中南米ミステリ邦訳一覧

2014年8月19日

 スペイン語・ポルトガル語のミステリについては「南欧ミステリ邦訳一覧」もご覧ください。

Index

 国名50音順。ただし、中南米の国で唯一ポルトガル語を公用語とするブラジルは最後に回した。

アルゼンチン

  • ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges, 1899-1986, Wikipedia
    • 八岐(やまた)の園」(1941) - 米国『EQMM』第3回短編ミステリ・コンテスト入選作
    • 「死とコンパス」(1942)
      • 2作品ともボルヘスの短編集『伝奇集』(鼓直訳、岩波文庫、1993年11月)に収録
  • アドルフォ・ビオイ=カサーレス(Adolfo Bioy Casares, 1914-1999, Wikipedia
    • 『パウリーナの思い出に』(高岡麻衣、野村竜仁訳、国書刊行会《短篇小説の快楽》、2013年5月)
      • 「墓穴掘り」、「雪の偽証」などミステリ的な作品を含む短編集。
      • 法月綸太郎氏が『このミステリーがすごい! 2014年版』でこの短編集を海外ミステリの年間第1位に挙げている。
  • ボルヘス&ビオイ=カサーレス
    • 『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』(木村榮一訳、岩波書店、2000年9月) - 『2001本格ミステリ・ベスト10』海外部門 第1位
      • 「世界を支える十二宮」「ゴリアドキンの夜」「雄牛の王」「サンジャコモの計画」「タデオ・リマルドの犠牲」「タイ・アンの長期にわたる探索」の6編を収録

 ボルヘスビオイ=カサーレスも、邦訳作品中にミステリとして読めるものはほかにもあるようである。
 2014年6月にTwitter上で実施された企画「短編ミステリ・オールタイムベストアンケート 海外編」(Togetter)ではボルヘスの「アベリーノ・アレドンド」(篠田一士訳、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『砂の本』[改訂新版]、集英社文庫、2011年6月)が71位、「死とコンパス」が24位に入った。

  • フリオ・コルタサル(Julio Cortázar, 1914-1984, Wikipedia
    • 「動機」(木村榮一訳、コルタサル『遊戯の終り』国書刊行会 ラテンアメリカ文学叢書5、1977年10月 / 『遊戯の終り』国書刊行会、1990年11月 / 『遊戯の終わり』岩波文庫、2012年6月) El móvil (1956)
  • マヌエル・ペイロウ(Manuel Peyrou, 1902-1974, スペイン語版Wikipedia
    • 「ジュリエットと奇術師」(柳瀬尚紀訳、オットー・ペンズラー編『魔術ミステリ傑作選』創元推理文庫、1979年8月、著者名表記「マニュエル・ペイロウ」)
    • 「わが身にほんとうに起こったこと」(内田吉彦訳、『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』角川文庫、2001年8月 等)
  • マヌエル・プイグ(Manuel Puig, 1932-1990, Wikipedia
    • 『ブエノスアイレス事件』(鼓直訳、白水社、1982年3月 / 白水Uブックス、1984年8月)
  • マルコ・デネービ(Marco Denevi, 1922-1998, スペイン語版Wikipedia
    • 『秘密の儀式』(江上淳訳、西和書林、1985年7月)
  • エンリケ・アンデルソン=インベル(Enrique Anderson Imbert, 1910-2000, Wikipedia
    • 「将軍、見事な死体となる」(鼓直、西川喬訳、アンデルソン=インベル『魔法の書』国書刊行会、1994年11月)
  • ミリアム・ローリーニ(Myriam Laurini [または Miriam Laurini ?], 1947- )
    • 「失われた夢」(興津真理子訳、サラ・パレツキー編『ウーマンズ・ケース』下巻、ハヤカワ・ミステリ文庫、1998年2月)
  • ギジェルモ・マルティネス(Guillermo Martínez, 1962- , Wikipedia
    • 『オックスフォード連続殺人』(和泉圭亮訳、扶桑社ミステリー、2006年1月) - 『2007本格ミステリ・ベスト10』海外部門 第4位
    • 『ルシアナ・Bの緩慢なる死』(和泉圭亮訳、扶桑社ミステリー、2009年6月) - 2009年スウェーデン推理作家アカデミー 最優秀翻訳ミステリ賞ノミネート
  • パブロ・デ・サンティス(Pablo De Santis, 1963- , Wikipedia
    • 『世界名探偵倶楽部』(宮崎真紀訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2009年10月)
  • カルロス・バルマセーダ(Carlos Balmaceda, 1954-)
    • 『ブエノスアイレス食堂』(柳原孝敦訳、白水社 エクス・リブリス、2011年10月)

 2004年にアメリカで刊行されたダレル・B・ロックハート編『ラテンアメリカ・ミステリ作家ガイド』(Darrell B. Lockhart編『Latin American Mystery Writers: An A-to-Z Guide』、Greenwood Pub Group)では、エンリケ・アンデルソン=インベルの代表的な探偵小説として「将軍、見事な死体となる」(El general hace un lindo cadáver)が挙げられている。1961年の短編集『魔法の書』(El grimorio)収録の短編である。また、探偵小説に分類できるものとしてもう1編、「Al rompecabezas le falta una pieza」(パズルのピースが一枚足りない / 未邦訳)が挙げられている。こちらは1975年の短編集『La botella de Klein』(クラインの壺 / 未邦訳)に収録されている。


◆ミステリ以外の作品が邦訳されている作家

 イタリアのクールマイユール・ミステリ祭で毎年授与されるレイモンド・チャンドラー賞を、1993年にアルゼンチンのオスバルド・ソリアーノ(Osvaldo Soriano, 1943-1997, スペイン語版Wikipedia)が受賞している。レイモンド・チャンドラー賞は国内外の優れたミステリ作家に対して贈られる賞。調べてみるとオスバルド・ソリアーノは、フィリップ・マーロウを登場させたパロディ作品『Triste, solitario y final』(1973)などを書いた作家のようだ。邦訳があるのは絵本『ぼくのミラクルねこネグロ』(宇野和美訳、アリス館、2003年7月)のみ。

 2013年5月に『孤児』(寺尾隆吉訳、水声社 フィクションのエル・ドラード)が翻訳出版されたフアン・ホセ・サエール(Juan José Saer, 1937-2005, スペイン語版Wikipedia)はフランスのミステリ大事典『Dictionnaire des littératures policières』(初版2003年、通称メスプレード事典)に項目がある(2007年の第2版で確認)。1994年の長編『捜査』(La pesquisa / 未邦訳)がミステリ小説とされているようだ。

ウルグアイ

  • イベア・コンテリース(Hiber Conteris, 1933- , スペイン語版Wikipedia
    • 『マーロウ もう一つの事件』(小林祥子訳、角川文庫、1988年10月)
  • ダニエル・チャヴァリア(Daniel Chavarría, 1933- , Wikipedia
    • 『バイク・ガールと野郎ども』(真崎義博訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2002年11月) - 2002年エドガー賞最優秀ペーパーバック賞受賞
      • ダニエル・チャヴァリアはウルグアイ出身で、キューバで作家活動を続けている

キューバ

  • ベゴーニャ・ロペス(Begoña López, 1923-1989, Wikipedia
    • 『死がお待ちかね』(竹野泰文訳、文藝春秋、1989年7月) - 第7回サントリーミステリー大賞・大賞受賞作
  • ホセ・ラトゥール(José Latour, 1940- , Wikipedia
    • 「ハバナイトメア」(酒井武志訳、『ミステリマガジン』1999年4月号)
    • 『追放者』(酒井武志訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2001年2月) - 2000年エドガー賞最優秀ペーパーバック賞ノミネート、2003年ハメット賞(スペイン語圏最優秀ミステリ賞)受賞
    • 「ゴラム」(横山啓明訳、『ミステリマガジン』2001年8月臨時増刊号『ノワールの時代』)
    • 『ハバナ・ミッドナイト』(山本さやか訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2003年3月)
  • アルナルド・コレア(Arnaldo Correa, 1935- )
    • 『キューバ・コネクション』(田口俊樹訳、文春文庫、2007年2月)
  • レオナルド・パドゥーラ(Leonardo Padura, 1955- , Wikipedia
    • 『アディオス、ヘミングウェイ』(宮崎真紀訳、ランダムハウス講談社[文庫]、2007年9月) - 2007年ドイツ・ミステリ大賞第3位

 サントリーミステリー大賞は海外からの英語やスペイン語での応募も認めており、スペイン語で執筆された『死がお待ちかね』は第7回の大賞を受賞して日本で出版された。なお、著者は受賞を知る前に亡くなっている。

 ホセ・ラトゥール『追放者』は、著者が初めて英語で書いた作品。ラトゥールは1982年にキューバで『Pre­lu­dio a la Noche』(スペイン語作品)でミステリ作家デビューし、続けて何作かのミステリ小説を発表していた。しかし、キューバで実際に起こった汚職事件を題材にして1994年に書き上げた『The fool』は、出版社に原稿を送付したあと2年間待たされたのち、キューバ内務省により出版不許可の決定が下されてしまう。自分が本当に書きたい作品がキューバでは出版できないことを知ったラトゥールは、この後、英語でのミステリ小説執筆に着手する。そして書き上げたのが『Outcast』(邦題『追放者』)である。この作品は1999年にアメリカで出版され、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)のエドガー賞最優秀ペーパーバック賞にノミネートされた。続いてラトゥールは『The fool』を英訳する。これは日本(『ハバナ・ミッドナイト』)とイタリア(『Embargo』)で翻訳出版されたが、英語圏では出版の機会に恵まれなかった。『The fool』は2010年に電子書籍化され、ようやく英語圏の読者の目にも触れることとなった(著者公式サイト内の電子書籍『The fool』紹介ページ)。『Outcast』以降もラトゥールは英語で小説を発表し続けている。そのうちの1作『The Far­away War』(2009)はEnrique Clioというペンネームで発表された。(以上の情報はホセ・ラトゥールの公式サイトからまとめた)
 ラトゥールは1999年に発表した英語作品『Outcast』(追放者)を2002年にスペイン語でも発表している。このスペイン語版(『Mundos sucios』)は2003年のハメット賞(スペイン語圏最優秀ミステリ賞)を受賞した。
 短編「ハバナイトメア」(Havanightmare)と「ゴラム」(Golam)は、主に国際推理作家協会所属の推理作家たちの短編を集めた2冊の英語アンソロジー『Death Cruise』(ローレンス・ブロック編、1999年)、『Death by Espionage』(マーティン・クルーズ・スミス編、1999年)にそれぞれ収録されている作品だが、元々何語で書かれた作品なのかは分からない。

 アルナルド・コレア『キューバ・コネクション』(英題 Spy's Fate)が元々どの言語で書かれたものなのかは不明。著者が初めて英語で書いた作品ともいわれるが、英語版の出版社のサイトには「英語に翻訳された最初の作品」(リンク)との記述がある。英語版『Spy's Fate』には訳者名が明記されていないようなので、過去の作品を本人が英訳したものだろうか。同じ出版社から出ている英語版第2作『Cold Havana Ground』(未邦訳)は英訳者名が明記されており、これが元はスペイン語で書かれた作品だということが分かる。

 レオナルド・パドゥーラは2009年にイタリアのミステリ賞、レイモンド・チャンドラー賞を受賞している。これはイタリアのクールマイユール・ミステリ祭で毎年授与されている賞。イタリア国内外の優れたミステリ作家に対して贈られる。レオナルド・パドゥーラの邦訳はほかに短編「狩猟者」(久野量一訳、『すばる』2004年11月号、pp.268-277)があるが、これは非ミステリ。同号にはレオナルド・パドゥーラへのインタビュー記事、「政治的レトリックを超えて」(聞き手・構成 野谷文昭、pp.284-289)も掲載されている。それによればキューバでは、1970年代に文学への締め付けが厳しくなり、活動ができなくなってしまった作家が大勢いた。そんなときに国産の推理小説が出始めたが、これがそれらの作家の穴埋めに使われ、1970年代から1980年代にかけて国産推理小説が盛んに出版されたのだという。またパドゥーラは自分の読書経験についても語っている。1920~40年代のミステリ小説を集めた「エル・ドラゴン叢書」というのがキューバで出版されていて、それでパドゥーラはアガサ・クリスティーやジョン・ディクスン・カー、エラリー・クイーンらの作品を読んだそうだ。その後はダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラー、ジェイムズ・M・ケインらに傾倒する。しかし1970年代になると、推理小説に限らず、外国の小説はほとんど翻訳出版されなくなってしまったという。

コロンビア

  • ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel García Márquez, 1928-2014, Wikipedia
    • 『予告された殺人の記録』(野谷文昭訳、新潮社、1983年4月 / 新潮文庫、1997年12月)

 ホルヘ・フランコ(Jorge Franco, 1962- , スペイン語版Wikipedia)の『ロサリオの鋏』(田村さと子訳、河出書房新社、2003年12月)は、スペイン語圏のミステリの年間最優秀作に授与されるハメット賞(Premio Hammett)の受賞作だが、ミステリとは言い難い(クライム・フィクションとも言い難い)。

チリ

  • マリア・ルイサ・ボンバル(María Luisa Bombal, 1910-1980, スペイン語版Wikipedia
    • 『霧の家』(清水光訳、新潮社、1956年、著者名表記「M・L・ボムバル」) La última niebla (1934)
  • ルイス・セプルベダ(Luis Sepúlveda, 1949- , Wikipedia
    • 『センチメンタルな殺し屋』(杉山晃訳、現代企画室、1999年7月) - 「センチメンタルな殺し屋」と「ヤカレー」の2中編を収録
  • ロベルト・アンプエロ(Roberto Ampuero, 1953- , スペイン語版Wikipedia
    • 『ネルーダ事件』(宮崎真紀訳、ハヤカワ・ミステリ、2014年5月)

 ロベルト・ボラーニョの『La Pista de Hielo』(英題 The Skating Rink / 未邦訳)は英語圏では「魅力的で独特な探偵小説」(A spellbinding, sui generis detective fiction)という売り文句で出版されている。邦訳のある作品のうち、ミステリ要素のあるものとしては『野生の探偵たち』(柳原孝敦、松本健二訳、白水社 エクス・リブリス、2010年4月)、『2666』(野谷文昭、内田兆史、久野量一訳、白水社、2012年10月)、短編の「鼠警察」(久野量一訳、ロベルト・ボラーニョ『鼻持ちならないガウチョ』白水社、2014年4月)がある。

ニカラグア

 2013年4月に『ただ影だけ』(寺尾隆吉訳、水声社 フィクションのエル・ドラード)が翻訳出版されたセルヒオ・ラミレス(Sergio Ramírez, 1942- , スペイン語版Wikipedia)は過去に『天罰』(Castigo divino / 未邦訳)でハメット賞(スペイン語圏最優秀ミステリ賞)を受賞している。

ペルー

  • マリオ・バルガス=リョサ(Mario Vargas Llosa, 1936- , Wikipedia
    • 『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』(鼓直訳、現代企画室 ラテンアメリカ文学選集6、1992年8月)
      • この作品に引き続き警官リトゥーマが登場する『アンデスのリトゥーマ』(木村榮一訳、岩波書店、2012年11月)も推理小説仕立ての作品だそうだ。リトゥーマはほかに『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』以前の作品である『緑の家』、『フリアとシナリオライター』にも登場する。

 ペルーでは、グスタボ・ファベロン・パトリアウ(Gustavo Faverón Patriau, 1966- , スペイン語版Wikipedia)の『古書収集家』(El anticuario / 未邦訳)が「迷宮的本格とも呼べるなかなか出色の作品」だそうで気になる(宮崎真紀「各国ミステリ事情 スペイン・中南米篇」『ハヤカワミステリマガジン』2013年12月号)。英訳は2014年6月に『The Antiquarian』というタイトルで刊行された。 

ボリビア

 2014年8月にテクノスリラー小説『チューリングの妄想』(服部綾乃、石川隆介訳、現代企画室)が翻訳出版されたエドゥムンド・パス・ソルダン(エドムンド・パス=ソルダン などとも表記)(Edmundo Paz Soldán, 1967- , スペイン語版Wikipedia)はハメット賞(スペイン語圏最優秀ミステリ賞)の2012年のノミネート者。邦訳にはほかに掌編「夕暮れの儀式」(『ユリイカ』2008年3月号、特集:新しい世界文学)がある。
 ハメット賞にノミネートされたのは2011年の長編『Norte』(未邦訳)。また、『ボリビアを知るための73章【第2版】』(真鍋周三編著、明石書店、2013年2月)の「ペドロ・シモセとパス・ソルダン」(執筆:杉山晃)によれば、代表作の1つである長編『欲望の問題』(La materia del deseo / 未邦訳)はボリビア人青年が父親の暗殺事件の謎を解き明かしていくストーリーで、推理小説としての面白さも加味された作品だとのこと。

メキシコ

  • パコ・イグナシオ・タイボ二世(Paco Ignacio Taibo II, 1949- , Wikipedia
    • 「国境の南」(長野きよみ訳、バイロン・プライス編『フィリップ・マーロウの事件 1 1935-1948』ハヤカワ・ノヴェルズ、1990年2月 / 『フィリップ・マーロウの事件』ハヤカワ・ミステリ文庫、2007年3月)
    • 『三つの迷宮』(佐藤耕士訳、ハヤカワ・ミステリ、1994年7月) - 1994年フランス・813協会賞(翻訳長編部門)受賞
    • 『影のドミノ・ゲーム』(田中一江訳、創元推理文庫、1995年1月)
    • 「伝説の作られ方」(佐藤耕士訳、ジェローム・チャーリン編『ニュー・ミステリ ジャンルを越えた世界の作家42人』早川書房、1995年10月)
  • セルヒオ・ピトル(Sergio Pitol, 1933- , スペイン語版Wikipedia
    • 『愛のパレード』(大西亮訳、現代企画室、2011年4月)
      • 「ナンセンスな不条理、知的な諧謔に満ちた多声的(ポリフォニック)な、瞠目すべき〈疑似〉推理小説」(現代企画室 書籍紹介ページ

 メキシコの推理小説では、エラリー・クイーンが選出した世界の傑作ミステリ短編集125冊のリスト、いわゆる「クイーンの定員」にも選出されている「メキシコのアルセーヌ・ルパン」ことマキシモ・ロルダン(Máximo Roldán)のシリーズが気になるが、残念ながら邦訳はない。1920~40年代に中短編が7編ほど発表されているようである。作者はアントニオ・エル(Antonio Helú, 1900-1972)。ちなみに「クイーンの定員」には非英語圏からは8冊が選出されており、スペイン語圏から選ばれたのは『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』と、マキシモ・ロルダン・シリーズ短編集『La Obligación de Asesinar』の2冊である。


 2004年にアメリカで刊行されたダレル・B・ロックハート編『ラテンアメリカ・ミステリ作家ガイド』(Darrell B. Lockhart編『Latin American Mystery Writers: An A-to-Z Guide』、Greenwood Pub Group)では、メキシコの作家ではパコ・イグナシオ・タイボ二世やアントニオ・エル以外に、カルロス・フエンテス(Carlos Fuentes, 1928-2012, Wikipedia)が立項されている。この作家ガイド自体は本文に目を通していないが、調べてみると1978年の作品『ヒドラの首』(La cabeza de la hidra / 未邦訳)が英語圏ではハードボイルド、スパイ・スリラーとして読まれているようである。柳原孝敦氏がブログ「翻訳ミステリー大賞シンジケート」に寄稿したエッセイ「黒、ただ一面の黒」の第4回(2013-04-22)によれば、カルロス・フエンテスは『ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーを、「我々の行く先を示してくれた指針」のひとつに挙げていた』とのこと。


ブラジル

  • J・ソアレス(Jô Soares, 1938- , ポルトガル語版Wikipedia
    • 『シャーロック・ホームズ リオ連続殺人事件』(武者圭子訳、講談社、1998年12月)
  • ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ(Luis Fernando Verissimo, 1936- , ポルトガル語版Wikipedia
    • 『ボルヘスと不死のオランウータン』(栗原百代訳、扶桑社ミステリー、2008年6月) - 『IN☆POCKET』文庫翻訳ミステリー・ベスト10「翻訳家&評論家が選んだベスト10」第7位

 あの伝説的なサッカー選手のペレが執筆した『ワールドカップ殺人事件』(安藤由紀子訳、創元推理文庫、1990年9月)というミステリ小説があるが、実際にはアメリカのミステリ作家のハーバート・レズニコウ(Herbert Resnicow)が書いたものとされる。(英語版の表紙では、著者名が「Pelé」と大きく書いてあり、その下に小さく「with Herbert Resnicow」と書いてある)

中南米ミステリについての日本語資料

  • 中南米全般
    • 宮崎真紀「各国ミステリ事情 スペイン・中南米篇」(『ハヤカワミステリマガジン』2013年12月号、pp.52-53) ※目次では「スペイン・南米篇」

  • アルゼンチン
    • 野谷文昭「[国別・地域別/未訳ミステリ紹介]ラテンアメリカ 虚構の上に構築された知的ゲームを楽しむ」(『翻訳の世界』1991年7月号、p.55)
      • 当時未訳だった『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』の紹介
  • キューバ
    • 野谷文昭「新世代作家とその文学」(後藤政子、樋口聡編著『キューバを知るための52章』明石書店、2002年12月、pp.221-226)
      • レオナルド・パドゥーラらに言及あり
    • レオナルド・パドゥーラ インタビュー記事「政治的レトリックを超えて」(聞き手・構成 野谷文昭、『すばる』2004年11月号、pp.284-289)
    • 野谷文昭「ミッシングリンクとしての七〇年代」(『すばる』2004年11月号、pp.253-256)
  • チリ
    • 長谷部史親「マリア・ルイザ・ボンバルの『霧の家』」(長谷部史親『ミステリの辺境を歩く』アーツアンドクラフツ、2002年12月、pp.294-302)
  • メキシコ
    • 佐藤勘治「メキシコ・ミステリ事情:タイボ二世成功の理由」(『ミステリマガジン』1999年3月号【特集:世界のミステリ】、pp.42-43)
  • ブラジル
    • 国安真奈「懐疑主義の罠 R・フォンセーカのノワール」(『ユリイカ』2000年12月臨時増刊号、pp.166-167、[コラム 世界のノワール ブラジル])
      • 邦訳のないブラジルのミステリ作家、R・フォンセーカの紹介


  • G. J. Demko's Landscapes of Crime > Mysteries in Foreign Lands
    • これは英文だが、アルゼンチン、キューバ、メキシコ、ブラジルのミステリおよび「スペイン語圏のミステリ」についての解説がある。


関連ページ






最終更新:2014年08月20日 23:50