アジア本格リーグ


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2010年11月14日

 「海外ミステリ」、または「翻訳ミステリ」と聞くと、多くの人は アメリカ イギリス などの英語圏の推理小説や推理作家名を思い浮かべるだろう。あるいは、ポール・アルテなどの フランス の推理作家、『ミレニアム』のスティーグ・ラーソンなどの スウェーデン の推理作家を思い浮かべる人もいるかもしれない。日本語に由来する特異な筆名を持つボリス・アクーニンなどの ロシア の推理作家を知っている人もいるだろう。いずれにしろ、日本で「海外ミステリ/翻訳ミステリ」と言えば、通常は欧米のミステリを指す(指していた)と言ってしまってもそんなに差し支えはないと思われる。(この場合の「米」は「北米」の意味である)
 翻訳数から考えれば、「翻訳ミステリ」≒「欧米のミステリ」という傾向自体は今後も変わらないだろうが、近年は欧米以外の推理小説の紹介も少しずつなされるようになってきている。昨年(2009年)末刊行の原書房『2010 本格ミステリ・ベスト10』に収録されている「「海外本格」座談会」(参加:川井賢二、佳多山大地、横井司)は、副題が「 長編ミステリの曙からアジア・南米の異色〈新本格〉まで 」となっており、 アルゼンチン の推理小説として、日本の新本格を彷彿とさせるというギジェルモ・マルティネスの『ルシアナ・Bの緩慢なる死』と、パブロ・デ・サンティスの『世界名探偵倶楽部』が話題にのぼっている。そしてその座談会でも取り上げられている、アジアの推理小説を日本に紹介する叢書として講談社が刊行を始めた叢書が、このページで紹介する 〈アジア本格リーグ〉 である。2009年9月に刊行が開始され、下記の6作品が紹介された。アジアの推理小説は今までほとんど邦訳がなされていなかったので、非常に画期的な叢書だと言えるだろう。

アジア本格リーグ 作家一覧
地域 筆名 性別 生年 創作に使用する言語
1 台湾 藍霄 (ランシャウ) 男性 1967年 - 中国語
2 タイ チャッタワーラック 男性 タイ語
3 韓国 李垠 (イウン) 男性 韓国語
4 中国 水天一色 (すいてんいっしき) 女性 1981年 - 中国語
5 インドネシア S・マラ・Gd (エス・マラ・ゲーデー) 女性 インドネシア語
6 インド カルパナ・スワミナタン 女性 1956年 - 英語


 アジア本格リーグ (2009年9月 - 2010年6月、全6巻)
  ※奥付けの表記は「アジア本格リーグ」、表紙や背表紙では「島田荘司選アジア本格リーグ」

 発行 講談社
 装幀 坂野公一 (welle design
 編集協力 藤原編集室
 サイズ 四六判ソフトカバー

 2010年、第10回本格ミステリ大賞 評論・研究部門 候補 (出版企画に対して)
  候補作選定経過: 「本格ミステリ作家クラブ通信」第38号 2010.03.01
  受賞作決定: 2010年度 第10回本格ミステリ大賞 結果 - 評論・研究部門は、谷口基『戦前戦後異端文学論』(新典社)が受賞した。

1 台湾


アジア本格リーグ1 錯誤配置』 2009年9月10日 第1刷発行
  • 藍霄(ランシャウ、男性、1967年 - )
  • 玉田誠 訳
  • 316ページ
  • ISBN:978-4-06-215759-9
  • 定価:1800円(税別)
  • 巻末解説:玉田誠「台湾の本格ミステリー事情」pp.307-315

原書:藍霄 『錯置體 Mislocation: The Tapeworm Murder Case』 出版社:大塊文化、出版日:2004年8月1日
(原題の日本の漢字での表記:『錯置体』)
  • 言語:中国語(繁体字)
  • ISBN:978-986-760-063-9
  • 推薦文:黄鈞浩(黃鈞浩)(→ネット書店の『錯置體』のページで読むことができる)
  • 巻末解説:傅博(島崎博)


2 タイ


アジア本格リーグ2 二つの時計の謎』 2009年9月10日 第1刷発行
  • チャッタワーラック(男性、生年非公開)
  • 宇戸清治 訳
  • 286ページ
  • ISBN:978-4-06-215760-5
  • 定価:1700円(税別)
  • 巻末解説:宇戸清治「タイ・ミステリーの過去と現在」pp.275-283
  • 原題英文表記:"The Time for Dead" (講談社版奥付けより)

原書:จัตวาลักษณ์ 『กาลมรณะ : Nanmeebooks Award C&M Collection』 出版社:Nanmeebooks、出版年:2007年
(原題直訳:『死亡推定時刻』、原題発音『カーン・モーラナ』)
  • 言語:タイ語
  • ISBN:9789748478135
その他リンク

  • 『二つの時計の謎』は、それ以前に詩や短編小説などを本名で発表していた著者の初の書き下ろし長編作品。この作品でナンミー・ブックス出版社ミステリー大賞を受賞した。
  • 現在、チャッタワーラックの作品の邦訳は『二つの時計の謎』のみ。

3 韓国


アジア本格リーグ3 美術館の鼠』 2009年11月20日 第1刷発行
  • 李垠(イウン、男性、生年非公開)
  • きむふな 訳
  • 238ページ
  • ISBN:978-4-06-215900-5
  • 定価:1600円(税別)
  • 巻末解説:米津篤八「韓国ミステリー百年の現在」pp.231-237

原書:이은(李銀) 『미술관의 쥐』 出版社:위즈덤하우스(Wisdomhouse)、出版日:2007年10月12日
(原題の漢字ハングル混じり表記:『美術館의 쥐』)
  • 言語:韓国語
  • ISBN:978-89-5913-265-2
その他リンク

  • 著者の長編3作目。なお、ペンネームの李垠という漢字表記は『수상한 미술관(不思議な美術館)』(2009年11月)(ネット書店リンク)から使用しており、それ以前は李銀という表記だった。
  • 現在、李垠の作品の邦訳は『美術館の鼠』のみ。

4 中国


アジア本格リーグ4 蝶の夢 乱神館記』 2009年11月20日 第1刷発行
  • 水天一色(すいてんいっしき、女性、1981年 - ) ※奥付けでは「すいてんいっしき」、解説や著者紹介では「シュイティエンイースー」
  • 大澤理子 訳
  • 396ページ
  • ISBN:978-4-06-215901-2
  • 定価:2200円(税別)
  • 巻末解説:池田智恵「発展途上の中国ミステリー」pp.383-394

原書:水天一色 『乱神馆记系列之蝶梦』 出版社:内蒙古人民出版社、出版年:2006年
(原題の日本の漢字での表記:『乱神館記系列之蝶夢』)
  • 言語:中国語(簡体字)
  • ISBN:9787204088256
その他リンク(中国のミステリ雑誌『歳月・推理』『推理世界』公式サイトより)

  • 乱神館記シリーズの1作目。水天一色の最初の長編作品でもある。陰陽道に通じ、鬼神をも操ると噂される女性・離春(リーチュン)を探偵役とするシリーズ。乱神館というのは、彼女の暮らす館のことである。2010年11月現在、2作目は執筆されていない。
  • ほかの著書に、学生探偵・杜落寒(ドゥールオハン)が活躍する「杜公子シリーズ」の長編『校園惨劇(学校の惨劇)』、『盲人与狗(盲人と犬)』がある。
  • 現在、水天一色の作品の邦訳は『蝶の夢』のみ。

5 インドネシア


アジア本格リーグ5 殺意の架け橋』 2010年3月10日 第1刷発行
  • S・マラ・Gd(エス・マラ・ゲーデー、女性、生年非公開)
  • 柏村彰夫 訳 (柏村彰夫、岩田真由子、森山幹弘 共訳、訳文調整:柏村彰夫)
  • 396ページ
  • ISBN:978-4-06-215943-2
  • 定価:2200円(税別)
  • 巻末解説:柏村彰夫「インドネシアの推理小説」pp.387-395

原書:S. Mara Gd "Misteri Rubrik Kontak Hati" 出版社:Gramedia Pustaka Utama、出版年:1993年
(原題直訳:『心のコンタクト欄の謎』、『殺意の架け橋』というタイトルは島田荘司の発案による)
  • 言語:インドネシア語
  • ISBN:978-979-22-2679-9
その他リンク

  • コサシ警察大尉(警部)と、元泥棒の刑事ゴザリのシリーズ、20作目。コサシとゴザリシリーズは、著者のデビュー作『消えた光の謎』(1985)から『妨げられたメロディの謎』(2008)まで30長編が刊行されている。
  • 解説では特に触れられていないが、筆名の由来はおそらく宝石の「エメラルド」を意味する"Smaragd"(ドイツ語)。
  • 現在、S・マラ・Gdの作品の邦訳は『殺意の架け橋』のみ。

6 インド

アジア本格リーグ6 第三面の殺人』 2010年6月23日 第1刷発行
  • カルパナ・スワミナタン(女性、1956年 - )
  • 波多野健 訳
  • 364ページ
  • ISBN:978-4-06-215942-5
  • 定価:2200円(税別)
  • 巻末解説:波多野健「インドの本格ミステリーの歴史と現在」pp.351-362

原書:Kalpana Swaminathan "The Page 3 Murders" 出版社:Roli Books、出版年月:2006年2月
  • 言語:英語
  • ISBN:978-8186939192
その他リンク

  • 元刑事の女性ラッリが探偵役を務めるシリーズの一作。この作品以前にシリーズ最初の著書として短編集"Cryptic death and other stories"(謎めいた死)(Googleブックスリンク)が刊行されており、『第三面の殺人』はシリーズ初の長編作品。シリーズ2作目の長編"The Gardener's Song"(園丁の歌)も刊行されている。
  • 現在、カルパナ・スワミナタンの作品の邦訳は『第三面の殺人』のみ。

関連文献

  • 「各国から届いた挑戦状! 日本発・本格ミステリー、アジアからの逆襲」講談社文芸X出版部 蓬田勝(『本格ミステリー・ワールド2010』南雲堂、2009年12月、pp.31-32)
  • 「「アジア本格リーグ」とは」(『ジャーロ』No.40、2010年11月、pp.102-103)

リンク