山人研究のひとつの頂点ともいえる研究論文「山の人生」のなかで自身を「神隠しに遭いやすき気質」と評する柳田國男が体験した三度の神隠し体験のうち、最も幼年時のエピソードに登場する妖怪的存在。

 柳田國男四歳の時のこと。家で絵本を読んでいた柳田少年は、母親にむかって「神戸に叔母さんはいる?」みたいなことを何度も訊くのですが、お母さんは何かと忙しかったので少年の不可解な問いかけに適当な生返事をしていたのだそうです。
 ややあって、母がふと気づいた時には少年の姿が消えている。心配してあちこち探してみたのだけれど少年の姿はどこにも見当たらない。
 数時間後。あわや鉦太鼓の大騒動になろうかという時、近所のおっさんが保護した柳田少年を家に連れて来たため一件落着とあいなったのでした。

 おっさんが柳田少年を見つけたのは家から二十数丁ほども離れた松林の路傍。びっくりしたおっさんが「どこへ行くんだ」と尋ねたところ、少年は「神戸のおばさんのところへ」みたいなことをしれっと答えたのだそうです。柳田には当時の記憶がほとんど欠落しているため、「神戸の叔母さん」の正体は一切不明。

 ちなみに大塚英志が原作を手がけた『北神伝綺』では、「山人の血を引く娘たちを“神隠し”して回る山姥」という役回りで「神戸のおばさん」が登場しているのが個人的にはすごく印象的。
※『北神伝綺』:柳田山人論で白めし三杯はイケる僕にはたまらないベストオブ民俗学マンガです。傑作すぎてこわい。



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