『ミステリマガジン』2007年6月号 特集:面白さは国境を越える

2010年6月19日

 日本のミステリの海外での出版(主に英訳)について特集した『ミステリマガジン』2007年6月号(早川書房公式サイト)を最近読んだので、その内容紹介。

特集 面白さは国境を越える――ニッポン小説の実力

<特集記事>
マーク・シュライバー/Mark Schreiber (高山真由美訳)
  「日本ミステリ英訳史――受容から創造へ」(pp.20-23)
ジェフ・キングストン/Jeff Kingston (高山真由美訳)
  「宮部みゆきに見る現代日本――Shadow Family(『R.P.G』)を読む」(pp.24-26)

川村湊 「村上春樹の"人生"というゲーム」(pp.28-31)
冲方丁 「輸出することは驚きを輸入することである」(pp.32-33)
香山二三郎 「この日本ミステリを輸出せよ!」(pp.34-35)

<アンケート>
「海を渡った作家たち」 (pp.36-39)
池井戸潤、大沢在昌、金原ひとみ、北村薫、栗本薫、法月綸太郎、原尞、光原百合
(海外で作品が出版されている作家にアンケート)

<インタビュー>
「日本の面白さをアメリカへ――ヴァーティカル社、酒井社長に訊く」(pp.40-45)
  (2001年に創立、2003年より日本の小説をアメリカで刊行するようになったヴァーティカル社の社長酒井弘樹氏へのインタビュー。インタビュアーはミステリマガジン編集長。)

<資料篇>
早川書房編集部編 「ニッポン小説英訳本リスト」(pp.46-50)
  (現在入手可能なミステリ、現代小説、エンターテインメントを中心にリストアップしたものだとのこと)

「日英対訳で読むニッポン小説」(pp.52-55)
  (桐野夏生『グロテスク』、東野圭吾『秘密』、横溝正史『犬神家の一族』、北方謙三『棒の哀しみ』、乃南アサ『凍える牙』の原文の一部とその英訳部分を掲載している。)

メモ

◆マーク・シュライバー 「日本ミステリ英訳史――受容から創造へ」

  • 1956年、チャールズ・E・タトル社から江戸川乱歩の短編集"Japanese Tales of Mystery and Imagination"出版
  • 1978年、"Ellery Queen's Japanese Golden Dozen: The Detective Story World in Japan"
  • 夏樹静子や戸川昌子による小説は10作以上が英訳出版されている。(※2人合わせて、という意味か??)
  • 『Wの悲劇』の英訳時には、著者本人が、日本語版には出てこないアメリカ人女性を主役のひとりとして新たに追加している。
  • 桐野夏生『OUT』は、英語版は約13万部の売り上げ、ドイツ語版は5万7千部以上の売り上げ。


◆冲方丁 「輸出することは驚きを輸入することである」

小説というのは漫画やアニメ、実写映画と違って、言葉の壁が大きいから海外での出版はそう簡単なことではないよなあと以前から思っていたが、そんな自分の考えがあまりにも狭すぎることに気付かされたのが冲方さんの次のことば。引用箇所最初の二文には感動すら覚えた。

引用(p.33)
「書籍は恵まれた商品である。言語の壁しか問題がない。食肉規制でどれほどの企業が打撃を受けたか。排ガス規制を乗り越えるためにどれほどの投資が必要か。血のにじむ努力で海外販路を形成してきた多数の日本企業の戦いを考えれば、翻訳家を雇うことにどんな苦難があるのか?
 自国内でのみ売ることを考えた商品に未来はない。どんな作品にも、何かアピールできる力があるはずである。日本の全出版社が積極的翻訳体勢に入ることを切に念願する。」

この記事に表紙写真が付されているドイツ語版「マルドゥック・スクランブル」はこちら。
  http://www.amazon.de/dp/3453521765
  http://www.amazon.co.jp/dp/3453521765/

◆<アンケート> 「海を渡った作家たち」

池井戸潤、大沢在昌、金原ひとみ、北村薫、栗本薫、法月綸太郎、原尞、光原百合
以下の7項目についてアンケートを取っている。

(1) 海外に紹介されたきっかけを教えてください。
(2) 翻訳が刊行された国からの反応はありましたか?
(3) ご自身の作品で、海外にアピールすると思う点は?
(4) 逆に、理解されるのが難しいと思う点は?
(5) 翻訳のチェックはしましたか?
(6) 出来あがった本を見た感想は?
(7) 今後、海外の市場を意識して作品を書きますか?

(2)は、やはり把握していらっしゃらない作家さんが多いようだった。翻訳の契約が済んだらそれで終わりではなく、出版社の方でその後の売れ行きや現地での感想なども作者にフィードバック出来たらいいのになあと思う。

◆<インタビュー> 「日本の面白さをアメリカへ――ヴァーティカル社、酒井社長に訊く」


Vertical公式サイト: http://www.vertical-inc.com/

  • 創刊時の作品は『グイン・サーガ』や『リング』など。
  • 部数は、一番少なかった時で5000部、多かったので初版20000部。
  • 英訳が10万部を越えたミステリ作家は桐野夏生のみ。
  • 北方謙三作品はわりと評価が高い。
  • 「一度英語版がつくられることによって、販路が世界に広がっていくんですね。〈グイン・サーガ〉は英語版からドイツ語訳されたものが出て、ドイツでけっこう売れているようです。」(p.45)
  • 「いい英語の版ができれば、確実に世界にもっと出ていくという道筋がビジネス・モデルの中で出はじめています。」(p.45)

◆早川書房編集部編 「ニッポン小説英訳本リスト」

  • 「作品は、現在入手可能なミステリ、現代小説、エンターテインメントを中心にリストアップした。」(p.46)とのこと。
  • ミステリ作家に限らず、エンターテインメントなどを含む日本の小説家の英訳作品リスト。作家名ABC順に挙げられている。

  • リストで挙げられている作家名は以下の通り(元のリストでは分けられていないが、便宜的にミステリ作家・作品とそれ以外を分けて示す。もちろん、厳密に分けられるものではない)

あ行 内田康夫 1冊、江戸川乱歩 2冊、大沢在昌 1冊、奥田英朗 1冊
か行 貴志祐介 1冊、北方謙三 3冊、桐野夏生 2冊
さ行 佐々木譲 1冊※、島田荘司 1冊、鈴木光司 6冊、瀬名秀明 1冊
た行 高木彬光 3冊、戸川昌子 4冊
な行 夏樹静子 5冊、西村京太郎 1冊、乃南アサ 1冊
は行 東野圭吾 1冊、船戸与一 1冊※
ま行 松本清張 3冊、宮部みゆき 3冊
や行 横溝正史 1冊

あ行 赤坂真理 1冊、池澤夏樹 2冊、江國香織 1冊、奥泉光 1冊(石の来歴)、小野不由美 1冊(月の影 影の海)
か行 金原ひとみ 2冊、菊地秀行 6冊、栗本薫 3冊(豹頭の仮面、荒野の戦士、ノスフェラスの戦い)
さ行 桜井亜美 1冊、塩野七生 3冊、妹尾河童 1冊
た行 高千穂遙 1冊、高橋源一郎 1冊、田口ランディ 1冊、多和田葉子 1冊、筒井康隆 2冊(家族八景、ポルノ惑星のサルモネラ人間)
は行 灰谷健次郎 1冊
ま行 村上春樹 13冊、村上龍 4冊、森岡浩之 3冊
や行 山田詠美 2冊、山田太一 1冊、よしもとばなな 7冊

「※印」をつけた2冊については、2週間前にamazon.comを見ながら自分で作った「英訳された日本の推理小説/ミステリ」リストから漏れていたので、この『ミステリマガジン』のリストを見た後に追加させていただいた。


なお、『ミステリマガジン』のこの特集については、taipeimonochromeさんが発売当時(2007年4月)にブログで記事を書いていらっしゃいます。
  http://blog.taipeimonochrome.ddo.jp/index.php?m=20070427



最終更新:2011年01月08日 11:04