「あんた、自分で何をやったかわかってるんでしょ?」
「…」
「ここまでヒドイとは思わなかったわ。あたしの監督責任も大きいけど、
あなたももう子供じゃないんだし…」
「だって…」
「何?」
「だって、私を見てくれないんだもん…」
「え?」
最後の「え?」は僕が発した。でもその言葉は何故か「え?」という「形」になって、
そのゼリーに吸収されてしまった。
話は続く。
「私、我慢したわ。愛していたし、愛されているのもわかっていた。
大事にしてくれたと思う。けれど、私は、その『大事にされ方』じゃイヤだったの…
もっともっともっともっと傍にいて欲しかった。私に安心を与えて欲しかった。
私はそれ以外何も要らなかったのに…」
その女は泣き出した。
部屋は相変わらず絶望的に暗くて、僕は前に進めず、
傍観者であることを強いられている。
でも。
顔は見えなかったけれど、僕には分かった。彼女はアスカだ。
そして向かい合っているのは、きっとミサトさんだ。
「アスカ!」
僕の叫びはまたもやこのくず餅のようなゼリーのような壁に吸収されて
ぼとん、と床に落ちる。
スプーンを投げ捨てて、クロールのように僕は必死になって前に進む。
「アスカ!」
ぼとん。
「アスカ!」
ぼとん。
「だからって、あなたのやった事の言い訳にはならないでしょ?」
幾分声を落ち着けた感じでミサトさんが言う。
アスカは、ゆっくりとうなづく、と思った刹那、立ち上がって叫んだ。
「なによ、あんたはいいわよ、加持がいてさ、なんだかんだ言って
うまくやってんじゃないの!あんたたちが仕事中に仲良くじゃれてるの
見てて私が何を感じていたか、あんたには絶対わかんないわよ!」
瞬間、スゴイ音がした。ミサトさんがアスカの頬を叩いた、
という事が分かるまでしばらく時間がかかった。
「あんた、いつまでも人のせいにしてるんじゃないわよ!」
泣き声?ミサトさんは泣きながら、続けた。
「シンジ君の気持ちを考えたことあるの?彼は、確かに鈍感よ、
けれど、あの子、一生懸命アスカを愛していたじゃない、
一生懸命自分が手にした幸せを守ろうとしていたじゃない、
あんたが甘えていただけなの、それがわからないの?」
最終更新:2007年07月19日 02:32