ソ連/ロシア推理小説翻訳史 後編

2011年5月9日-12日

※未完成

Index

第3章 1960年代~1970年代

「翻訳ミステリ」の時代

  • ア・コロビツィン『逃亡 : 犯罪なき犯罪』(法律文化社、1970年)
Тайна музея восковых фигур
アレクセイ・コロビツィン (Алексей Павлович Коробицин, 1910-1966, ロシア語版Wikipedia(1言語))
ほかに少なくとも、ドイツ語版『Das Geheimnis des Wachsfigurenkabinetts』がでている。

 イェジィ・エディゲイ『顔に傷のある男』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、1977年)の解説で訳者の深見弾氏が、邦訳された主な共産圏のミステリとしてセミョーノフ『ペトロフカ、38』とともに挙げている。

第4章 1980年代

エドワード・トーポリ & フリードリヒ・ニェズナンスキイ『赤の広場』(中央公論社、1983年)
  • 週刊文春 海外 第3位

  • 『本の雑誌』63号(1988年9月)に松村喜雄「ソ連の推理小説事情」
(日本推理作家協会の訪ソ団については、2010年4月の日本推理作家協会会報に篠田節子さんが書いたこちらの記事でも少し触れられている)

ソ連崩壊後に刊行されたミステリ全集・選集

 ソ連崩壊後の1993年、ロシアで「Серия "Мастера советского детектива"」(シリーズ「ソ連ミステリ・マスターズ」とでも訳せばいいんだろうか?)という全19巻の推理小説叢書が刊行されている。ロシアのネット書店で全19巻の内容と、作者のプロフィールが分かるようになっている(→リンク)。収録されている9人(8人+1組)を列挙する。
  • アルカージイ・アダモフ(3冊)
  • ワイネル兄弟(ヴァイネル兄弟)(7冊)
  • ユーリイ・クラロフ(Юрий Кларов)(1冊)
  • ニコライ・レオーノフ(3冊)
  • ヴィクトル・プローニン(Виктор Пронин)(1冊)
  • ニコライ・プスルツェフ(Николай Псурцев, 1954- )(1冊)
  • アナトーリイ・ロモフ(Анатолий Ромов)(1冊)
  • ユリアン・セミョーノフ(1冊)
  • レオニード・スローヴィン(Леонид Словин)(1冊)

 邦訳のあるワイネル兄弟『ミノトール訪問』(Визит к минотавру)、ユリアン・セミョーノフ『ペトロフカ、38』も収録されている。

第5章 1990年代以降

1992年以降
アレクサンドラ・マリーニナ『盗まれた夢』(作品社、1999年)
  • 沼野充義「マリーニナと現代ロシアの推理小説」
    • 「しかし一九八五年にゴルバチョフ政権下で「ペレストロイカ」が始まり、現代ロシア文学の世界も激しく変化していった。推理小説というジャンルもその例外ではない。もともとソ連時代に書籍はすべて「計画」に基づいて出版され、部数も事前に決められており(その決定も、読者の需要に応じてではなく、イデオロギー的理由によって行なわれた)、売れ行きがいいから増刷、ということにはならなかった。だから当然、ベストセラーという概念もありえない。しかし、ペレストロイカ以後、市場経済の原理が導入され、本の市場にも読者の需要が反映するようになると、一九九〇年代初頭くらいからロシアでもベストセラー・リストが書評誌を賑わすようになった。」

 ソ連/ロシアの推理小説を読んだことがない人でも、1991年末のソ連崩壊後、ロシアからアレクサンドラ・マリーニナやボリス・アクーニンなどの世界的にその名を響かせるベストセラー推理作家が誕生していることは、あるいは聞いたことがあるかもしれない。そして、ソ連崩壊後にロシアに続々と人気推理作家が誕生していることも、「ソ連時代には推理小説はなかった」という風説の流布に一役買っているのだろう。確かに、ソ連時代には「ベストセラーを連発する推理作家」はいなかったが、それは上で引用しか箇所から分かるように、「推理作家」がいなかったのではなく、「ベストセラー」という概念がなかったのである。つまり、ある推理作家がどんなに良い作品を書いたとしても、それがベストセラーになることは決してなく、またそれが海外に名を轟かすこともなかったのである。沼野氏の解説では、ソ連崩壊後の人気推理作家としてマリーニナのほかに、ヴィクトル・ドツェンコ、コレツキー、レオーノフの名が挙げられているが、このうちレオーノフは、先に紹介した飯田規和(1972)「ソ連の推理小説」で当時の新人作家として紹介されている。決してソ連時代に推理作家がいなかったわけではない。レオーノフのように、長年地道に(というのは勝手な想像だが)推理小説を書いてきて、ソ連崩壊後についにベストセラー作家となった人物もいるのである。(なお、飯田氏が紹介している「レオーノフ」と沼野氏が紹介している「レオーノフ」が同一人物なのかやや不安があったが、毛利公美(1998)「現代ロシア探偵小説事情」を見る限り、まず間違いなく同一人物だと言っていいだろう)

2000年代
ボリス・アクーニン『堕ちた天使 ――アザゼル』(作品社、2001年)
(未邦訳)クニオ・カミナシ〈北海道警察〉シリーズ
既刊4巻
http://www.ozon.ru/context/detail/id/1652758/
http://www.ozon.ru/context/detail/id/1695980/
http://www.ozon.ru/context/detail/id/1711465/
http://www.ozon.ru/context/detail/id/2223660/

エドワルド・ブラーソフ
最終更新:2011年05月12日 17:06