2012年5月23日
イギリス時間の2012年5月25日夜に、英国推理作家協会(CWA)が主催する複数の賞のうちのいくつかの賞のノミネート作が発表される。インターナショナル・ダガー賞、すなわち、最優秀翻訳ミステリ賞の候補もこの日に発表される。この賞は前年6月から当年5月までにイギリスで出版された翻訳ミステリが対象であり、今回の対象作約80作品には、日本の作品では
東野圭吾『容疑者Xの献身』(
The Devotion of Suspect X)と
浜尾四郎『悪魔の弟子』(
The Devil's Disciple)が入っている。アジアの作家の作品がインターナショナル・ダガー賞の候補になったことはない。果たして今回、アジアからの初のノミネート作は出るだろうか。
※追記 日本時間の2012年5月25日27時半ごろ、ノミネート作一覧がCWA公式サイトに掲載された。アジアの作品はノミネートならず。
※インターナショナル・ダガー賞のノミネート作一覧は当サイトのこちらも参照のこと。
5月22日、英国推理作家協会の公式Twitterがこんなことをツイートしている(
リンク)。
ざっくり意訳すると、「みんなもこのリストを見て、今年のインターナショナル・ダガー賞の候補作を予想してみてね!」ということである。このリストは、イギリスで2011年6月から2012年5月までに出版された翻訳ミステリの著者名アルファベット順一覧である。2010年からインターナショナル・ダガー賞の審査員を務めるKaren Meek氏が自身のブログ「Euro Crime」に掲載している。
このページでは、それを著者の国別に整理しなおして掲載する。それぞれの作品について邦訳があるかどうかを調べることもこのページを作成した動機の一つだが、リストにある全76作品のうち、すでに邦訳があるのはアンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『死刑囚』、ゾラン・ドヴェンカー『謝罪代行社』、フェリクス・J・パルマ『時の地図』の3作のみだった。
インターナショナル・ダガー賞 概略
インターナショナル・ダガー賞は2006年に創設。それ以前は翻訳ミステリは英語圏のミステリと一緒に各部門賞で審査されていたが、2001年、2002年、2005年と続けざまに翻訳ミステリがゴールド・ダガー賞(=最優秀長編賞)を受賞したことが影響したのか、2006年に翻訳ミステリのための賞としてインターナショナル・ダガー賞が創設されたのである。それにともなって、ゴールド・ダガー賞の対象は英語で書かれた作品のみとなっている。なお、2005年のゴールド・ダガー賞はノミネート作6作のうち、実に4作品が翻訳ミステリであり、受賞したのはアイスランド語から翻訳されたアーナルデュル・インドリダソンの"Silence of the Grave"だった(『緑衣の女』というタイトルで東京創元社からの刊行が予告されている)。
インターナショナル・ダガー賞 受賞作一覧 (→受賞作および候補作の一覧は
こちら)
2006年 |
フランス |
フレッド・ヴァルガス |
『死者を起こせ』 |
2007年 |
フランス |
フレッド・ヴァルガス |
"Wash This Blood Clean From My Hand" |
2008年 |
フランス |
Dominique Manotti |
"Lorraine Connection" |
2009年 |
フランス |
フレッド・ヴァルガス |
『青チョークの男』 |
2010年 |
スウェーデン |
ヨハン・テオリン |
『冬の灯台が語るとき』 |
2011年 |
スウェーデン |
ルースルンド&ヘルストレム |
『三秒間の死角』 |
インターナショナル・ダガー賞は今までに6回実施されているが、受賞したのはフランスとスウェーデンの作家だけである。
インターナショナル・ダガー賞 2006年~2011年の受賞・候補作 計36作品の国別内訳
10作品 |
スウェーデン (うち2作品が受賞) |
9作品 |
フランス (うち4作品が受賞) |
5作品 |
イタリア |
2作品 |
ノルウェー、アイスランド、スペイン、アルジェリア |
1作品 |
デンマーク、スイス、南アフリカ共和国、アルゼンチン |
毎年6作品ほどが候補作に選出される。過去にアフリカの作家では、アルジェリアのヤスミナ・カドラと南アフリカ共和国のデオン・マイヤーが候補になっている。ラテンアメリカの作家では、アルゼンチンのErnesto Malloが2011年の候補になっている。
アジアの作家がインターナショナル・ダガー賞の候補になったことはない。
2011年6月~2012年5月にイギリスで出版された翻訳ミステリの地域・国別一覧
Index (全76冊)
※邦訳のある作家は名前をカタカナで表記し、それ以外の作家はアルファベットのままとした
※インターナショナル・ダガー賞の過去の受賞作・候補作を国別にまとめたものも付した
北欧5カ国(34冊)
全76冊のうち、34冊、約45パーセントが北欧ミステリである。
スウェーデン(19冊)
作者 |
英題 |
邦題 |
ヨハン・テオリン |
The Quarry |
※エーランド島四部作の三作目(未訳) |
ホーカン・ネッセル |
The Unlucky Lottery |
|
Hour of the Wolf |
|
オーサ・ラーソン |
Until Thy Wrath be Past ★ノミネート |
|
ルースルンド&ヘルストレム |
Cell 8 |
『死刑囚』 |
カミラ・レックバリ |
The Hidden Child |
|
The Drowning |
|
Kjell Eriksson |
The Hand That Trembles |
|
The Princess of Burundi |
|
The Demon of Dakar |
|
Mari Jungstedt |
Dark Angel |
|
Mons Kallentoft |
Midwinter Sacrifice |
|
Summertime Death |
|
Hans Koppel |
She's Never Coming Back |
|
Jens Lapidus |
Easy Money |
|
Kristina Ohlsson |
Unwanted |
|
Leif GW Persson |
Another Time, Another Life |
|
Stefan Tegenfalk |
Anger Mode |
|
Helene Tursten |
Night Rounds |
|
- スウェーデンの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 受賞:2001年 - ヘニング・マンケル『目くらましの道』(ゴールド・ダガー賞)
- スウェーデンの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2006年 - ホーカン・ネッセル『終止符(ピリオド)』
- 候補:2007年 - カーリン・アルヴテーゲン『恥辱』
- 候補:2007年 - オーサ・ラーソン『オーロラの向こう側』
- 候補:2008年 - スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』
- 候補:2009年 - カーリン・アルヴテーゲン『影』
- 候補:2009年 - スティーグ・ラーソン『ミレニアム2 火と戯れる女』
- 候補:2009年 - ヨハン・テオリン『黄昏に眠る秋』
- 受賞:2010年 - ヨハン・テオリン『冬の灯台が語るとき』
- 候補:2010年 - スティーグ・ラーソン『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』
- 受賞:2011年 - ルースルンド&ヘルストレム『三秒間の死角』(邦訳2013年10月)
ノルウェー(8冊)
作者 |
英題 |
ジョー・ネスボ |
Headhunters |
Phantom ★ノミネート |
カリン・フォッスム |
The Caller |
アンネ・ホルト |
Fear Not |
K O Dahl |
Lethal Investments |
Thomas Enger |
Burned |
Jørn Lier Horst |
Dregs |
Dag Solstad |
Professor Andersen's Night |
- ノルウェーの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2005年 - カリン・フォッスム "Calling Out for You"
- ノルウェーの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2007年 - ジョー・ネスボ『コマドリの賭け』
- 候補:2009年 - ジョー・ネスボ "The Redeemer"
デンマーク(4冊)
作者 |
英題 |
Agnete Friis & リーネ・コーバベル |
The Boy in the Suitcase |
Mikkel Birkegaard |
Death Sentence |
Sissel-Jo Gazan |
The Dinosaur Feather |
A J Kazinski |
The Last Good Man |
- デンマークの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 受賞:1994年 - ペーター・ホゥ『スミラの雪の感覚』(シルバー・ダガー賞 ※次点に与えられる賞)
- デンマークの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2007年 - Christian Jungersen "The Exception"
アイスランド(2冊)
作者 |
英題 |
アーナルデュル・インドリダソン |
Outrage |
イルサ・シグルザルドッティル |
The Day is Dark |
- アイスランドの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 受賞:2005年 - アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』(仮題)(ゴールド・ダガー賞)
- アイスランドの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2009年 - アーナルデュル・インドリダソン "Arctic Chill"
- 候補:2010年 - アーナルデュル・インドリダソン "Hypothermia"
フィンランド(1冊)
作者 |
英題 |
Harri Nykanen |
Nights of Awe |
インターナショナル・ダガー賞でフィンランドの作家が候補になったことはない。
イタリア(10冊)
作者 |
英題 |
アンドレア・カミッレーリ |
The Track of Sand |
The Potter's Field ★ノミネート&受賞 |
ジャンリーコ・カロフィーリオ |
Temporary Perfections |
ジョルジョ・ファレッティ |
I am God |
ジュリオ・レオーニ |
The Crusade of Darkness |
Maurizio De Giovanni |
I Will Have Vengeance ★ノミネート |
Michele Giuttari |
The Black Rose of Florence |
Valerio Varesi |
The Dark Valley ★ノミネート |
Marco Vichi |
Death in August |
Death and the Olive Grove |
- イタリアの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2003年 - カルロ・ルカレッリ "Almost Blue"
- イタリアの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2006年 - アンドレア・カミッレーリ "Excursion to Tindari"
- 候補:2008年 - アンドレア・カミッレーリ "The Patience of the Spider"
- 候補:2010年 - アンドレア・カミッレーリ "August Heat"
- 候補:2011年 - アンドレア・カミッレーリ "The Wings of the Sphinx"
- 候補:2011年 - Valerio Varesi "River of Shadows"
フランス(8冊)
作者 |
英題 |
ジャン=フランソワ・パロ |
The Baker's Blood |
Laurent Binet |
HHhH |
Xavier-Marie Bonnot |
The Voice of the Spirits |
Maxime Chattam |
Carnage |
Laurence Cosse |
A Novel Bookstore |
Fabrice Humbert |
The Origin of Violence |
Claude Izner |
Strangled in Paris |
Eva Joly & Judith Perrignon |
The Eyes of Lira Kazan |
- フランスの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 受賞:1968年 - セバスチャン・ジャプリゾ『新車の中の女』(最優秀外国作品賞)
- 候補:2005年 - フレッド・ヴァルガス『裏返しの男』
- フランスの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 受賞:2006年 - フレッド・ヴァルガス『死者を起こせ』
- 候補:2006年 - Dominique Manotti "Dead Horsemeat"
- 受賞:2007年 - フレッド・ヴァルガス "Wash This Blood Clean From My Hand"
- 受賞:2008年 - Dominique Manotti "Lorraine Connection"
- 候補:2008年 - フレッド・ヴァルガス "This Night's Foul Work"
- 受賞:2009年 - フレッド・ヴァルガス『青チョークの男』
- 候補:2010年 - トニーノ・ベナキスタ "Badfellas"
- 候補:2011年 - ジャン=フランソワ・パロ "The Saint-Florentin Murders"
- 候補:2011年 - フレッド・ヴァルガス "An Uncertain Place"
※最優秀外国作品賞 - 1964年から1969年まで、イギリスの作品がゴールド・ダガー賞を受賞した際にはそれとは別に最優秀外国作品賞が、イギリス以外の作品が受賞した際には最優秀英国作品賞が選出されていた。
"The Eyes of Lira Kazan"の著者の一人であるエヴァ・ジョリ(Eva Joly)は日本語版Wikipediaに
記事あり。
ドイツ語圏(7冊)
- ドイツ語圏の作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2005年 - フリードリヒ・グラウザー(スイス)『狂気の王国』
- ドイツ語圏の作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2008年 - マルティン・ズーター(スイス) "A Deal with the Devil"
インターナショナル・ダガー賞でドイツおよびオーストリアの作家が候補になったことはない。
ドイツ(6冊)
作者 |
英題 |
邦題 |
ユーリ・ツェー |
The Method |
|
ゾラン・ドヴェンカー |
Sorry |
『謝罪代行社』 |
ホルスト・ボゼツキー |
Cold Angel: Murder in Berlin, 1949 |
|
ベルンハルト・ヤウマン |
The Hour of the Jackal |
|
シャルロッテ・リンク |
The Other Child |
|
Jan Costin Wagner |
The Winter of the Lions |
|
※ホルスト・ボゼツキーはペトラ・エルカー編『皇帝の魔剣』(扶桑社ミステリー、2004年)に短編が収録されている。
オーストリア(1冊)
作者 |
英題 |
Paulus Hochgatterer |
The Mattress House |
スペイン(5冊)
作者 |
英題 |
邦題 |
カルロス・ルイス・サフォン |
The Midnight Palace |
|
フェリクス・J・パルマ |
The Map of Time |
『時の地図』 |
エドゥアルド・メンドサ |
The Olive Labyrinth |
|
Juan Gomez-Jurado |
The Traitor's Emblem |
|
Antonio Hill |
The Summer of Dead Toys |
|
- スペインの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 受賞:2002年 - ホセ・カルロス・ソモサ『イデアの洞窟』(ゴールド・ダガー賞)
- スペインの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2006年 - Rafael Reig "Blood on the Saddle"
- 候補:2011年 - Domingo Villar "Death on a Galician Shore" ※ガリシア語およびスペイン語で執筆する作家
カルロス・ルイス・サフォンの『The Midnight Palace』は2012年のSF&ファンタジー英訳作品賞という賞の候補になっている。ちなみにほかの候補作は、神林長平『グッドラック 戦闘妖精・雪風』や台湾のSF作家、黄凡(ホアン・ファン、Huang Fan)の英訳短編集などである。こちらの
Togetter記事などを参照のこと。
ルーマニア(3冊)
作者 |
英題 |
George Arion |
Attack in the Library |
Bogdan Hrib |
Kill the General |
Oana Stoica-Mujea |
Anatomical Clues |
Bogdan Hrib(ボグダン・フリッブ)氏は2011年の国際推理作家協会チューリヒ大会に参加している。松坂健「国際推理作家協会(AIEP)2011年チューリヒ大会レポート : ミステリの世界にどんどん“国境”がなくなっていく!」(『ハヤカワミステリマガジン』2011年9月号)を参照のこと。
インターナショナル・ダガー賞でルーマニアの作家が候補になったことはない。
ロシア(1冊)
作者 |
英題 |
ボリス・アクーニン (Boris Akunin, Борис Акунин) |
The Diamond Chariot |
- ロシアの作家のゴールド・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2003年 - ボリス・アクーニン『堕ちた天使―アザゼル』
- ロシアの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
ギリシャ(1冊)
作者 |
英題 |
Sergios Gakas (Σέργιος Γκάκας) |
Ashes |
インターナショナル・ダガー賞でギリシャの作家が候補になったことはない。
ヨーロッパ以外
全76冊のうち、ヨーロッパ以外の作品は以下の7冊のみである。
ラテンアメリカ(3冊)
国 / 言語 |
作者 |
英題 |
アルゼンチン / スペイン語 |
Ernesto Mallo |
Sweet Money |
アルゼンチン / スペイン語 |
Guillermo Orsi |
Holy City |
アルゼンチン / スペイン語 |
Claudia Pineiro |
All Yours |
- ラテンアメリカの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2011年 - Ernesto Mallo(アルゼンチン / スペイン語) "Needle in a Haystack"
アフリカ(2冊)
国 / 言語 |
作者 |
英題 |
アルジェリア / フランス語 |
Anouar Benmalek |
Abduction |
南アフリカ共和国 / アフリカーンス語 |
デオン・マイヤー |
Trackers ★ノミネート |
- アフリカの作家のインターナショナル・ダガー賞受賞・候補歴
- 候補:2006年 - ヤスミナ・カドラ(アルジェリア / フランス語) "Autumn of the Phantoms"
- 候補:2007年 - ヤスミナ・カドラ(アルジェリア / フランス語)『テロル』
- 候補:2010年 - デオン・マイヤー(南アフリカ共和国 / アフリカーンス語) "Thirteen Hours"
インターナショナル・ダガー賞の創設前では、南アフリカ共和国出身のジェイムズ・マクルーアが1971年に『スティーム・ピッグ』でゴールド・ダガー賞、1976年に『ならず者の鷲』でシルバー・ダガー賞を受賞している。また、ガイアナ出身のマイク・フィリップスは1990年に『黒い霧の街』でシルバー・ダガー賞を受賞している。ジェイムズ・マクルーアもマイク・フィリップスも創作に使用した言語は英語である。
アジア(2冊)
浜尾四郎『The Devil's Disciple』は「The Devil's Disciple」(悪魔の弟子)と「Did He Kill Them?」(彼が殺したか)の2編を収録。どちらも1929年に雑誌『新青年』に掲載された短編である。
インターナショナル・ダガー賞でアジアの作家が候補になったことはない。
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最終更新:2012年05月26日 04:44