韓国語に翻訳された日本の探偵作家の作品一覧

2011年9月5日
  • 2011年12月11日更新(新訳版『黒死館殺人事件』の追加など)



 創元推理文庫《日本探偵小説全集》(全12巻)に作品が収録されている30人の作家のうち、谷崎潤一郎、佐藤春夫、芥川龍之介、菊池寛を除く26人の探偵作家について韓国語訳の有無を調べ、翻訳された作品の一覧を作成した。

 ※注:出版日等のデータは韓国のネット書店「アラジン」のものを使用しています。「アラジン」に登録されていない古い書籍はここではリスト化していません(つまり、このページでリスト化しているものは、この10年ぐらいに刊行された比較的新しいものだけです)。

目次

江戸川乱歩


 ハングルでの著者名表記は「 에도가와 란포 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
음울한 짐승(短編集) 陰鬱한 짐승 陰獣 キム・ムヌン(김문운) 東西文化社(동서문화사) 2003-06-01
외딴섬 악마 외딴섬 悪魔 孤島の鬼 キム・ムヌン(김문운) 東西文化社(동서문화사) 2004-08-01
에도가와 란포 전단편집 1(短編集) 에도가와 란포 全短篇集 1 江戸川乱歩全短篇 1(ちくま文庫) キム・ソヨン(김소영) 図書出版 Do Dream(도서출판두드림) 2008-05-14
에도가와 란포 전단편집 2(短編集) 에도가와 란포 全短篇集 2 江戸川乱歩全短篇 2(ちくま文庫) キム・ウニ(김은희) 図書出版 Do Dream(도서출판두드림) 2009-07-17
에도가와 란포 전단편집 3(短編集) 에도가와 란포 全短篇集 3 江戸川乱歩全短篇 3(ちくま文庫) キム・ウニ(김은희) 図書出版 Do Dream(도서출판두드림) 2008-09-22

 2003年の短編集『陰獣』の収録作は、「陰獣」+新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』に収録の9短編(bk1)。
 2008年~2009年に出た短編集の収録作は、ちくま文庫『江戸川乱歩全短篇』(全3巻)と同じ(bk1:第1巻第2巻第3巻)。

 なお『陰獣』と『孤島の鬼』は、1977年~1978年に刊行された韓国のミステリ叢書《河西推理選書》(全36巻)でも刊行されている。(河西推理選書版はそれぞれ『음수(陰獣)』、『고도의 마인(孤島의 魔人)』というタイトルで刊行された→ラインナップ

 『江戸川乱歩全短篇 2』の翻訳本は、日本ミステリの愛好者が集う韓国のWebサイトで2010年に行われたランキングで第15位(2009年に韓国で刊行された日本の広義のミステリが対象、以前にまとめたTogetter参照)。

横溝正史

 ハングルでの著者名表記は「 요코미조 세이시 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
혼징살인사건 혼징殺人事件 本陣殺人事件 キム・ムヌン(김문운) 東西文化社(동서문화사) 2003-06-01 『蝶々殺人事件』も収録
옥문도 獄門島 獄門島 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2005-07-16
팔묘촌 八墓村 八つ墓村 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2006-08-04
악마의 공놀이 노래 悪魔의 공놀이 노래 悪魔の手毬唄 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2007-07-12
이누가미 일족 이누가미 一族 犬神家の一族 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2008-08-29
악마가 와서 피리를 분다 悪魔가 와서 피리를 분다 悪魔が来りて笛を吹く チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2009-07-13
밤 산책 밤 散策 夜歩く チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2009-12-16
여왕벌 女王蜂 女王蜂 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2010-07-20
삼수탑 三首塔 三つ首塔 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2010-12-18
혼진 살인사건 혼진 殺人事件 本陣殺人事件 チョン・ミョンウォン(정명원) 時空社(시공사) 2011-09-05 「車井戸はなぜ軋る」、「黒猫亭事件」も収録

 『本陣殺人事件』は1977年~1978年に刊行された韓国のミステリ叢書《河西推理選書》(全36巻)でも刊行されている。(河西推理選書版は『본진살인사건(本陣殺人事件)』というタイトルで刊行された→《河西推理選書》全36巻ラインナップ
 また、『蝶々殺人事件』は1978年~1981年に刊行された韓国のミステリ叢書《三中堂ミステリ名作》(全40巻)でも刊行されている。→《三中堂ミステリ名作》全40巻のラインナップ

 ほかに、『Jミステリ傑作選1』(テドン出版社、1999年)に短編「飾り窓の中の恋人」が収録されている(『日本文学翻訳60年 現況と分析』参照)。

 なお、エキサイトニュースの記事「韓国で今、横溝正史がヒットするワケ」(2008年10月17日)によれば、韓国では漫画『金田一少年の事件簿』の人気が先にあって、その結果「金田一耕助って誰?」ということで横溝人気に火がついたのだという。同記事によると、『犬神家の一族』は韓国では発売から1か月半で1万6000部を販売している。『犬神家の一族』発売の1か月後に刊行されたジャンル小説誌『ファンタスティーク』18号(2008年10月号)では横溝正史特集が組まれている。

 『犬神家の一族』の翻訳本は、日本ミステリの愛好者が集う韓国のWebサイトで2009年に行われたランキングで第10位(2008年に韓国で刊行された日本の広義のミステリが対象、以前にまとめたTogetter参照)。

夢野久作

 ハングルでの著者名表記は「 유메노 큐사쿠 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
도구라마구라 상 도구라마구라 上 ドグラ・マグラ イ・ドンミン(이동민) クロップ・サークル(Crop circle、크롭써클) 2008-10-31
도구라마구라 하 도구라마구라 下 ドグラ・マグラ イ・ドンミン(이동민) クロップ・サークル(Crop circle、크롭써클) 2008-10-31
소녀지옥(ほか3編) 少女地獄 少女地獄 チェ・ゴウン(최고은) D&Cメディア(디앤씨미디어) 2011-03-15

 『少女地獄』の収録作は新潮文庫『少女地獄』と同じ(bk1)。「こちら」で韓国版表紙の大きい画像が見られる(『少女地獄』を3月中に購入した方にネット書店のポイント進呈!という告知のページ)。

 ほかに、アンソロジー『スリルの誕生』(時間旅行社、2010年9月)に「鉄鎚(かなづち)」(青空文庫)が収録されている。小説以外では、雑誌『季刊ミステリ』22号(2008年冬号)にエッセイ「探偵小説の正体」、「書けない探偵小説」、「探偵小説漫想」、『季刊ミステリ』23号(2009年春号)にエッセイ「創作人物の名前について」が掲載されている。

 一応書いておくと、夢野久作の小説を原作とする漫画『脳Rギュル ―脳或公使』(小学館)の韓国語版(『뇌R 규르』)が2011年に出ている。

 『ドグラ・マグラ』の翻訳は、日本ミステリの愛好者が集う韓国のWebサイトで2009年に行われたランキングで第16位(2008年に韓国で刊行された日本の広義のミステリが対象、以前にまとめたTogetter参照)。

小栗虫太郎

 ハングルでの著者名表記は「 오구리 무시타로 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
흑사관 살인사건 黒死館 殺人事件 黒死館殺人事件 チュ・ヨンヒョン(추영현) 東西文化社(동서문화사) 2005-03-01
흑사관 살인사건 黒死館 殺人事件 黒死館殺人事件 キム・ソニョン(김선영) ブックロード(북로드) 2011-12-05

 【2011年12月11日追記】2011年12月、『黒死館殺人事件』の新訳が刊行された。

 『ドグラ・マグラ』と『黒死館殺人事件』が出てきたので補足として書いておくと、三大奇書の残りの一冊、中井英夫『虚無への供物』も2009年に韓国語版が出ている(『허무에의 제물』)。
 なお、四冊目の奇書とされる竹本健治『匣の中の失楽』は、韓国推理作家協会の理事などを務めたミステリ評論家・翻訳家のチョン・テウォン(鄭泰原、1954-2011)氏による翻訳が完成しているらしいが、出版はされていない。

岡本綺堂

 ハングルでの著者名表記は「 오카모토 기도 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
한시치 체포록(短編集) 한시치 逮捕録 半七捕物帳 チュ・ジナ(추지나 ) 本の世界(책세상 ) 2010-02-20

 韓国版『半七捕物帳』(2010)の収録作は以下の11編。
  • 「お文の魂」、「石灯籠」、「津の国屋」、「三河万歳」、「槍突き」、「狐と僧」、「冬の金魚」、「むらさき鯉」、「一つ目小僧」、「かむろ蛇」、「二人女房」

 ほかに、アンソロジー『日本ホラー傑作選』(本の世界、2009年8月)に「幽霊花火」が収録されている。

小酒井不木

 ハングルでの著者名表記は「 고사카이 후보쿠 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
연애곡선(短編集) 恋愛曲線 恋愛曲線 ホン・ソンピル(홍성필) パラブックス(파라북스) 2009-01-15

 韓国版『恋愛曲線』(2009)の収録作は以下の13編。
  • 「稀有の犯罪」、「痴人の復讐」、「恋愛曲線」、「メデューサの首」、「手術」、「死の接吻」、「遺伝」、「死体蠟燭」、「愚人の毒」、「血友病」、「安死術」、「按摩」、「闘争」

 ほかに、雑誌『季刊ミステリ』19号(2008年春号)にエッセイ「「マリー・ロジェ事件」の研究」、『季刊ミステリ』32号(2011年夏号)にエッセイ「科学的研究と探偵小説」が掲載されている。

坂口安吾

 ハングルでの著者名表記は「 사카구치 안고 」。

タイトル 漢字ハングル混じり表記 原題 訳者 出版社 出版日
불연속 살인사건 不連続 殺人事件 不連続殺人事件 ユ・ジョン(유정) 東西文化社(동서문화사) 2003-11-01

 『不連続殺人事件』は1978年~1981年に刊行された韓国のミステリ叢書《三中堂ミステリ名作》(全40巻)でも刊行されている。→《三中堂ミステリ名作》全40巻のラインナップ

 ほかに、ミステリやホラー関連のアンソロジーでは、『日本ホラー傑作選』(本の世界、2009年8月)に「桜の森の満開の下」、『スリルの誕生』(時間旅行社、2010年9月)に「能面の秘密」(青空文庫)が収録されている。小説以外では、雑誌『季刊ミステリ』17号(2007年秋号)と『季刊ミステリ』25号(2009年秋号)にエッセイが掲載されている。どちらも「推理小説について」というタイトルになっているが、片方が「推理小説について」(青空文庫)、もう片方が「推理小説論」(青空文庫)だろうか。

 推理小説以外の単行本は上の表から除いたが、『白痴 堕落論 ほか』(2007年5月)(「風博士」収録)、『坂口安吾散文集』(2009年9月)、『織田信長』(2010年3月)、さらには『まんがで読破 堕落論 白痴』などが刊行されている(以上ですべてではない)。またいくつかのアンソロジーにも作品が収録されている。

黒岩涙香の翻案小説を再翻案した韓国の翻案小説

 韓国(朝鮮)では1910年代から1920年代にかけて、日本の小説(翻案小説含む)を翻案した作品が人気を博していた。
 2007年から2008年にかけて韓国で、「韓国の翻案小説(한국의 번안 소설)」という全10巻(6作品)のシリーズが刊行されている。そのうちの8冊(4作品)は黒岩涙香の作品を再翻案したものである。以下に示す。

※原著および黒岩涙香の作品の初出年については、Wikipediaでざっと調べただけなので、間違いがあるかもしれません。
再翻案 黒岩涙香による翻案 原著
ミン・テウォン 『鉄仮面』(1922)(2008年版 上巻下巻 黒岩涙香 『鉄仮面』(1892) フォルチュネ・デュ・ボアゴベ 『サンマール氏の二羽のつぐみ』(1878)
イ・サンヒョプ 『貞婦怨』(1914)(2007年版 上巻下巻 黒岩涙香 『捨小舟』(1894) メアリー・エリザベス・ブラッドン 『Diavola』(1866)
イ・サンヒョプ 『海王星』(1916)(2007年版 上巻中巻下巻 黒岩涙香 『巌窟王』(1901) アレクサンドル・デュマ 『モンテクリスト伯』(1844)
ミン・テウォン 『哀史』(1910)(2008年版 黒岩涙香 『噫無情(ああむじょう)』(1902) ヴィクトル・ユーゴー 『レ・ミゼラブル』(1862)

 「韓国の翻案小説」全10巻で刊行された残りの2作品は、尾崎紅葉の『金色夜叉』を翻案したチョ・ジュンファン『長恨夢』(1913)(2007年版)と、菊池幽芳の『己が罪』(1899)を翻案したチョ・ジュンファン『双玉涙』(1910年代?)(2007年版)。『金色夜叉』の登場人物「貫一とお宮」は有名だが、その翻案作品『長恨夢』の登場人物「イ・スイルとシム・スネ」(이수일 と 심순애)も、韓国では知らない人がいないぐらいの有名なキャラクターであるらしい。また、『金色夜叉』は未完作品だが、その翻案作品『長恨夢』はハッピーエンドで終わるとのこと。

 1935年に日本の探偵雑誌『ぷろふいる』でデビューした金来成(きん らいせい/キム・ネソン、1909-1957)は、1936年に韓国(朝鮮)に戻ってから探偵作家・大衆小説作家として活躍した。金来成が脚本を担当して人気を博したラジオドラマ『真珠塔』(1946年放送、1947年単行本刊行)は、『モンテクリスト伯』の翻案作品である。おそらく、『モンテクリスト伯』を翻案した『巌窟王』を再翻案した『海王星』をさらに翻案したものだと思われる。金来成の『真珠塔』は大ヒットし、のちに漫画化されたりテレビドラマ化されたりもしている。2009年には約50年ぶりに再刊された(『真珠塔』2009年版)。金来成はほかに、1949年には『鉄仮面』を少年向けに翻案した『秘密の仮面』を刊行している。

アンソロジーなどに作品が収録されている作家

 以下の作家は韓国で単行本は刊行されていないが、アンソロジーや雑誌などに作品の韓国語訳が載ったことがある。
 作家名50音順。

海野十三


大阪圭吉


甲賀三郎


 ほかに、雑誌『季刊ミステリ』26号(2009年冬号)にエッセイ「ドイルを宗とす」が掲載されている。

角田喜久雄


【2011年12月11日追記】『日本文学翻訳60年 現況と分析』によると、1968年に韓国・仁文社より角田喜久雄の『磨谷의 血鬪』(イ・ムンス(이문수)訳)という本が出ているようだ。(韓国国立中央図書館には所蔵されていない)

久生十蘭


渡辺啓助

  • 「三吉の食欲」 - 『Jミステリ傑作選1』(テドン出版社、1999年)に収録(『日本文学翻訳60年 現況と分析』参照)

渡辺温


 韓国のネット書店で「ワタナベ・オン(와타나베 온)」で検索すると『通俗伊蘇普(イソップ)物語』が出てくるが、これは渡辺温ではなく渡部温(Wikipedia)の作品である。

↑先月末についに刊行された創元推理文庫版『アンドロギュノスの裔(ちすじ)』(2011年8月)

アンソロジーごとの収録作まとめ

 最後に、アンソロジーごとに収録作をまとめておく。
 (書籍の現物を確認しているわけではないので、収録作として似たタイトルの別作品を挙げてしまっていることもあるかもしれません)

  • 日本ホラー傑作選』(本の世界、2009年8月)
    • 岡本綺堂 「幽霊花火」
    • 小泉八雲 「幽霊滝の伝説」
    • 坂口安吾 「桜の森の満開の下」
    • 夢野久作 「죽음을 부르는 신문(死を呼ぶ新聞)」 - 原題不明
    • 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
    • 夏目漱石 「変な音」
    • 都賀庭鐘 「黒川源太主山に入ツて道を得たる話」
    • 芥川龍之介 「地獄変」
    • 上田秋成 「吉備津の釜」
    • 泉鏡花 「春昼」

  • 悪魔のレシピ』(セシ、2009年12月)
    • 久生十蘭 「妖翳記」
    • 角田喜久雄 「鬼啾」
    • 山本周五郎 「その木戸を通って」
    • 横光利一「時間」
    • 芥川龍之介 「妙な話」
    • 村山槐多 「悪魔の舌」
    • 西尾正 「海蛇」

  • スリルの誕生』(時間旅行社、2010年9月)
    • 葉山嘉樹 「死屍(しかばね)を食う男」
    • 久生十蘭 「昆虫図」
    • 夢野久作 「鉄鎚(かなづち)」
    • 甲賀三郎 「罠に掛った人」
    • 渡辺温 「勝敗」
    • 坂口安吾 「能面の秘密」
    • 大阪圭吉 「燈台鬼」

翻訳なし

大下宇陀児、浜尾四郎、木々高太郎、羽志主水、山本禾太郎、牧逸馬(林不忘、谷譲次)、水谷準、城昌幸、地味井平造、葛山二郎、蒼井雄
  • 上記の作家は、翻訳がないとは断言できないが、とりあえず今回は見つけることができなかった。

補)探偵小説論や探偵小説史に関する本の韓国語訳


 また、井上良夫の「探偵小説論」が雑誌『季刊ミステリ』18号(2007年冬号)に、「探偵小説の本格的興味」が『季刊ミステリ』20号(2008年夏号)に掲載されている。


最終更新:2011年09月05日 03:27