子供たちの歌は終わらない15

そこにいた彼の奥さんは、
以前僕が知っていた「委員長」ではなかった。
なんだろう、この感じ。
そうだ、リツコさんだ。あの冷静とも冷酷とも取れる、冷ややかな視線、声。
僕の脳裏で何か警告音のようなものが鳴る。
「何か、おかしいぞ…」

瞬間、僕は何を見たのだろう?
アスカが、泣いている。
ベッドの中で枕を濡らしている。
アスカが僕を呼んでいる。
行かなくちゃ!

「どうしたの?シンジ君?大丈夫?」
ふと我に返ると目の前には「委員長」がいた。
いつの間にか、2人の兄妹が僕の膝の上に乗っている。
兄はエヴァ参号機、妹は弐号機の小さなフィギュアを握りしめている。
お気に入りのようだ。
僕の視線に気づいたヒカリが笑いながら言う。
「そうなのよ、この子たちったら、いつも『エヴァごっこ』してるのよ」
そこには、先ほど見せた氷の視線はもうない。
ヒカリは「委員長」の頃のヒカリだ。
「へー、こんなおもちゃ売ってるんだね」
僕はクッキーを1つつまみながら、ヒカリを見た。
やっぱり「委員長」だ。
気のせいだったのかな?




「いや、気のせいじゃないぞ。」


その夜は子供たちとわいわいと夕食を共にし、
トウジは良きパパであることを僕に見せつけ、
一緒に歌など歌いながら風呂に入ったり、
「早く寝ないと使徒がさらいに来るぞぉ」
と脅かしたりしながら子供達を寝かしつけた。
静かになってから、改めて鈴原夫妻と向かい合う。
先ほどまでの喧噪が嘘のような静寂。
なぜかそこにある緊迫感。

「アスカのことでしょ、」
口火を切ったのはヒカリだった。
その声は、やっぱり「委員長」のものではない気がした。

さすがに詳しい動向はネルフの機密事項ということで
話してはくれなかったらしいが、
それでもアスカは時々ヒカリにメールを送ったり、
電話をしてきたりしていたらしい。

僕はアスカはネルフを辞めたと聞いていたんだけど、
実はそうじゃなくて、
アスカは僕と別れてすぐにドイツ支部に出向になり、
1年あまり向こうで任務をこなした後、
最近帰国してきたようだ。
彼女は僕の知らない事をたくさん知っていた。
僕には見せなかったアスカの癖とか、
僕には見せなかった愚痴っぽくて泣き虫な面とか。
女同士の親友というのは、
男にはわからない心の繋がりがあるようだ。
いや、そもそも僕が鈍感なだけなのかもしれないけど。

そして、新しいメールアドレスと電話番号。
最後に彼女は「委員長」の顔になって僕にそのメモを手渡してくれた。
「アスカはシンジ君を待っているわ。」
帰り際、彼女は僕の背中に向けて、そう言ってくれた。

僕もそう思っているんだよ。
恥ずかしくて口には出せなかったけど。

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最終更新:2007年07月19日 02:36
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