携帯のバイブの音で目が覚めた。
アスカの夢。アスカの心。
直接、僕の中に流れ込んできた、アスカの今の気持ち。
あの想い出は、確かに僕の中でも大切なもの。
アスカの気持ちに気づき、僕の気持ちに気づいた、
その瞬間が同じ時、同じ場所だったなんて、
僕はしばらくその想いに耽り、バイブレータを全く無視していた。
ふと、その音源に焦点を合わせる。
「ミサト携帯」と表示されているのを見て、僕は反射的に携帯に飛びつく。
「おはよー、しんちゃん。休暇、楽しんでる?」
相変わらず脳天気な声だ。
でも、その声になんとなく癒される。
だから僕やアスカはこの人を姉と慕い、母と慕ったのかもしれない。
「え…、まあ、はい。で、どうしたんですか?」
寝ぼけた声は出したつもりはなかったのに、一発でばれた。
「あら、お姉さんモーニングコールしちゃった?ごめんね起こしちゃって」
ミサトさんは、申し訳ないんだけど、できればちょっと戻ってきて欲しい、
それだけ告げて、電話を切った。
理由は、教えてくれなかった。
そりゃそうだ、真剣に、若干深刻に、「戻ってきて」と言いながら、
理由がこんな事ならば、例え僕だって断っていただろう。
そして、しばらくミサトさんの携帯を着信拒否にしていただろう。
「ミサトさん…、いくらなんでも汚しすぎですよ…。」
その日3度目の掃除機のフィルター交換をしながら、僕は言った。
「ごみん…。ちょっち、散らかし過ぎちゃったかな…。」
その笑顔は何年経っても昔のままで、目尻の皺が多少増えた、
なんてことは口が裂けても言い出せない。
「はい、これで終了。燃えないゴミは明後日ですからね。
さすがにそこまで面倒はみられないから、自分で出して下さいよ。」
所要5時間半。燃やせるゴミ4袋、プラスチックゴミ7袋、ペットボトルと空き缶は…
数が多すぎてよく分からない。頑張ったぞ、僕www
「サンキューしんちゃん。ありがとう。恩に着るわ。」
と言ったところでミサトさんのお腹が鳴る。
「…。」
顔を見合わせた後、思わず吹き出した。
「そう言えばもう夕方ですよね。ついでに晩ご飯作りますよ。」
そう言うとミサトさんの目が明らかに輝いた。待ってたな、この台詞を。
「さっすがぁ~。しんちゃん、サービス満点ね!お礼に今度お昼ご馳走するわ♪」
お昼ご飯って言ってもネルフの不味い社食でしょ。
「とりあえず…パスタでいいですか?」
収納庫や冷蔵庫の中を一通り眺めてから、僕は言った。
最終更新:2007年08月02日 08:41