島田荘司推理小説賞


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2010年11月19日

 日本には推理作家の名を冠した公募新人賞として江戸川乱歩賞、横溝正史ミステリ大賞、鮎川哲也賞などがある。これらはミステリ読者の間では有名な賞だが、一方で「島田荘司推理小説賞」という賞があることは、日本のミステリファンの間でもおそらくあまり知られていない。なぜかというと、それは「島田荘司推理小説賞」が台湾で実施されている新人賞だからである。

 島田荘司推理小説賞(島田莊司推理小說獎 / 岛田庄司推理小说奖)は、台湾で実施されているミステリの賞で、中国語で書かれた長編の本格ミステリ小説を募集している。2008年に募集が開始され、2009年9月に第1回の結果が発表された。受賞したのは、その2年前に台湾推理作家協会賞(短編ミステリの公募新人賞)を受賞し、2008年には短編集『吾乃雜種』を上梓していた寵物先生(チョンウーシェンセン)の『虚擬街頭漂流記』(シューニー ジエトウ ピャオリウジー)である。小学生のころからミステリ好きだった寵物先生が自分でもミステリを書いてみようと思ったのは、綾辻行人の『十角館の殺人』を読んだのがきっかけだったという(『虚擬街頭漂流記』特設サイト スペシャル対談:島田荘司×寵物先生)。

 この賞の特色として、受賞作が台湾だけではなく、中国、タイ、そして日本でも刊行されるということが挙げられる。第1回受賞作の日本語版は、寵物先生(ミスターペッツ)という筆名、『虚擬街頭漂流記』(きょぎがいとうひょうりゅうき)というタイトルで2010年4月、文藝春秋から刊行されている。また、第2回は受賞作の刊行地域にイタリアとマレーシア(英訳)が加わることが決まっており、第3回以降は韓国などへの拡張も視野に入れているという(『ジャーロ』No.40、p.60)。

 なおこの賞は、最終選考を島田荘司が1人で行っている。この賞では、全体の構成とストーリーの要旨、前半で設定される謎を生みだすトリックとその目的、自分の作品が今までの推理小説と比べて独自である点などを記したレポートを提出することが義務付けられており、最終選考者の島田荘司は、このレポートの翻訳と小説の一部の翻訳を読んで、最終的な受賞者を決定する。日本にも島田荘司が1人で最終選考を行う「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」という賞があるが、島田荘司推理小説賞はこの賞をモデルとして作られたものである(『ジャーロ』No.40、p.60)。

 この賞は2年に一度実施されるようで、現在は第2回の募集が開始されている。締切は2011年2月28日で、受賞作の決定は2011年8月が予定されている。

リンク

第1回受賞作

 台湾だけでなく、中国、イタリア、カナダなど世界各地から応募された58作品の中から、寵物先生(ミスターペッツ)『虚擬街頭漂流記』が受賞作に選出された。58作品というのは、鮎川哲也賞に寄せられる作品数の約半分ほどの数である。



『虚擬街頭漂流記』(きょぎがいとうひょうりゅうき) 文藝春秋、2010年4月10日 初版発行

 日本語で「きょぎ」と聞くと「虚偽」を思い浮かべてしまうが、「虚偽(Xuwei、シューウェイ)」と「虚擬(Xuni、シューニー)」は意味が異なる。
 タイトルに使われている「虚擬(Xuni、シューニー)」は、「虚構の、架空の」という意味である。

※日本語版のタイトルは正確には『虛擬街頭漂流記』(奥付け、表紙)。日本の字体「虚」ではなく、「虛」が使われている。



 左から順に、台湾版『虛擬街頭漂流記』(2009年8月28日)、大陸版『虚拟街头漂流记』(2009年11月1日)
※表紙をクリックすると、それぞれ現地の出版社の該当ページ、現地のネット書店の該当ページが開きます。

第1回最終候補作

 最終候補作の選定は台湾のミステリ評論家らが行い、通常は3作が選ばれる。受賞作以外の最終候補作は、台湾と中国(大陸)での刊行が約束されている。現在、日本での刊行予定はない。
 島田荘司氏による選評は、文藝春秋『オール讀物』2009年11月号(2009年10月刊行)に掲載の特別寄稿「いま、アジアのミステリーに何が起きているのか」(pp.446-453)で読むことができる。
 なお、下で示した邦題(および振り仮名)は、その特別寄稿で示されているものである。筆名については振り仮名が付されていないため、慣例に従ってこちらで付けている。

 ※表紙をクリックすると、現地の出版社の該当ページ、それがない場合は現地のネット書店の該当ページが開きます。


『幸せ宅急便はぼくの仕事じゃない』
  • 作者:不藍燈(ふうらんとう / プーランドン、男性、1976年 - )
  • 原題:『快遞幸福不是我的工作』(2009年8月28日)、簡体字表記:『快递幸福不是我的工作』(2009年11月1日)

島田荘司「いま、アジアのミステリーに何が起きているのか」より選評の一部を引用(p.450)
 この作品の何よりの美点は、作中のすべて、細部にいたるまでが自然であることだろう。台湾の若者たちの日常がリアルに、上手に切り取られ、きわめて自然に、飾らない文体で描かれている。
 私は日本語訳でしか読めないわけだが、それでもこの作の文章が持っている暖かさや自然なふくらみ、NET時代特有の、時に冷たい空気、匿名性の高い世界にかかわる危険、しかしそうせざるを得ない時代への不安、そうした中で育てていかなくてはならない恋愛の感情などが、若者らしい軽妙な感覚やリズムで、共感を持って描かれていく点に感心した。


『氷鏡荘殺人事件』(ひょうきょうそうさつじんじけん)
  • 作者:林斯諺(りんしげん / リンスーイェン、男性、1983年 - )
  • 原題:『冰鏡莊殺人事件』(2009年8月28日)、簡体字表記:『冰镜庄杀人事件』(2009年11月1日)

島田荘司「いま、アジアのミステリーに何が起きているのか」より選評の一部を引用(p.452)
 この作は「幸せ宅急便」の方法とは大きく異なって、典型的なコード型、「館もの本格」の体質をストレートに継承し、これを避けたり隠したり、ほどほどにアレンジしたりすることをせず、堂々と真正面から格闘して、考え得る限り発想を押し進め、今日的に先鋭化、複雑化したものと理解ができる。
 物語の中心軸部に、ある大掛かりな騙しのメカニズムがあり、このメカの稼働によって、事件進行にあわせて、大小さまざまな謎が周辺にこぼれおちる、という構造になっている。

リンク:taipeiさんがブログで詳細な書評を書いていらっしゃいます。 → 冰鏡莊殺人事件 / 林斯諺 (2010/1/8)

第1回1次選考通過作・応募作

 1次選考では、主催する出版社(皇冠文化出版)が10作品程度を選出する。ここでは、1次選考通過作および応募作のうち、台湾または中国(大陸)で出版されているものを挙げる。
 1次選考結果(中国語):皇冠文化集團 第一屆島田莊司推理小說獎初選公佈 

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<1次選考通過作>


『猟頭』(繁体字表記:獵頭) 蓋亞、2010年3月24日
  • 作者:烏奴奴(ウーヌーヌー)&夏佩爾(シア ペア)
  • 台湾で刊行。


『紅楼夢殺人事件』(簡体字表記:红楼梦杀人事件) 新星出版社、2010年9月13日
  • 作者:江暁雯(こう ぎょうぶん / ジャン シャオウェン、簡体字表記:江晓雯)
  • 中国(大陸)で刊行。台湾では未刊行。
  • 芦辺拓『紅楼夢の殺人』は、中国語では『紅楼夢殺人事件』というタイトルで刊行されており、江暁雯の作品と同一タイトルになっている。 → 台湾版(2006年)、大陸版(2008年)


『魔術殺人事件簿』(簡体字表記:魔术杀人事件簿) 中国画報出版社(中国画报出版社)、2009年7月1日
  • 作者:王稼駿(おう かしゅん、ワン ジアジュン、簡体字表記:王稼骏)
  • 中国(大陸)で刊行。台湾では未刊行。
  • 帯には「受賞作」(获奖作品)と書いてあるが、1次選考通過後、「未発表作に限る」という規程の違反により失格になった作品である。

<応募作>


『国球的眼涙』(繁体字表記:國球的眼淚) 大旗出版社、2010年1月1日
  • 作者:秀霖(しゅうりん / シウリン)
  • 台湾で刊行。