佐賀県鎮西町の加唐島に現れた妖怪。

 漁師の親父と息子二人が加唐島の海岸で火を起こしていると、なぞの怪女がふらりとやって来て「魚をくれ」と傲岸不遜なリクエストをしてきました。
「おいおい、このおばさん、貨幣経済や市場原理というものをまるでわかっていないのとちがうか」
「消費者のモラル低下もついにここまできたかってかんじだな。モンスター消費者ってレベルじゃねーぞ」
などと、兄弟が顔を見合わせて苦笑いをしていると、女はくわっと目を見開いて「魚をくれっ」となおすごむ。この女にただならぬ妖気を感じとった親父は、「船から魚を取ってきてやりなさい」と息子どもに指示を与えます。しかしその日は船内に魚の一匹も置いていなかったため、息子どもは怪訝な顔をする。親父は不慣れなウインクなんぞしながら二人に合図を送るのですが「おい、パパが僕に色目を使っているぞ」「ちがうよ、あれは顔面神経痛の一種だ。心因性の病気だよ。ママのDVがじわじわ効いてきてるんだ」などと、息子たちにはパパの以心がまったくもって伝心しないわけ。親父はいいかげんイラつきながら「いいから船の中を探せ!」と怒鳴りつけ、有無を言わせず息子二人を船へと向かわせます。

 ややあって。少し離れた船の中から「おーい、やっぱり魚なんかいないよー!」と息子たちの叫ぶ声。親父のすぐ隣では、怪女が殺気をはらんだ目で親父をぎょろぎょろと睨み続けている。
「お前らどこに目をつけてんだー! ばかー! 父ちゃん情けなくて涙が出てくらー!……ははは、いやまったく。本当におろかなキッズどもでして。はは。しゃーねーな。ちょっくら私が取って来ますよ。♪えんや~、ま~る~、えーんやまーるーおいしいまーる-、とくらぁ」などと、親父も鼻歌を歌っちゃったりなんかして、いかにも平静を装いながら船に向かい、そうして船に乗り込むと艫綱も錨綱もたたっ切って一目散に沖へと逃げた。海岸を振り返り見れば、漁師一家の命をとりそこねた妖女ダキが地団駄踏んで悔しがっていたので、親子は大漁旗を掲げた船の上に整列して両手で頭上に円を作り、「まるー!」と叫んで勝利の凱歌を挙げたとのこと。まあ、このへんは虚偽なんですけどね。

 以来、加唐島付近で漁師たちが船を停泊させるときには錨だけを降ろし、すぐに逃げられるよう艫綱を使うことはなかったのだとか。このへんは本当。



参考サイト:白鶴まる倶楽部



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