屋で今、目を閉じて床に横たわっている。何故かは分からん。とりあえずマニュアルを読むぞ。

「これはツンデロイドよ。そこ、間違ってもロボットなんて呼ばないように。呼んだら死刑だからね!
 新型のアンドロイドと考えてもらって間違えじゃないわ。従来型とは、人間っぽさが段違いだけどね。入手したら、まずリセットボタンを押してちょうだい。これで再起動するわ。
 再起動して間なしのツンデロイドは、簡単に言うとツン成分が100%の状態ね。愛情を注いでやさしく接してあげると、次第にデレ成分の割合が増えていくというわけ。デレ100%までいくと、地上に一組バカップルが誕生することになるわ。
 とにかくやさしく接すること。わかりにくいのはダメよ。ストレートでないと通じないんだからね。あと他の女の子にやさしくしたり、妙に親切だったりすると、むくれてツン度がアップするからそのつもりで。
 なお、このマニュアルは自動的に爆発したりはしないけど、内容を頭に叩き込みなさい。いいわね!? くれぐれもやさしくよ! 以上」

 なんなんだ、このマニュアルは。書いた奴の顔が見たいぞ。いや、もう見てるだろ、なんてツッコミは無用だ。どういうわけか激しく落ち込みそうな気がするからな。
「あんた、誰よ?」
 再起動したそいつ、ツンデロイドは目を開けてむくりと上半身を起こすと、不機嫌そうな目で俺を見た。マニュアルによると、いまはツン100%状態らしいが、ごあいさつな奴だな。俺の名前はな・・・・
「わかった!あんたキョンね」
 はい、本名で呼ばせる作戦、頓挫。おおむね「既定事項」だとは思っていたが、試みさせてもくれないのか。
「だって、あんたはキョンだ、ってPRAMに書いてあるわ」
 貴重なメモリをそんなことに費やすなよ。リセットといっしょにPRAMクリアすればよかった。
「あたし?あたしはハルヒよ。決まってるでしょ。あ、ちなみに試作機よ。モニターの評判がよければ量産されることになるわ」
 絶対やめとけ。万一そんなことにでもなったら、「機関」の資金を全部吐き出させても、それが無理なら長門に上限なしのブラック・カードをつくってもらってでも、量産機を全部買占めないといかんだろうな。


●   ●   ●

 この、どう見ても「あいつ」にしか見えない、そうよキョンにしか見えないロボットが、あたしの部屋で、目を閉じて床に横たわって、どうやら今にも起動しそうな感じ。とりあえずマニュアルを読むわよ!

「あー、これはツンデロイドだ。まあ、別にロボットと間違えてもらっても一向に構わん。俺にだって、どう違うのか正直わからんくらいだしな。
 とりあえず新しいアンドロイドみたいなものとでもしておいてくれ。従来型とは、人間っぽさが違うということらしい。入手したら、とりあえずはリセットボタンを押してみてくれ。これで多分、再起動するはずだ。
 再起動して間なしのツンデロイドは、言うなればツン100%の状態といった感じだ。やさしくしてやれば、次第にデレ成分の割合が増えていくことになっている。デレ100%までいっちまうと、地上に一組バカップルが誕生することになっちまうが、くれぐれもそんな恐ろしいことはしないでくれ。頼む。
 なお、このマニュアルは自動的に爆発したりはしないし、そんな装置を組み込む予算もない。まあ適当にとっておいて、気が向いたら見てくれ。どうせマニュアルなんか読まずに、壊れた機械は殴ればいい、なんて奴のところにいく気がするんだがな。以上」

 何よこれ、マニュアルを書いた奴の顔が見たいわ! もう、見てるだろ、とかいうツッコミは却下よ。と、起動したみたいだわ。
「ん・・・何だ、ハルヒか」
「何だとは、何よ? それにいきなり呼び捨てってどういうつもり!?」
「何怒ってるんだ? 帰りにアイスでもおごってやるから機嫌なおせ」
 ああ、頭来るわね。このあたしのご機嫌をアイスごときで取ろうとするなんて生意気よ。とりあえず、アイスはおごってもらうけどね。あ、あんた、お金は持ってるんでしょうね?



 そんなこんなで俺とツンデロイド「ハルヒ」との、奇妙な「同棲」生活は始まった。
 ああ、あの後、一応こいつの意向は確認したぞ。
「おまえ、これからどうするんだ? どこか行くところはあるのか?」
「あんたとここで暮らすに決まってんでしょ! リセット・ボタン押したんだからね、ちゃんと責任取りなさい!」
 って、これなんていうワン・クリック詐欺? リセット・ボタンなんて「なかったことにする」ボタンじゃなかったのか。
 かといって、こいつをこのまま放り出す訳にも行かないだろう。第一、こいつが偶然にも、あのハルヒに出会ってしまう可能性だってある。こいつがあいつのコピーのようなものなら、その行動パターンも同じなはずであり・・・
「なにブツブツ言ってんのよ!?」
 なんでもない。なんでもなくはないが、今おまえに話す訳にはちょっといかない。それと、なんだ、あいつそっくりな顔を、そんなに近づけるな。いろいろ、やばいんだよ。
「だって、そういう『仕様』だもの。しょうがないじゃない」
 とぷいと横を向いて、口をアヒル的にとんがらせる「ハルヒ」。
 やれやれ。『仕様』なのか。しょうがない。山田君、歌さんの全部持っていきなさい。
「暮らすのはいいとしても……」
 ああ、数多のSS職人も通った茨の道だ。主に俺の理性にとって茨の道なんだが。
「寝るときは、その、どうするつもりだ?」
 けほん。けほん。
「押入れに客用布団があるじゃない」
 なんでそんなことまで知ってるんだ?
「うっさいわね。なんでもいいでしょ。PRAMよ、PRAM」
 やっぱりPRAMクリアすればよかった。
 こいつ、あんなことやこんなことも、知ってるんじゃないだろうな。


●   ●   ●

 というわけで、今あたしはツンデロイド「キョン」と、一緒に居る訳だけど。なんか落ち着かないわね。
「どうした、ハルヒ? 腹でも痛いのか? 確かお前のは、月の初め……んがあ!!」
 な、なんでそんなこと知ってんのよ! ああ、答えなくていい。答えたら、もっかい蹴るからね。

 とりあえずアイスでも買いに行かせようかと思ったんだけど、よく考えたら、こんなものがうろうろしてて、キョンとばったりとなったら、まずいわ。何がどうまずいかは、複雑なところだけど。
 こいつと部屋にいてできること……ね。勉強を見てやって、ツンデロイドの成績を上げてもしょうがないしね。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……!!
 ちょっと、そんなこと考えてないわよ! ドキドキなんかしてないわよ!
「どうしたんだ、ハルヒ?」
 わー、その顔を近づけるな!


(キョン・サイド)
 そういう訳で、俺はツンデロイドを部屋に置いて一夜を過ごすはめになった。
 なお、ツンデロイドは人間のようには食事を必要としないらしく、夕食時にはこいつには部屋にいてもらったので、家族はツンデロイドの存在にまだ気付いていない。
「ちょっと、キョン!」
なんだ? 急ぎじゃないなら明日にしてくれ。
「急ぎよ!可及的速やかに対処しなさい」
だから、なんだよ?
「あたしが座ってるこの布団は客用よね?」
ああ、そうだ。おまえがそうしろ、と言ったんじゃないか。
「つまり、あたしはお客扱いということよね?」
まあ、そういうことに、してやってもいい。
「客のあたしが下に寝て、しもべのあんたが上に寝るってのは、どういう了見かしら?」
はあ?なんだベッドに寝たいのか? じゃあ、かわってやるから。そういうことは最初に言えよ。
「そうじゃないわ。あんたは問題の本質を全然理解してないわね」
なんだよ、問題の本質って? っと、だれだこんな時間に・・・ハルヒ!?
「もしもし、キョン? 起きてるなら1コールで出なさい。寝てても認めるのは3コールまでよ!」

(ハルヒ・サイド;少しだけ手前から)
 そういう訳で、あたしはツンデロイドを部屋に置いて一夜を過ごすことに……なった。
 ……。
 ちょっと待って。
 こいつは、あいつそっくりだけど、あいつじゃないのよ。
 あいつだったら、その、ちょっとは考えないこともなくはないけど、これって、あいつ以外の男と一夜を過ごすってことじゃないの!?

 ……って、そうだわ! 

 もしもし、キョン? 起きてるなら1コールで出なさい。寝てても認めるのは3コールまでよ!
 電撃的に唐突だけど、あんたの家で合宿をするわ!
 そう、あたしとあんたが。そうよ、い・ま・か・ら。何度も言わせないで。ええ、あんたとあたしが、よ。
 なんのため? あんたね、そうやって理由をさがしてる間にも、地球は回ってるの! 事件は現場で起きてんのよ! 動機探しなんてミステリーの3流探偵だけでたくさんよ。
 とにかく、あたしは今から出るから、あんたは出迎えの用意をしておくように。くれぐれも家族のみなさんにはご迷惑かけないようにね。
 なによ?なにが「今はまずい」よ? あんたが避けようとするなら、それだけでもあたしが乗り込む理由になるわ。首を洗って待ってなさい!

(再びキョン・サイド)
 まずい。非常にまずい。
「何がまずいのよ?」
 ハルヒが来る。それも今から。多分、全速力で。
「ハルヒはあたしでしょ?」
おまえも「ハルヒ」だが、ツンデロイドじゃない方のハルヒだ。いわば、おまえのオリジナルというか。
「あたしが、コピーみたいな言い草じゃないの。おもしろい、受けて立つわ」
いや、待て待て。いくらおまえが「ハルヒ」だと言ってもだ、向こうはあのハルヒなんだぞ!
「何言ってるのか、わかんないわよ」
ああ、俺にもわからん。わからんが、何かとてもよくないことが起きるような気がするだろ。
「しないわよ」
おれはする。……隠れろ、とにかく隠れろ、いますぐ隠れろ。そうだ、押しいれに入ってろ。

「キョン」
うわ、もう! って、窓から来やがった。どうやって登ってきたんだ、おまえ?
「テレビでフリークライミングっての、やってたわ。あれの軽い応用ね。あたしにかかれば、これくらいなんでもないわ」
わかった。よおく、わかったから、次からスカートでやるのはよせ。
「どっこいしょ、っと」
ああ、こいつ、ほんとに窓を乗り越えてきたよ。
「キョン、この布団、何?」
何って、客用布団だ。何のへんてつもない。
「あんた何もわかってないわね。合宿と言ったら徹夜でしょ!最初から寝る姿勢でどうすんの!?」
って、そんなハルヒ・ルール、誰も知らないぞ!
「ん?この布団、暖かいわ」
 あ……ああ、念のため、俺が暖めておいた。
「キモいことすんな!」
い、いや、わるかった。ほんと、すまん。
「……キョン、あんた、何か隠してるわね? 『今はまずい』とか言ってたし」
いやいや。それは、おまえの、気のせいだ、きっと。
「……女のにおいがする」
な、な、なにを言いだすんだい、ハルヒ君?
「なに、その、あからさまなうろたえ様は? さっさと白状しなさい! 隠すとためにならないわよ」
といって、隠さなくてためになった例が古今あるだろうか?
「む、……・そこよ!」
ハルヒは、止めようとする俺を振りきり、おもむろに開いた……洋服ダンスのなかを。
「なんで、こんなところに北高の女子の制服があるのよ? さては、キョン、あんた変態ね?それとも闇のブローカー?」
いや、そこまで希少で貴重なものでもないだろう。っていうか、これはおまえのだろ!
「あ、そうか。あたしがいざというときのために『置き制服』していった奴ね」
どんな「いざというとき」だよ!?
「そ、それは……怪しい奴を尾行していて、正体がばれないように、ここで変装していく時よ。ほら、シャーロック・ホームズだって、ロンドン中にそういう隠し部屋をいくつも持っていたっていうわ!」
俺の家の前をわざわざ通り過ぎて行く「怪しい奴」って、どんな奴だよ!? というか、北高の制服に着替えたら正体ばればれだろ!
「そ、そこは臨機応変、ケース・バイ・ケースよ。だから、あらゆる事態を想定して、他にも『置きブルマ』とか『置き勝負下着』とか……」
……誰と何の勝負をするつもりか知らんが、やめておけ。
「むっ、あんたねえ!……そうよ、あたしの下着はどうだっていいのよ。 いい、キョン、今や世界中の疑惑の目が、あんたにそそがれてんの! さあ、その押しいれを開けて、自分の罪を白日の下にさらしなさい!」
それが真夜中に窓から入ってきた奴のいうことか!?
「えーい、問答無用!」
やめろ、争いからは何も生まれないと学んで来ーい!

だが奮戦もむなしく、俺は客用布団の上に投げ飛ばされ、ハルヒはおもむろに押し入れを開けた。
「「あんた、誰?」」
押し入れの中には、膝を抱えて体育座りで隠れていたツンデロイド「ハルヒ」が、上目づかいで涼宮ハルヒをにらんでいた。



「「あんた、誰?」」
「「……あたしはハルヒよ」」
 衝撃の、そして最悪のご対面である。
 ツンデロイドでない方の、つまり事態を予想していなかった方のハルヒが、ぎ・ぎ・ぎと機械仕掛けな効果音をつけたくなるようなモーションで首を曲げ、俺の方を見た。
「キョン、ちょっと、これ、どういうこと?」
 ツンデロイドの方のハルヒも、押し入れの中から、「ほら、なんとか言ってみろ」的な目で俺の方を見る。
「あー、その、つまりだ、・・・・・・二人は生き別れの……」
「「姉妹なんかじゃないわよ!!」」
 ダブル・ハルヒによるダブルつっこみ。当然、威力は2倍、いや2乗である。
 しかもツンデロイドでないハルヒの激情のボルテージは一気にMAXへと達した。古泉すまん。今夜の閉鎖空間は史上最悪最大のものになりそうだ。墓参の花は少し高い奴にする。もしも地球が、というかこの宇宙が、残っていたらの話だが……。
「あ、あんたは馬鹿でスケベで気が効かなくて、その上みくるちゃんにはデレデレしてるし、有希にはさりげない気遣いだってするくせに、あたしにはいつもいつも文句ばっかり言って!! それでもね!……それでも、信・じ・て・た・のにィ!!」
 ハルヒの悲痛の叫びは、俺の真ん中にあったものを吹き飛ばし、俺の第二胸椎から第一腰椎まで達する大きな風穴をあけた。ぼろぼろ大粒の涙を落とすハルヒを見る日が来るなんて。しかも、よりによって、俺がそんな日をつくっちまうなんて……。
 ……だが、ツンデロイド「ハルヒ」よ、その「そうそう、あたしもこいつには何度泣かされたことか」的にうなずいて、ハルヒの肩をぽんぽんと叩くのはよせ。傍観者になるな。一端でいいから責任を感じろ。

しかし、この時空間すらねじれまくった修羅場に、更なる新手が現れようとは、いかなる深遠なる知を有する神ですら予測不可能であった。
「キョンく〜ん。うるさくて眠れないよお」
妹よ、兄は大人の、というか、どちらかというと男と女の大切な話をしているところだ。うるさくしたのは悪いが、そのまま引き返して、再び眠りについてくれないだろうか。
「あー、ハルにゃんがふたりもいるー」
ああ、兄は、それだけには気づいて欲しくなかったぞ。それに気付かないなら、おまえの成長を心配していたかもしれないが。
「キョン君だけ、ひとりじめ、ずるいー」
妹よ。その、わだつみのように大らかな現状認識を、今はうらやましく思うぞ。……ツンデロイド、なにを「ここはあたしにまかせて」的な目くばせを送る? あ、ああ、なんで妹と手をつないで出て行くんだ?
「じゃあ、妹ちゃんはあたしと寝よっか?」
「はーい。でも、あっちのハルにゃんはいいのー?」
「キョンと大事な話があるんだって。だから、邪魔しないの」
「わかったー」
その聞き分けの良さを、いつか兄にも向けてくれ。そんな機会があったなら……。

 妹たちが出て行き、ドアが閉じられ、俺の部屋の中をしばし沈黙が満たした。
 ハルヒは顔を伏せたままで、今は泣いているのかどうか、俺からは見えなかった。
「……あんたが」
「ハルヒ……」
「あんたが連れこんだのが他の女ならまだ良かった。それが何? どうして、よりによって『あたし』なのよ!?」
 いや、まて。落ち着け、ハルヒ。あれはお前の姿形はしているが、おまえじゃない。おまえじゃないんだ。
「わかってるわよ! あんたがあたしを選ばないことくらい!」
 ちがうんだ、聞いてくれ、ハルヒ!
「今日、なんでこんな時間にあたしが来たとおもってるの? 今、うちには、あんたそっくりのツンデロイドってのがいて、それはあんたそっくりで、でもあんたじゃないから! ……だからあたしは、ここに来たのに。だからあたしは、ここにいるのに!!」
 ! ……ハルヒ、今の話、ほんとか?
「嘘言ってどうするのよ!」
 ハルヒ、聞け。聞いてくれ。今、妹と出て行ったのは、おまえそっくりのツンデロイドだ。ここにマニュアルもある!
「えっ……」


 それから、ハルヒと俺が、どんな言葉を交わし、自分の体験を打ち明け合って、誤解の結び目を解いていったかは、物語をもう一度語りなおすだけになってしまうので割愛したい。
 付け加えるべきことがあるとしたら……朝になるとツンデロイドは煙のように消えてしまったことだろうか。
 この件についての第一発見者はうちの妹だった。
 こいつは早朝、いつものようにノックなしで俺の部屋に侵入し、自分なりにあれこれ見分した上で、結論をこう告げた。
「キョン君! ハルにゃん! 起きて、ね、起きて。あたしといっしょだった方のハルにゃんが、いなくなったよ。押し入れも見たけど、お客さん用のお布団しか入ってないし……」



















記事メニュー
目安箱バナー