1609年4月4日。徳川家康が駿府城に住んでいたときのこと。
 ある朝、御庭にみんなが集まって大騒ぎしているのをみた家康公が「えっ、なになに? 半蔵が新しい忍法でも開発したの?」みたいなことを言いながら人波をかきわけて庭に出てみると、そこには異様な生物がつっ立っていたのでたいそう驚いた。
 その怪生物は小児ほどの大きさで、四肢はあるけど指はないぷよぷよのフォルム。「肉人」とでも呼ぶべきその生物は、その指の無い手で天を指さしたまま微動だにしない。
「これ半蔵。半蔵はいずこ」
「はっ、ここに」
「あれはいったいなんであるか」
「わかりませぬ」
「どうして『あしたのジョー』第12話みたいなポーズで突っ立っておるのか」
「力石徹が灼熱の太陽を指差して『1ラウンドじゃねえ、1分だ。そのノータリンを眠らせるのは!」と叫ぶあの名シーンでございますな。なぜあのポーズを真似ておるのか見当もつきませぬな」
「お前、あいつ忍法でなんとかしろよ」
「できませぬ」
「これ皆の衆、今から半蔵が忍法を用いて肉人とコミュニケーションをとるぞ」
「だからできませぬって」
「なにしろ半蔵は忍法やってるから」
「えー、なにその忍法万能説ー」

みたいなかんじの、忍法万能説を主張する神君家康公と、そもそも忍者ではない二代目服部半蔵によるぐだぐだしたやりとりが、あったかなかったかでいえば、まあなかったと思うんだけど、とにもかくにもこんな気持ちの悪いものをお城で飼うわけにもいかず、半蔵さんは肉人を背負ってニンニン言いながら数里の道のりをひとっ走り。人目の付かない山奥にこいつを不法投棄して一件落着したのでござった。

 後日。この話を聞いたある人が「そのクリーチャーは伝説の古書『白沢図』に載っている『封』というもので、そいつの肉を食えば多力武勇のステータス補正を得たものを。徳川さんちはバカばっかだな」と言ってたいそう残念がったとのこと。


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