鮎川哲也『幻の探偵作家を求めて』(正・続・番外・新)

2011年6月30日

 忘れがたい名作を発表しながら歴史の流れの中で消えていった幻の探偵作家を訪ねる、鮎川哲也の尋訪記。

Index

尋訪記全59編の作家名五十音順一覧

 59編中、33編は単行本に収録されている。残りの26編は未収録。
  • 『幻の探偵作家を求めて』(晶文社、1985年10月) - 尋訪記21編
  • 『こんな探偵小説が読みたい』(晶文社、1992年9月) - 尋訪記12編+各作家の短編計12編

 『幻の探偵作家を求めて』の姉妹本として『あやつり裁判 幻の探偵小説コレクション』(晶文社、1988年3月)が出版されている。『幻の探偵作家を求めて』で扱った21名のうち、11名の作家の短編を収録している(以下の表の「+あ」は、『あやつり裁判』に短編が収録されていることを示す)。

タイトル(作家名五十音順) 初出 単行本収録状況
1 ロマンの種を蒔く博多っ子・赤沼三郎(あかぬま さぶろう) 『幻の探偵作家を求めて』書き下ろし 『幻の探偵作家を求めて』+あ
2 新宿青線街の発明王・朝山蜻一(あさやま せいいち) 『EQ』96号(1993年11月号)
3 『めどうさ』に託した情熱・阿知波五郎(あちわ ごろう) 『EQ』81号(1991年5月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
4 関西派きっての理論家・天城一(あまぎ はじめ) 『EQ』103号(1995年1月号)
5 豪雪と闘う南国育ち・蟻浪五郎(ありなみ ごろう)(※青池研吉) 【注1】 『問題小説』1983年11月号 『幻の探偵作家を求めて』+あ
6 『Zの悲劇』も訳した技巧派・岩田賛(いわた さん) 『EQ』75号(1990年5月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
7 ミステリーも喰った闘士・岩藤雪夫(いわとう ゆきお) 『EQ』104号(1995年3月号)
8 実直なグロテスキスト・潮寒二(うしお かんじ) 『EQ』71号(1989年9月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
9 ルソン島に散った本格派・大阪圭吉(おおさか けいきち) 『幻影城』5号(1975年6月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
10 草原(バルガ)に消えた郷警部・大庭武年(おおば たけとし) 『EQ』77号(1990年9月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
11 「蠢く触手」の影武者・岡戸武平(おかど ぶへい) 『幻影城』15号(1976年3月号) 『幻の探偵作家を求めて』
12 『黒死館』創作の秘密を子育てに見た ― 小栗虫太郎(おぐり むしたろう)の巻 『鮎川哲也と十三の謎'90』(1990年12月)
13 結婚のため創作の道を捨てた日本最初の女流ミステリー作家
小流智尼(おるちに)・一条栄子(いちじょう えいこ)の巻
『創元推理19号』(1999年11月)
14 ペンネームより奇なり・角免栄児(かくめん えいじ) 『EQ』92号(1993年3月号)
15 <不肖>の原子物理学者(ニュークリアーフィジシスト)・北洋(きた ひろし) 『幻影城』24号(1976年11月号) 『幻の探偵作家を求めて』
16 浜っ子モダンボーイ・北林透馬(きたばやし とうま) 『EQ』94号(1993年7月号)
17 関西通俗派の雄・鬼怒川浩(きぬがわ ひろし) 『EQ』87号(1992年5月号)
18 名編集長交遊録・九鬼紫郎(くき しろう) 『EQ』78号(1990年11月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
19 錯覚のぺインター・葛山二郎(くずやま じろう) 『幻影城』20号(1976年7月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
20 鎌倉案内人の情熱・久能啓二(くのう けいじ) 『EQ』89号(1992年9月号)
21 『侍ニッポン』唯一のミステリー・群司次郎正(ぐんじ じろまさ) 『EQ』88号(1992年7月号)
22 養子なのに家庭内でもワンマンの遊び人 ― 甲賀三郎(こうが さぶろう)の巻 『鮎川哲也と十三の謎'91』(1991年12月)
23 文士村長のジレンマ・桜田十九郎(さくらだ とくろう) 『EQ』97号(1994年1月号)
24 書下ろし全集を実現した・佐左木俊郎(ささき としろう) 『EQ』90号(1992年11月号)
25 含羞の野人・紗原砂一(さはら さいち) 『幻影城』22号(1976年9月号)
26 国鉄電化の鬼・芝山倉平(しばやま そうへい) 『幻影城』11号(1975年11月号) 『幻の探偵作家を求めて』
27 ファンタジーの細工師・地味井平造(じみい へいぞう) 『幻影城』4号(1975年5月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
28 医学博士のダンディズム・白井竜三(しらい りゅうぞう) 【注2】 『EQ』79号(1991年1月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
29 冷徹な詩人のまなざし・杉山平一(すぎやま へいいち) 『EQ』106号(1995年7月号)
30 海恋いの錬金道士・瀬下耽(せじも たん) 『幻影城』8号(1975年8月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
31 気骨あるロマンチスト・妹尾アキ夫(せのお あきお) 『幻影城』17号(1976年5月号) 『幻の探偵作家を求めて』
32 殿様もすなるミステリー・膳哲之助(ぜん てつのすけ) 『EQ』91号(1993年1月号)
33 初の乱歩特集を編んだ・大慈宗一郎(だいじ そういちろう) 『EQ』74号(1990年3月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
34 『宝石』三編同時掲載の快挙・竹村直伸(たけむら なおのぶ) 『EQ』76号(1990年7月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
35 『勲章』を遺して逝った・坪田宏(つぼた ひろし) 『EQ』86号(1992年3月号)
36 ただ一度のペンネーム・独多甚九(どくた じんく) 『EQ』73号(1990年1月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
37 凩(こがらし)を抱く怪奇派・西尾正(にしお ただし) 『幻影城』10号(1975年10月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
38 西田政治(にしだ まさじ)の巻 『創元推理1 1992年秋号』(1992年10月)
39 今様赤ひげ先生・羽志主水(はし もんど) 『EQ』70号(1989年7月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
40 一人三役の短距離ランナー・橋本五郎(はしもと ごろう) 『幻影城』45号(1978年8月号) 『幻の探偵作家を求めて』
41 アヴァンチュウルの設計技師・埴輪史郎(はにわ しろう) 『幻影城』26号(1977年1月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
42 乱歩の陰に咲いた異端の人・平井蒼太(ひらい そうた) 【注3】 『問題小説』1983年5月号 『幻の探偵作家を求めて』
43 駆け抜けた天才論客・平林初之輔(ひらばやし はつのすけ) 『EQ』93号(1993年5月号)
44 『宝石』新人賞大貫進(おおぬき しん)の正体・藤井礼子(ふじい れいこ) 【注4】 『EQ』80号(1991年3月号) 『こんな探偵小説が読みたい』
45 せんとらる地球市の名誉市民・星田三平(ほしだ さんぺい) 『幻の探偵作家を求めて』書き下ろし 『幻の探偵作家を求めて』
46 雙面のアドニス・本田緒生(ほんだ おせい) 『幻影城』9号(1975年9月号) 『幻の探偵作家を求めて』
47 『新青年』顔を描いて30年・松野一夫(まつの かずお) 【イラストレーター】 『EQ』105号(1995年5月号)
48 清貧を貫いた九州男児・光石介太郎(みついし かいたろう) 『EQ』98号(1994年3月号)
49 『黒死館』を抱いて戦地へ・水上幻一郎(みなかみ げんいちろう) 『EQ』99号(1994年5月号)
50 深層心理の猟人・水上呂理(みなかみ ろり) 『幻影城』6号(1975年7月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
51 夢の追跡者・南沢十七(みなみざわ じゅうしち) 『幻影城』29号(1977年4月号) 『幻の探偵作家を求めて』
52 本格は詰め将棋に通ず・山沢晴雄(やまざわ はるお) 『EQ』102号(1994年11月号)
53 映像で鍛えた筆さばき・夢座海二(ゆめざ かいじ) 『EQ』101号(1994年9月号)
54 消えた応募原稿は何処に・横内正男(よこうち まさお) 『EQ』95号(1993年9月号)
55 暗闇に灯ともす人・吉野賛十(よしの さんじゅう) 『幻影城』21号(1976年8月号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
56 ミステリーの培養者・米田三星(よねだ さんせい) 【注5】 『幻影城』44号(1978年6・7月合併号) 『幻の探偵作家を求めて』+あ
57 歯科医がとらえた輪堂寺耀(りんどうじ よう)の正体 『EQ』117号(1997年5月号)
58 べらんめえの覆面騎士・六郷一(ろくごう はじめ) 『幻影城』16号(1976年4月号) 『幻の探偵作家を求めて』
59 夭折した浪漫趣味者・渡辺温(わたなべ おん) 『EQ』72号(1989年11月号) 『こんな探偵小説が読みたい』

  • 注1:単行本版では「乱歩の陰に咲いた異端の人・平井蒼太」、初出では「乱歩の才を継ぐ異端の人・平井蒼太」
  • 注2:単行本版では「医学博士のダンディズム・白井竜三」、初出では「薬学博士のダンディズム・白井竜三」(「医学」と「薬学」)
  • 注3:単行本版では「豪雪と闘う南国育ち・蟻浪五郎」、初出では「雪国のロマンチスト・蟻浪五郎」
  • 注4:単行本版では「『宝石』新人賞大貫進の正体・藤井礼子」、初出では「『宝石』新人大貫進の正体・藤井礼子」(「賞」の有無)
  • 注5:単行本版では「ミステリーの培養者・米田三星」、初出では「ミステリの培養者・米田三星」(「ー」の有無)

(1)『幻の探偵作家を求めて』(1975年~1978年、1983年、1985年)

 『幻影城』に「幻の作家を求めて」として全18回掲載。『幻影城』休刊のため中断。
 『問題小説』には年に2回掲載の予定だったが、鮎川哲也の病気のため、2度掲載されたのみで中断(『幻の探偵作家を求めて』「はじめに」参照)。
 1985年10月、『幻影城』と『問題小説』に掲載されたものに書き下ろし2編を加え、晶文社より『幻の探偵作家を求めて』として刊行。ただし、紗原砂一編のみ、収録の許可がとれず、単行本未収録となっている。

 作家本人にインタビューしているものには「本人」と示した。それ以外は遺族や関係者へのインタビュー。

『幻影城』
タイトル 掲載号 再録作品 左記作品の初出 『あやつり裁判』収録作
1 ファンタジーの細工師・地味井平造(じみい へいぞう) 本人 4号(1975年5月号) 「魔」 『新青年』1927年4月号 「煙突奇談」
2 ルソン島に散った本格派・大阪圭吉(おおさか けいきち) 5号(1975年6月号) 「闖入者」 『ぷろふいる』1936年1月号 「あやつり裁判」
3 深層心理の猟人・水上呂理(みなかみ ろり) 本人 6号(1975年7月号) 「麻痺性痴呆患者の犯罪工作」 『新青年』1934年1月号 ※左に同じ
4 海恋いの錬金道士・瀬下耽(せじも たん) 本人 8号(1975年8月号) 「綱(ロープ)」 『新青年』1927年8月号 「古風な洋服」
5 雙面のアドニス・本田緒生(ほんだ おせい) 本人 9号(1975年9月号) 「美の誘惑」 『新趣味』1922年12月号
6 凩(こがらし)を抱く怪奇派・西尾正(にしお ただし) 10号(1975年10月号) 「土蔵」 『ぷろふいる』1935年1月号 「月下の亡霊」
7 国鉄電化の鬼・芝山倉平(しばやま そうへい) 本人 11号(1975年11月号) ※再録なし
8 「蠢く触手」の影武者・岡戸武平(おかど ぶへい) 本人 15号(1976年3月号) 「素晴らしき臍の話」 『新青年』1930年1月号
9 べらんめえの覆面騎士・六郷一(ろくごう はじめ) 本人 16号(1976年4月号) 「白鳥の歌」 『大衆文芸』1958年10月号
10 気骨あるロマンチスト・妹尾アキ夫(せのお あきお) 17号(1976年5月号) 「本牧のヴィナス」 『新青年』1929年2月号
11 錯覚のぺインター・葛山二郎(くずやま じろう) 本人 20号(1976年7月号) 「噂と真相」 『新趣味』1923年9月号 「霧の夜道」
12 暗闇に灯ともす人・吉野賛十(よしの さんじゅう) 21号(1976年8月号) 「走狗」 (遺稿) 「鼻」
13 含羞の野人・紗原砂一(さはら さいち)※単行本未収録 本人 22号(1976年9月号) 「神になりそこねた男」 『ミステリイ』1948年3月号
14 <不肖>の原子物理学者(ニュークリアーフィジシスト)・北洋(きた ひろし) 24号(1976年11月号) 「写真解読者」 『ロック』1946年10月号
15 アヴァンチュウルの設計技師・埴輪史郎(はにわ しろう) 本人 26号(1977年1月号) 「極南魔海」 『宝石』1953年6月号 「海底の墓場」
16 夢の追跡者・南沢十七(みなみざわ じゅうしち) 本人 29号(1977年4月号) 「夢の殺人」 『新青年』1932年8月号
17 ミステリの培養者・米田三星(よねだ さんせい)【注6】 本人 44号(1978年6・7月合併号) 「告げ口心臓」 『新青年』1931年9月号 「蜘蛛」
18 一人三役の短距離ランナー・橋本五郎(はしもと ごろう) 45号(1978年8月号) 「鮫人の掟」 『新青年』1932年6月号
『問題小説』
タイトル 掲載号 再録作品 『あやつり裁判』収録作
1 乱歩の才を継ぐ異端の人・平井蒼太(ひらい そうた)【注7】 『問題小説』1983年5月号 「嫋指」
2 雪国のロマンチスト・蟻浪五郎(ありなみ ごろう)(※青池研吉)【注8】 本人 『問題小説』1983年11月号 「花粉霧」 「花粉霧」
『幻の探偵作家を求めて』(晶文社、1985年10月)書き下ろし
1 ロマンの種を蒔く博多っ子・赤沼三郎(あかぬま さぶろう) 本人 『あやつり裁判』に「翡翠湖の悲劇」収録
2 せんとらる地球市の名誉市民・星田三平(ほしだ さんぺい)

  • 注6:単行本版のタイトルは「ミステリーの培養者・米田三星」(「ー」の有無)。米田三星編の初出は、『幻の探偵作家を求めて』巻末では1977年6・7月合併号とされているが、実際は1978年6・7月合併号。
  • 注7:単行本版のタイトルは「乱歩の陰に咲いた異端の人・平井蒼太」。なおこの号の記事の末尾には「次回は十一月号、星田三平氏の予定です。」とある。
  • 注8:単行本版のタイトルは「豪雪と闘う南国育ち・蟻浪五郎」。

 芝山倉平の尋訪には『幻影城』編集長の島崎博のみが参加し、鮎川哲也は参加していない。
 米田三星編の末尾には、米田三星による森下雨村尋訪記「森下雨村さんと私」が収録されている。

(2)続・幻の探偵作家を求めて(『こんな探偵小説が読みたい』)(1989年~1991年)

 全12回。すべて『こんな探偵小説が読みたい』(晶文社、1992年9月)に収録。『EQ』連載時には、「実作発掘」として各作家の比較的珍しい短編が収録されている(藤井礼子の回のみ、誌面の都合で「実作発掘」なし)。『こんな探偵小説が読みたい』では、各作家の代表作が収録されている。

 作家本人にインタビューしているものには「本人」と示した。それ以外は遺族や関係者へのインタビュー。

『EQ』70号(1989年7月号)~81号(1991年5月号)
タイトル 掲載号 『EQ』実作発掘 『こんな探偵小説が読みたい』収録作と初出
1 今様赤ひげ先生・羽志主水(はし もんど) 70号(1989年7月号) 「監獄部屋」 ※左に同じ 『新青年』1926年3月号
2 実直なグロテスキスト・潮寒二(うしお かんじ) 71号(1989年9月号) 「人狐(にんこ)」 「蚯蚓(みみず)の恐怖」 『探偵実話』1955年11月号
3 夭折した浪漫趣味者・渡辺温(わたなべ おん) 72号(1989年11月号) 「風船美人」 「可哀相な姉」 『新青年』1927年10月号
4 ただ一度のペンネーム・独多甚九(どくた じんく) 73号(1990年1月号) 「網膜物語」 ※左に同じ 『宝石』1947年2・3月号
5 初の乱歩特集を編んだ・大慈宗一郎(だいじ そういちろう) 本人 74号(1990年3月号) 「雪空」 ※左に同じ 『探偵文学』1936年新年号
6 『Zの悲劇』も訳した技巧派・岩田賛(いわた さん) 75号(1990年5月号) 「船室の死体」 「里見夫人の衣裳鞄(トランク)」 『探偵クラブ』1952年6月増刊号 【注9】
7 『宝石』三編同時掲載の快挙・竹村直伸(たけむら なおのぶ) 本人 76号(1990年7月号) 「火葬場の客」 「風の便り」 『別冊宝石』1958年2月号
8 草原(バルガ)に消えた郷警部・大庭武年(おおば たけとし) 77号(1990年9月号) 「牧師服の男」 ※左に同じ 『犯罪実話』1932年5月号
9 名編集長交遊録・九鬼紫郎(くき しろう) 本人 78号(1990年11月号) 「誰がために首を吊る」 「豹助、都へ行く」 『ぷろふいる』1947年4月号
10 薬学博士のダンディズム・白井竜三(しらい りゅうぞう)【注10】 本人 79号(1991年1月号) 「真砂町(ちょう)の吉田さん」 「渦の記憶」 『別冊クイーンズマガジン』1960年7月夏季号
11 『宝石』新人大貫進(おおぬき しん)の正体・藤井礼子(ふじい れいこ)【注11】 80号(1991年3月号) 「初釜」 『宝石』1960年2月臨時増刊号
12 『めどうさ』に託した情熱・阿知波五郎(あちわ ごろう) 81号(1991年5月号) 「幻想肢」 「墓」 『別冊宝石』1951年12月号

  • 注9:原題「青いトランク」(『オール大衆』1949年2月号)
  • 注10:単行本版では「医学博士のダンディズム・白井竜三」(「薬学」と「医学」)
  • 注11:単行本版では「『宝石』新人賞大貫進の正体・藤井礼子」(「賞」の有無)

 単行本版の巻末に、鮎川哲也「あとがきにかえて――松村喜雄さんを偲ぶ」が収録されている。

(3)幻の探偵作家を求めて・番外編(1990年~1992年)

 単行本未収録。全3回。
 『創元推理』および、その前身のアンソロジー『鮎川哲也と十三の謎』に掲載。目次や本文で、「幻の探偵作家を求めて」「幻の探偵作家を訪ねて」という2つの表記が混在している。

1 『黒死館』創作の秘密を子育てに見た ― 小栗虫太郎(おぐり むしたろう)の巻 『鮎川哲也と十三の謎'90』(1990年12月)
2 養子なのに家庭内でもワンマンの遊び人 ― 甲賀三郎(こうが さぶろう)の巻 『鮎川哲也と十三の謎'91』(1991年12月)
3 西田政治(にしだ まさじ)の巻 『創元推理1 1992年秋号』(1992年10月)

(4)新・幻の探偵作家を求めて(1992年~1995年)

 単行本未収録。全20回。「実作発掘」の初出は、誌面で明示されているもののみ示す。

 作家本人にインタビューしているものには「本人」と示した。それ以外は遺族や関係者へのインタビュー。

『EQ』86号(1992年3月号)~106号(1995年7月号)【100号(1994年7月号)は休載】
タイトル 掲載号 実作発掘
1 『勲章』を遺して逝った・坪田宏(つぼた ひろし) 86号(1992年3月号) pp.86-91 「宝石の中の殺人」 pp.92-99
2 関西通俗派の雄・鬼怒川浩(きぬがわ ひろし) 87号(1992年5月号) pp.116-121 「潮の呪い」(『トップ』1948年7月号) pp.122-127
3 『侍ニッポン』唯一のミステリー・群司次郎正(ぐんじ じろまさ) 88号(1992年7月号) pp.122-127 「穴」 pp.128-134
4 鎌倉案内人の情熱・久能啓二(くのう けいじ) 本人 89号(1992年9月号) pp.122-125 「崩れる女」 pp.126-137
5 書下ろし全集を実現した・佐左木俊郎(ささき としろう) 90号(1992年11月号) pp.138-141 「嵐の陰影」 pp.142-148
6 殿様もすなるミステリー・膳哲之助(ぜん てつのすけ) 91号(1993年1月号) pp.196-199 「冬の春画」 pp.200-210
7 ペンネームより奇なり・角免栄児(かくめん えいじ) 本人 92号(1993年3月号) pp.146-149
8 駆け抜けた天才論客・平林初之輔(ひらばやし はつのすけ) 93号(1993年5月号) pp.114-119 「誰が何故彼を殺したか」 pp.120-128
9 浜っ子モダンボーイ・北林透馬(きたばやし とうま) 94号(1993年7月号) pp.128-131
10 消えた応募原稿は何処に・横内正男(よこうち まさお) 95号(1993年9月号) pp.84-87 「変った下宿人」(未発表作品) pp.88-94
11 新宿青線街の発明王・朝山蜻一(あさやま せいいち) 96号(1993年11月号) pp.176-179 「白日の夢」 pp.180-188
12 文士村長のジレンマ・桜田十九郎(さくらだ とくろう) 97号(1994年1月号) pp.86-89
13 清貧を貫いた九州男児・光石介太郎(みついし かいたろう) 98号(1994年3月号) pp.101-103 「霧の夜」(『新青年』1935年新年号) pp.104-109
14 『黒死館』を抱いて戦地へ・水上幻一郎(みなかみ げんいちろう) 本人 99号(1994年5月号) pp.198-201 「火山観測所殺人事件」(『ロック』1948年9月号) pp.202-216
15 映像で鍛えた筆さばき・夢座海二(ゆめざ かいじ) 【注12】 101号(1994年9月号) pp.190-193 「「はと」列車の忘れ物」(『宝石』1955年3月号) pp.194-205
16 本格は詰め将棋に通ず・山沢晴雄(やまざわ はるお) 本人 102号(1994年11月号) pp.178-181
17 関西派きっての理論家・天城一(あまぎ はじめ) 本人 103号(1995年1月号) pp.126-129
18 ミステリーも喰った闘士・岩藤雪夫(いわとう ゆきお) 104号(1995年3月号) pp.128-131 「赤い灯」(『創作月刊』1929年1月号) pp.132-137
19 『新青年』顔を描いて30年・松野一夫(まつの かずお)【イラストレーター】 105号(1995年5月号) pp.138-141 幻の探偵ギャラリー『汽車』
諸家のカリカチュア(『新青年』1926年4月号)
pp.20-21
pp.142-145
20 冷徹な詩人のまなざし・杉山平一(すぎやま へいいち) 本人 106号(1995年7月号) pp.210-213 【注13】

  • 注12:夢座海二は存命だったが、インタビュー実施時に入院中だったため、本人にはインタビュー出来なかった。
  • 注13:杉山平一の阪神・淡路大震災体験記「見えてきたもの、見えなくなったもの」を掲載。

 最終回の杉山平一の回の最後に、編集部のコメントがあり、以下のように書かれている。
一九七五年に『幻影城』誌上でスタートした「尋訪記」は、正編・続編・番外編・新編と書き継がれ、五十六人もの”幻”の探偵作家の消息をたずねてきたことになります。
 実際はイラストレーターも含めて57人分の記事がある。単行本未収録の紗原砂一を数え落としたか、イラストレーターの松野一夫を除いて「探偵作家」のみで56人としたかのどちらかだと思われる。

(5)その他の2編(1997年、1999年)

  • 幻の探偵作家を求めて・番外編(『EQ』117号(1997年5月号))
    • 歯科医がとらえた輪堂寺耀(りんどうじ よう)の正体
 導入部分のみ鮎川哲也が執筆。実際に尋訪を行い尋訪記を書いているのは、歯科医師で古書収集家の若狭邦男氏。本人へのインタビュー。

  • 新・幻の探偵作家を求めて(『創元推理19号 夢のような探偵小説について』(1999年11月))
    • 結婚のため創作の道を捨てた日本最初の女流ミステリー作家 ― 小流智尼(おるちに)・一条栄子(いちじょう えいこ)の巻
 「そばかす三次」、「平野川殺人事件」、「フラー氏の昇天」が再録されている。

実現しなかった尋訪

 『幻の探偵作家を求めて』(晶文社、1985年10月)の巻末には、「著者からのおねがい」として、以下の8名の消息を求める旨が記されている。

  • 酒井嘉七、独多甚九、黒輪土風、多々羅三郎、弘田喬太郎、本間田麻誉、中村美代子、信濃夢作
 (「多々羅三郎」は多々羅四郎? 「中村美代子」は中村美与子?)

 このうち、独多甚九だけは、『幻の探偵作家を求めて』を見た人から連絡があり、「続・幻の探偵作家を求めて」第4回(『EQ』1990年1月号)で遺族の尋訪が実現した。また、酒井嘉七は論創ミステリ叢書で『酒井嘉七探偵小説選』(2008年4月)が刊行された際に経歴が明らかになっている。論創ミステリ叢書からは中村美与子の作品集『中村美与子探偵小説選』(2006年10月)も出ているが、こちらは経歴は明らかになっていない。信濃夢作は、『幻の探偵雑誌10 「新青年」傑作選』(光文社文庫、2002年2月)巻末の「「新青年」作者別作品リスト」(山前譲編)によれば、三橋一夫と同一人物である。

 また、『EQ』69号(1989年5月号)に鮎川哲也「《続・幻の探偵作家を求めて》舌代」(pp.140-141)があり、「続・幻の探偵作家を求めて」の連載を始める経緯などが語られている。ここでは、尋訪を望んでいるが連絡先が分からない作家として、以下の6人の名が挙げられている。

  • 弘田喬太郎、酒井嘉七、本間田麻誉、中村美与子、登史草兵、辻村義介

 辻村義介はいわゆる「もう一人の江戸川乱歩」である。乱歩が「二銭銅貨」でデビューしたのは1923年だが、その前年、雑誌『エポック』1922年11月号(通巻第二号)の巻頭に「江戸川乱歩」という筆名の人物の「アインシュタインの頌」という詩が掲載されている。この詩の作者が辻村義介という人物だとかつて推定されていた。なおノンフィクションライターの佐藤清彦氏の調査では、辻村義介は当時仲間内から「江戸川乱歩」というあだ名で呼ばれていたが、「アインシュタインの頌」の作者は辻村義介ではなく雑誌『エポック』の編集者であった野川孟およびその弟の野川隆だと推定されるという。

  • 「もう一人の江戸川乱歩」の関連記事
    • 森銑三「今一人の江戸川乱歩」(『ももんが』1963年6月号/『森銑三著作集』第12巻[中央公論社、1974年]に収録) ※未見
    • 大岡昇平「江戸川乱歩の詩」および都筑道夫「補記」(『日本推理作家協会会報』第357号、1978年7・8月号)
    • 千代有三「二人一役の江戸川乱歩」(『日本推理作家協会会報』第358号、1978年9月号)
    • 佐藤清彦「江戸川乱歩は二人いる」(『ジャーロ』第26号、2007年1月) ※未見
    • もうひとりの江戸川乱歩 第一五八回土曜サロン・三月十七日」(『日本推理作家協会会報』2007年5月号) - 佐藤清彦氏を迎えた土曜サロン ←この記事は以前は日本推理作家協会の公式サイトで読めたが、2014年3月のサイトリニューアル後は読めなくなっている。

鮎川哲也による関連記事

  • 『幻影城』
    • 「幻の作家を求めて・補記 思い出すままに」(『幻影城』13号、1976年1月号、pp.192-193)
    • 「探偵作家尋訪記追補」(『幻影城』23号、1976年10月号、p.71)
  • 『EQ』
    • 「《続・幻の探偵作家を求めて》舌代」(『EQ』69号、1989年5月号、pp.140-141)

  • 『幻想文学』(幻想文学出版局)
    • 鮎川哲也インタビュー 『幻の探偵作家を求めて』の作者を求めて (『幻想文学』30号、1990年9月) ※未見

「幻の探偵作家を求めて」にならった試み

  • 若狭邦男『探偵作家追跡』(日本古書通信社、2007年8月)
    • 『EQ』117号(1997年5月号)の「幻の探偵作家を求めて・番外編 歯科医がとらえた輪堂寺耀(りんどうじ よう)の正体」に登場した歯科医・古書収集家の若狭邦男氏による探偵作家探訪記。
  • 本多正一「幻の幻影城作家を求めて 蒼月宮の門前に佇んで」
    • 幻影城作家・堊城白人(あしろ はくと)への手紙・電話によるインタビュー。『幻影城の時代 完全版』(講談社、2008年12月)に収録。

最終更新:2011年06月30日 22:55