2012年2月2日
韓国のミステリ情報サイト「
ハウミステリ」(How Mystery)で実施されたミステリランキングの結果を紹介する。
2011年に韓国で出版されたミステリを対象とするランキングで、韓国国内作品・翻訳作品の両方を含む。
2011年
順位 |
得票数 |
タイトル |
作者 |
国 |
年 |
韓国語タイトル |
備考 |
1位 |
25票 |
奇想、天を動かす |
島田荘司 |
日本 |
1989年 |
기발한 발상, 하늘을 움직이다 |
|
2位 |
19票 |
死んだギャレ氏 |
ジョルジュ・シムノン |
ベルギー |
1931年 |
갈레 씨, 홀로 죽다 |
邦訳1961年、創元推理文庫、等 |
19票 |
ラスト・チャイルド |
ジョン・ハート |
アメリカ |
2009年 |
라스트 차일드 |
邦訳2010年、早川書房 |
4位 |
18票 |
パイは小さな秘密を運ぶ |
アラン・ブラッドリー |
カナダ |
2009年 |
파이 바닥의 달콤함 |
邦訳2009年、創元推理文庫 |
5位 |
11票 |
精神自殺(*仮) |
ト・ジンギ(都振棋) |
韓国 |
2011年 |
정신자살 |
闇の弁護士シリーズ3 |
6位 |
8票 |
フランス白粉の謎 |
エラリー・クイーン |
アメリカ |
1930年 |
프랑스 파우더 미스터리 |
|
7位 |
7票 |
山魔の如き嗤うもの |
三津田信三 |
日本 |
2008年 |
산마처럼 비웃는 것 |
|
8位 |
5票 |
白雪姫には死んでもらう(*仮) |
ネレ・ノイハウス |
ドイツ |
2010年 |
백설공주에게 죽음을 |
|
9位 |
4票 |
弁護側の証人 |
小泉喜美子 |
日本 |
1963年 |
변호 측 증인 |
|
4票 |
戻り川心中 |
連城三紀彦 |
日本 |
1980年 |
회귀천 정사 |
|
4票 |
シャーロック・ホームズのライヴァルたち |
チョン・テウォン編訳 |
英米 |
- |
셜록 홈스의 라이벌들 |
19世紀末~20世紀初頭の作品を収録 |
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12位以下の作品 - クリックで展開 |
第12位(得票数3) - 4作品
第16位(得票数2) - 12作品
得票数1 - 29作品
- 日本作品
- 欧米作品
- 欧米作品(未邦訳)
- ジョン・カッツェンバック Hart's War(韓)
- ダグラス・プレストン & リンカーン・チャイルド Still Life with Crows(韓)
- ルイス・ベイヤード The Black Tower(韓)
- アンソニー・ホロヴィッツ The House of Silk(韓)
- Paulus Hochgatterer(オーストリア), Die Süße des Lebens(韓)
- 『ヒッチコック・ミステリ・マガジン傑作選』 - Alfred Hitchcock's Mystery Magazine Presents Fifty Years of Crime and Suspense の翻訳
- 原典は短編を34編収録。韓国版ではMartin Limón, Pusan Nights とLoren D. Estleman, Saturday Night at the Mikado Massage が収録されていない。
- 韓国作品
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ベスト3は日本の作品、フランス語圏の古典的作品、アメリカの最新の作品が争うという面白いことになった。1位の栄誉に輝いたのは島田荘司『奇想、天を動かす』である。島田荘司作品は台湾や中国では翻訳がかなり進んでいるが、韓国ではまだ8作品が翻訳出版されたのみである。『本格ミステリー・ワールド2012』によれば、近いうちに島田荘司の韓国での初のサイン会が行われる予定だという。今後、韓国でも島田荘司の人気が上がっていくかもしれない。
ジョン・ハート『ラスト・チャイルド』は言わずと知れた、2010年末の日本のミステリランキングを席捲した作品である。『ミステリが読みたい!』で第1位、週刊文春のミステリーベスト10で第1位、『このミステリーがすごい!』で第5位と好成績を収めた。『ラスト・チャイルド』と同じ得票数で第2位につけたジョルジュ・シムノン『死んだギャレ氏』については、寡聞にして日本でどのような評価を受けている作品なのか分からない。韓国ではメグレ初登場から80年を記念して、2011年5月に叢書《メグレシリーズ》の出版が開始された。月2冊刊行で、全75巻が予定されている。
韓国では日本のミステリ小説が年間100タイトルほどのペースで翻訳されている。もっともそれはここ4、5年のことであって、2006年には年間で32タイトルしか翻訳されていなかった。それが2007年には一気に倍以上の72タイトルとなり、2008年には96タイトルと、急激な伸びを見せたのである。かつては日本の最新のミステリ小説の翻訳が多かったが、翻訳数が増えるに従って日本の過去の名作が翻訳されることも多くなった。昨年のランキングでは5位に鮎川哲也『りら荘事件』が入ったが、今年のランキングでは小泉喜美子『弁護側の証人』と連城三紀彦『戻り川心中』がランクインしている。小泉喜美子が翻訳されたことに関しては、日本で2009年に復刊されているというのも大きいだろう。日本の最新作からは、三津田信三『山魔の如き嗤うもの』が第7位にランクインした。
韓国のオリジナル作品では、ト・ジンギ(都振棋)の本格ミステリ小説、闇の弁護士シリーズ第3弾『精神自殺』が第5位にランクインした。ト・ジンギは現役裁判官のミステリ作家で、2010年にデビューして、すでに長編3作品を刊行している。もともとミステリ好きだったが、2009年になってから通勤時間を利用して半年ほどで日本の作品を中心に新たにミステリを100冊以上読破。2009年11月に創作を開始し、2010年6月、短編ミステリ「選択」で『季刊ミステリ』新人賞を受賞してデビューした。愛好する作家に江戸川乱歩、島田荘司、東野圭吾らを挙げている。
第4位にランクインしたカナダの
アラン・ブラッドリーは2007年の英国推理作家協会(CWA)デビュー・ダガー賞受賞者。なんと受賞時には70歳だったという(
東京創元社公式サイトの紹介記事参照)。第8位にランクインしたドイツの
ネレ・ノイハウスは2009年にデビューし、早くも「ドイツミステリの女王」と呼ばれている作家(翻訳ミステリー大賞シンジケート記事、
酒寄進一「ドイツミステリへの招待状 その2」参照)。ノイハウスの『白雪姫には死んでもらう』は日本では酒寄進一氏の翻訳で刊行される予定。
第6位にエラリー・クイーンの国名シリーズ第2作、『フランス白粉の謎』がランクインした。これは2011年12月に韓国で刊行が始まった叢書《エラリー・クイーン・コレクション》の1冊である。第1シリーズとして国名シリーズ全9作の刊行が予定されており、それ以降も第3シリーズまで順次刊行予定。なお、『フランス白粉の謎』と同時刊行だった『ローマ帽子の謎』はこのランキングでは第16位だった。第9位にランクインした『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』は、オースチン・フリーマンやバロネス・オルツィ、ジャック・フットレルらが創造した“ホームズのライヴァルたち”が活躍する短編に、コナン・ドイルの非ホームズ物5編を併せた計30編を収録のアンソロジー。下に収録作の原題(英題)を示しておく。
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『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』収録作 英題一覧 - クリックで展開 |
『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』収録作 英題一覧
チョン・テウォン(鄭泰原)編訳。30編収録。
19世紀末~20世紀初頭の“ホームズのライヴァルたち”が活躍する作品を収録。
- Sir Arthur Conan Doyle / コナン・ドイル
- The Story of the Lost Special
- The Story of the Jew’s Breast-Plate
- The Story of the Black Doctor
- The Story of the Man with the Watches
- Catherine Louisa Pirkis / C・L・パーキス
- The Black Bag Left on a Door-step
- Arthur Morrison / アーサー・モリスン
- The Loss of Sammy Crockett
- The Case of Mr. Foggatt
- The Case of the Dixon Torpedo
- The Stanway Cameo Mystery
- Grant Allen / グラント・アレン
- The Episode of the Mexican Seer
- The Episode of the Diamond Links
- Baroness Emmuska Orczy / バロネス・オルツィ
- The York Mystery
- The Liverpool Mystery
- The Brighton Mystery
- The Edinburgh Mystery
- The Dublin Mystery
- Arnold Bennett / アーノルド・ベネット
- Clifford Ashdown / クリフォード・アッシュダウン (=オースチン・フリーマン)
- The Silkworms of Florence
- The Submarine Boat
- Jacques Heath Futrelle / ジャック・フットレル
- The Problem of ‘Dressing Room A.’
- The Missing Necklace
- The Green-Eyed Monster
- The Phantom Motor Car
- The Problem of the Motor-Boat
- Bret Harte / ブレット・ハート
- Ernest William Hornung / E・W・ホーナング
- The Ides of March
- Gentlemen And Players
- Nine Points of the Law
- The Return Match
- The Gift of the Emperor
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過去の結果
2010年
順位 |
得票数 |
タイトル |
作者 |
国 |
年 |
韓国語タイトル |
備考 |
1位 |
24票 |
ユダの窓 |
ジョン・ディクスン・カー |
アメリカ |
1938年 |
유다의 창 |
|
2位 |
9票 |
密室殺人ゲーム王手飛車取り |
歌野晶午 |
日本 |
2007年 |
밀실살인게임-왕수비차잡기 |
|
9票 |
名探偵の掟 |
東野圭吾 |
日本 |
1996年 |
명탐정의 규칙 |
|
9票 |
《闇の弁護士シリーズ》(*仮) |
ト・ジンギ(都振棋) |
韓国 |
2010年 |
어둠의 변호사 (1)、(2) |
闇の弁護士シリーズ1と2 |
5位 |
7票 |
りら荘事件 |
鮎川哲也 |
日本 |
1958年 |
리라장 사건 |
|
7票 |
首無の如き祟るもの |
三津田信三 |
日本 |
2007年 |
잘린머리처럼 불길한 것 |
|
7位 |
6票 |
赤い右手 |
ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ |
アメリカ |
1945年 |
붉은 오른손 |
邦訳1997年、国書刊行会 |
8位 |
5票 |
極大射程 |
スティーブン・ハンター |
アメリカ |
1993年 |
탄착점 |
邦訳1998年、新潮文庫 |
9位 |
4票 |
そして名探偵は生まれた |
歌野晶午 |
日本 |
2005年 |
그리고 명탐정이 태어났다 |
3編収録 |
4票 |
マークスの山 |
高村薫 |
日本 |
1993年 |
마크스의 산 |
|
4票 |
永遠の仔 |
天童荒太 |
日本 |
1999年 |
영원의 아이 |
|
- 《闇の弁護士シリーズ》は第1巻『赤い家の殺人』、第2巻『椿姫の肖像』が同時刊行だった。投票対象としてシリーズを挙げる人もおり、ここでは得票数が合算されている。
- 歌野晶午『そして名探偵は生まれた』の韓国版は日本の単行本版(2005年)と同じく「そして名探偵は生まれた」、「生存者、一名」、「館という名の楽園で」の3編を収録。なお、日本で刊行された文庫版(2009年)は「夏の雪、冬のサンバ」が追加されて計4編収録となっている。『生存者、一名』は2000年に、『館という名の楽園で』は2002年に、それぞれ祥伝社の《400円文庫》の1冊として刊行されている。
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12位以下の作品 - クリックで展開 |
第12位(得票数3) - 2作品
第14位(得票数2) - 10作品
得票数1 - 24作品
|
2009年
- 하우미스터리선정, 2009년 올해의 추리소설! (2010-02-03)
- 対象:2009年に韓国で刊行されたミステリ小説。韓国オリジナル作品と翻訳作品の両方を含む。
- 投票参加者:36名。それぞれが順位を付けずに3作品を選ぶ。
- 結果発表:2010年2月3日
順位 |
得票数 |
タイトル |
作者 |
国 |
年 |
韓国語タイトル |
備考 |
1位 |
15票 |
チャイルド44 |
トム・ロブ・スミス |
イギリス |
2008年 |
차일드44 |
邦訳2008年、新潮文庫 |
2位 |
9票 |
シンプル・プラン |
スコット・スミス |
アメリカ |
1993年 |
심플 플랜 |
邦訳1994年、扶桑社ミステリー |
3位 |
8票 |
生ける屍の死 |
山口雅也 |
日本 |
1989年 |
살아 있는 시체의 죽음 |
このミス'89 第8位 |
4位 |
6票 |
京城探偵録(*仮) |
ハン・ドンジン(韓東珍) |
韓国 |
2009年 |
경성탐정록 |
ホームズ物の(広義の)パスティーシュ |
6票 |
告白 |
湊かなえ |
日本 |
2008年 |
고백 |
|
6位 |
5票 |
魔人(*仮) |
キム・ネソン(金来成) |
韓国 |
1939年 |
마인 |
|
5票 |
私が殺した少女 |
原尞 |
日本 |
1989年 |
내가 죽인 소녀 |
このミス'89 第1位 |
8位 |
4票 |
曲った蝶番 |
ジョン・ディクスン・カー |
アメリカ |
1938年 |
구부러진 경첩 |
|
4票 |
緑は危険 |
クリスチアナ・ブランド |
イギリス |
1944年 |
녹색은 위험 |
|
10位 |
3票 |
松本清張傑作短篇コレクション 上巻 |
松本清張(宮部みゆき編) |
日本 |
- |
마쓰모토 세이초 걸작 단편 컬렉션 (상) |
2004年に文春文庫で刊行されたものの翻訳 |
3票 |
夜は千の目を持つ |
ウィリアム・アイリッシュ |
アメリカ |
1945年 |
밤은 천 개의 눈을 가지고 있다 |
|
- 以前に作った『京城探偵録』の紹介ページ:「1930年代の朝鮮京城を舞台にしたシャーロック・ホームズパスティーシュ『京城探偵録』」
- 『魔人』の作者のキム・ネソン(金来成)は1935年に日本の探偵雑誌『ぷろふいる』でデビュー。1936年に朝鮮半島に戻ってからは朝鮮語(韓国語)で探偵小説を発表し人気を博した。
- 宮部みゆき編『松本清張傑作短篇コレクション』上巻の収録作は日本・韓国とも、「或る「小倉日記」伝」、「恐喝者」、「一年半待て」、「地方紙を買う女」、「理外の理」、「削除の復元」、「捜査圏外の条件」、「真贋の森」、「昭和史発掘――二・二六事件」、「追放とレッド・パージ――「日本の黒い霧」より」
+
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12位以下の作品 - クリックで展開 |
第12位(得票数2) - 6作品
得票数1 - 25作品
- 日本作品
- 欧米作品
- ジョン・ディクスン・カー『アラビアンナイトの殺人』
- ジョン・ディクスン・カー『ビロードの悪魔』
- マイケル・コックス『夜の真義を』
- マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』
- アントニー・バークリー『第二の銃声』
- ローレンス・ブロック『獣たちの墓』
- ロス・マクドナルド『ウィーチャリー家の女』
- 邦訳なし ロバート・リテル Legends(韓)
- 邦訳なし コナン・ドイル(Leslie S. Klinger 編)『新註釈つきシャーロック・ホームズ全集』第2巻 - The New Annotated Sherlock Holmes(2004年)の翻訳
- 『シャーロック・ホームズの帰還』、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』、『シャーロック・ホームズの事件簿』を収録
- 邦訳なし アーナルデュル・インドリダソン(アイスランド) Röddin(韓国語タイトルを直訳すると『声』)
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最終更新:2012年02月12日 22:44