The scientist4


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「あいつ、ヘマよねぇ。あんな事言わなくてもいいのにさ。」
ヒカリが言う。

本当はもうちょっと上手い「台本」があったらしい。
けれども、トウジはその持ち前の不器用さで、台本を「改変」、
帰ってきてから奥さんにこっぴどく怒られたらしい。
「次の日に旦那に会ったら、きっと右頬に手形が残っていたわよ。」
ヒカリが何とも言えない表情で僕に言う。
「いいよ、笑っても。」
ふふふふ、とヒカリが笑い、僕もつられて笑う。

驚いたことに、あの晩ホテルで僕が見た酔っぱらいは、
トウジだったらしい。
「勝手に様子見に行っちゃってさ、碇君が起き出してきて
慌てて酔っぱらいのフリしたんだって。
『迫真の演技やった』なんて笑ってたけど、あの時もしバレていたら、
あいつ今頃コンクリ詰めにされて諏訪湖の底よ。」
今度は屈託なく笑う。そんなヒカリを見て、ちょっとほっとする自分がいる。

あの店員も諜報部の下っ端だった。まあここまで聞けば想像はついたけど。
ネルフの諜報部は今度劇団でも作ったらいい。






ふっと会話が途切れ、瞬間風の音だけが耳に残る。
「1年間、独りでいて、どうだった?」
ヒカリはまた足下の一点を見つながら、ぽつりと呟いた。
「…こんなに辛くて苦しいとは思わなかった。」
僕は正直に話した。仕事に逃げたことも、酒量が増えたことも。
「こんなこと、誰も教えてくれなかったもんなぁ…」
「…そうね」
謝るなよ、と僕はヒカリを見つめ、ヒカリは僕の顔を見返し、頷いてくれた。


ヒカリが知っているのは、そこまでで、アスカの居所まではわからない、
というより教えて貰っていないという。
彼女の見立てでは、自分が僕に対して罪悪感と友情から、
こうなることを最初から見越されていて、秘密にされているのだろう、と。
そしてこの行動も、半ばミサトさんの計画のうちに含まれているだろう、と。
「だから多分、リツコさんも許してくれるわよ。」
彼女の処分(ネルフはこういうことに関しては未だに厳しい)を
心配する僕に彼女はそう言って微笑んだ。
「ま、諜報部をクビになって総務部あたりに異動になって終わりかなぁ」
ごめん、と言いそうになったけど、彼女はさっきの僕と同じような表情で、
僕を睨んだ。謝らないで、と。
だから僕は、帰りのクルマの中でも、一言も謝らなかった。

「アスカの居場所を知っているのは、おそらくミサトさんよ」
クルマに乗り込む前に、ヒカリはそう言った。
帰りの車内では、アスカの話題は避け、努めて明るい話をした。
つまり、鈴原夫妻の子供達(パパ含む)のやんちゃぶりを
ヒカリママが愚痴るような、そんな展開だった。
子供を諦めている僕にはちょっと羨ましくもあり、
そしてそんな話をしてくれることが嬉しくもあった。

「頑張ってね」
僕のマンションまで送り届けてくれたヒカリは帰り際、そう言って、
僕に握手を求めてきた。
「ありがとう」
がっちりと握手をし、ヒカリがクルマに乗り込んで姿が見えなくなるまで
見送ってから、僕はその掌の中にある物体に目をやった。
人差し指の型。おそらく、ミサトさんの指紋だろう。
僕もヒカリには頭が上がらなくなりそうだ、と思いながら、
まだ蒸し暑さの残る中を、部屋に戻った。
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