ミサトさん、あなたはやっぱり僕たちの特別な人です

 休暇が明けて、僕は机の上に山と積まれた書類にうんざりしながらも、
ミサトさんの様子を窺っていた。
ミサトさんはいつもと変わらず、あっちこっち飛び回っていて忙しそうだ。
あの体型が暴飲暴食にも関わらず、少しも崩れていないのは、
きっとここで相当量のカロリーを消費しているからだ。

ミサトさんの帰宅はいつも22時過ぎで、その間、ミサトさんのデスクの
前にはノートパソコンが開きっぱなしだ。
本来ならばパソコンを開いたまま席を離れるのは違反なんだけど、
生来大らかな(悪く言えばいいかげんな)ミサトさんが、
「んなちまちました事やってらんないわよぉ」
と言うのは彼女を知っている誰もが予想できたことで、
副指令(父さんが結局戻ってこなかった今は、実質ネルフのトップだ)
も黙認している。
まあ今までそれで情報が漏れたことはないし、
セキュリティも万全、な筈。
そして、僕は今からそのノートパソコンと向き合うことになる。

ミサトさんのデスクに座って何か仕事のふりをするのは簡単だ。
デスクワークに限っては、なんでも人任せにしたがるミサトさんの尻ぬぐいを
ここで日向さんや青葉さんや僕はしょっちゅうやっているわけで、
その点でこの行動を疑う人間は誰もいない。

さて、問題のノートパソコンだ。
指紋認証。ヒカリがくれた指型をスーツのポケットから取り出す。
物凄く精巧に作られたそれは、本当に人の温かみと柔らかさを備え、
ミサトさんが普段付けているマニキュアまで塗られていて、
一瞬本物の人差し指が切り取られたかのような、そんなグロテスクささえある。
エンターキーを押し、「指紋認証」画面でゆっくりとその指をあてる。
息を呑む瞬間もないまま、画面がパッと変わり、
スクリーンセーバーが解除され、デスクトップが表示された。

しかしまあ、ミサトさんらしいというか、
もうちょっとデスクトップまとめましょうよ。
フォルダってものを知らないんですか、
ってくらいミサトさんのデスクトップ上にはファイルが散乱していて、
よくこれでまあ仕事ができるよなぁ、と感心する。
いや、散らかっているようで、実は彼女にとっては欲しいものが全て
寝床から手の届くところにあるという、
まるで自分の部屋の中の延長のようなものなのかもしれない。
いや、感心している場合じゃない。アスカの居場所を探さなくては。

唐突に、僕はミサトさんが僕のこの行動を予期しているどころか、
それを待ち受けていたことを知る。
乱雑に散らかったデスクトップ上に1つだけあるフォルダ。
そこには「for shin-chan」と書かれている。
迷わずクリックする。

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最終更新:2007年08月12日 01:15
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