The scientist

 身支度を整え、玄関を出ると、そこには当然のようにヒカリが立っていた。
僕は別に驚かない。多分こうなるだろうと思っていたから。
「迎えに来たわ。」
氷のような冷たい表情と言葉。この前感じたのは、これだったんだ。
組織改編はあったものの、実質「諜報部員」の鈴原ヒカリ。
そこに以前僕の知っていた「委員長」の面影は全くない。
むしろリツコさんに似ている。
ぼんやりとそんなことを考えながら、彼女の横顔を眺める。
彼女は僕の視線に気づきながら、それを跳ね返し微動だにしない。
エレベータは全くスムースに僕たちを地上へ運ぶ。

「碇君はどこまで掴んでいるかわからないけど、」
「ここまで迎えに来たってことは、そんなこともないんじゃないの?」
「…まあ、ある程度はね。」
ヒカリの運転する国産のスポーツクーペは滑るように走る。
「でも、私も全部知らされているわけではないのよ。」
彼女はそれっきり黙ってしまう。
僕は頷いたまま、窓の外の流れていく景色を眺めた。
今日も、暑そうだ。



「私の行動はモニターされているわ…。」
ぽつり、と小石を落とすかのようにこぼれ落ちたその言葉の意味を
理解するのに数秒かかった。
「じゃあこれは…」
「そうね、私の独断。まあリツコさんやミサトさんは予想しているんでしょうけど。」
ちらっとこちらを見て微笑む。
「委員長」の笑顔がそこにはあった。
なるほど、クルマがジオフロントには向かわず、
むしろ第2新東京市へ向かっているわけが分かった。
「このクルマも…。」
「そうよ。」
ヒカリの行動が諜報部員として監視されているのは当然かもしれない。
僕だってサードチルドレンとしてエヴァに乗っている時は四六時中そうだった。
あの時の窮屈さ、圧迫感を思い出し、
胸がじんわりとしめつけられるような気持ちになる。
このクルマでの会話もネルフには筒抜けだ。
「ネルフに一度関わった者は終生ネルフの束縛から解放されることはない。」
砂利を噛むような苦々しい思いで、その言葉をとっくりと反芻する。
でも。

アスカ。
君の居場所ももうすぐわかる。
もう少しだから、待っていて。

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最終更新:2007年08月12日 01:06
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