何か、囁き声が聞こえる。バスルームの方からだ。
防音がなっていないなぁ、と思いながらも気になってそちらに向かう。
声はバスルームではなく、廊下から聞こえてくるようだ。
そっと扉を開ける。
誰もいない。
けれど、声は聞こえてくる。
「この囁き声が一体どこから聞こえてくるのか、確かめなくてはならない。」
急にそういった義務感に襲われる。何故だろう?わからない。
それでも僕はとりあえずジーンズをはき、上にTシャツを被って、部屋を出た。
廊下を音もなく進む。厚手のカーペットは僕の靴の音を完璧に吸収してくれる。
その吸音性の高い廊下で、響くこの声。
角を何度か曲がったところで気づく。
このホテル、こんなに部屋は多くない。廊下だって真っ直ぐ一本の筈。
じゃあ、ここはどこだ?
そう思った瞬間に、その部屋に辿り着いた。
なぜその部屋だと分かったのか、それはドアがわずかながら開いていて、
そこから声が漏れているのが明らかだったからだ。
僕は何のためらいもなく、ドアを開ける。音はしない。
中は薄暗くて、ちょっとした恐怖感を僕に与えてくれる。
一歩一歩、ゆっくりと前に進む。
ふいに何かにぶつかる。壁?いや、目の前には何もない、はず。
だが、それ以上前に進むことが出来ない。
部屋は遮光性ばっちりのカーテンで閉め切られ、
誰がそこにいるのかもわからない。
けど、声は続く。女の声だ。
僕は先に進もうとする。でも跳ね返される。
ゼリーのような透明のねっとりした物体が僕の前に立ちはだかっている。
なぜか僕はスプーンを持っていて、
それで必死になってそのゼリーを掻き出そうとする。
そのゼリー状のものは、何か懐かしい匂いがした。
最終更新:2007年07月19日 02:31