子供たちの歌は終わらない12

「違うよミサトさん、アスカは悪くないんだ!」
僕の声はまたしてもゼリーに吸収される。ぼとん。
必死になって両手で掻き出しても掻き出しても、
その生暖かい壁は崩れようとしない。
僕の存在は、彼女たちには届かない。
暗闇の中で、2人の啜り泣く声だけがしばらく続いた。
「アスカも、ミサトさんも、落ち着いて下さい」
もう1人、いた。気づかなかった。

「アスカは寂しかったのよね、けど、その寂しさの埋め方を間違えた。
決定的になる前に、私たちがなんとかしなくちゃいけなかったんだけど、
気づくのが遅くなってごめんね。」
聞き覚えのある声だけど、思い出せない。誰だろう?
僕は、思い切ってそのゼリー状の壁の中に頭を突っ込み、
体を押し込んだ。何か、全身がねっとりとした嫌な感触で包まれる。
あと一歩で壁をぶち破れる、その確信があった。

「とにかく、ここは私に任せて、あなたは少し距離を置きなさい。」
ミサトさんが鼻をすすりながら、アスカに諭すように言った。
「イヤ。私は彼がいなくちゃ駄目なの。シンジは私のものよ。
誰にも渡さないし、離れない。私とシンジは1つのものなのよ。」
僕は足を思わず止めて、その言葉に聴き入ってしまった。
そんな風に想っていてくれたなんて…

「大丈夫よ、アスカ、私たちがなんとかするから…ね?」
3人目の影が動き、アスカの肩を抱く。
誰だろう、この声、この聞き覚えのある声…。
そこで僕は目が覚めた。
目が覚める瞬間に、気づいた。
あのゼリーはLCLの匂いがしていた…。

時計を見ると午前2時半を少し回ったところ。
僕はそのまま眠る気にもならず、起きあがってお茶を飲み、
しばらく、この「夢の意味」を考えた。
この前、似たような夢を見た。
あれは僕からアスカに宛てたメッセージだとしたら、
今回の夢はアスカから僕に宛てたメッセージなんだろうか?

ミサトさんは以前「アスカには私から話しておくから」と言っていた。
その「話」の内容を僕は知らない。
聞こうともしなかった。
ただ、命令に従うかのように、淡々と離婚届にサインをし、ハンコを押した。
アスカもそうした。
僕は単純に失意に打ちのめされていて、何も考えられなかった。
僕たちは、きっととんでもない間違いをどこかでしたんだ。
どこかでとんでもない「貸し」を作って、今それを返さなくちゃいけないんだ。

何か物音がして、僕の過敏にしてすり減った神経を逆撫でする。
バスルームの方だ。
ゆっくりと歩いて行く。
ドアをそっと開けると酔っぱらいが廊下をフラフラと歩いていた。
何か、その背中が自分自身に見えた。

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最終更新:2007年07月19日 02:33
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