子供たちの歌は終わらない16


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 その携帯の番号は、勿論以前のアスカの番号とは違っていて
メールアドレスも、アスカの面影は微塵も感じられない、
無機質な数字とアルファベットの羅列だった。
アスカならきっとそれらしいメアドにするだろうに。
こんなところにも彼女の傷を感じて、僕は携帯の画面を開いたまま、
しばらく身動きが取れなくなる。

深呼吸をして、一気にダイヤルする。
繋がるか、繋がってくれ…。
4コール、5コール、6コール…
7コール目で呼び出し音が途絶えた。
無言。
「ア、アスカ?僕、だけど…」
無言。
「連絡遅くなってごめん。なんて言っていいか分からないけど、」
「…」
「え?」
ブツン。
途切れた、電話。成り立たなかった、会話。
向こうにいたのはアスカだよな?
それすらも疑ってかかる僕の心。

ためらっている暇はない。躊躇なく再ダイヤル。
今度はすぐに出た。
「アスカ?」
ツー。ツー。切れている。
何度か試してみても、電話はすぐに切られた。
彼女に拒否されていることに気づいたのは、
だいぶ時間が経ってからだった。

その晩、また夢を見た。
シャワーを浴びている中学生のアスカ。
何か口ずさんでいる。
ドイツ語は結局結婚してからもさっぱり上達せず、
だから今の僕でも彼女が何を歌っているのかわからない。
けれどその旋律は有名なもので、
僕でも知っているものだった。

カラリ。乾いた音がして浴室のドアが開く。
そこには、中学生の僕がいる。
瞬間、僕を見、カラダを隠し、悲鳴をあげ、
何かを叫ぶアスカ。
あれ?聞こえない。
けれど、彼女の歌は続いている。
直接、僕の脳裏に響いている。

その夜の僕がしたことは、簡単で、決定的なものだった。
使徒との戦いも終わり、
僕たちは既にお互いの気持ちを分かっていたけれど、
アスカにしてみれば心の準備も何もなく、突然に訪れた瞬間。
黙って痛みに耐えながら、僕の背中に爪を立てながら、
僕を受け入れたアスカ。
僕はあの時、何を考えていたのだろう。
今となっては、よく思い出せない。
青春の甘酸っぱい思い出というには、やや残酷な形で、
彼女は血を流した。

そして朝、不快な感触で目覚めた僕は、
何年かぶりにバスルームで下着を洗う羽目になった。
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