42

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外はいつの間にか暗くなっていて。 でも、部屋の中に満ちているLCLの匂いは一向に薄まる気配がない。 アスカは、ここにいる。 僕はゆっくりと起きあがる。 目の前にあったらしい鏡が粉々に砕け、片づけられた跡が残っている。 ガラス片はどこかに落ちていないか、探してしまう僕。 何の意味があるのか、わからないまま、 それでもソファーの下に落ちていた破片を見つけ、 それを手にして僕はアスカのもとへ近づく。 枕元に腰掛け、アスカの頬を撫でてから、手を握る。 また光が飛び散るかな?と思って、その瞬間は目を閉じていたけれど、 何も起こらなかった。 ゆっくりと目を開ける。おそるおそるアスカの方を見る。 アスカは、先ほどと変わらず、眠っている。 頬を触れた手に残ったのは冷たい感触だけ。 僕は泣きたくなるのをこらえて、彼女にキスをした。 ふいに、鏡の破片が光る。 目をやると、そこにはアスカが写っていた。 それは小さな小さなアスカだったけれど、僕には十分な、完璧な彼女だ。 鏡の中にいたのは、眠っているアスカではなく、微笑んでいるアスカ。 振り返ってみても、そこには何もない。 でも、鏡の中ではアスカは微笑んでいる。口がゆっくりと動く。 最初は何を言っているのか分からない。 アスカは何度かそれを繰り返した後、苛々したような表情で、 僕の方に近づいてくる。 やがて鏡の中で、僕の背後にぴったりとくっついたアスカは、 僕の耳元に口を近づけて、囁いた。 「歌って」 実際に声が聞こえて、僕はびっくりして立ち上がる。 その拍子に鏡の破片はベッドの上から落下し、 高級そうなカーペットの中に埋もれる。 拾い上げた鏡の中では、アスカが僕の方を向いて、何かまた言っている。 「バ…カ…シ、ンジ?」 僕が口に出して言うと、アスカは笑い転げ、親指を立てた。 合ってるみたいだ。 そのままアスカは続けて 「大好きよ」 と言った後、また風景の中に溶けていった。 「あたしはずーっとシンジの傍にいるわ。」 アスカの声を思い出し、僕は泣いた。今度は声を上げて泣いた。 アスカは嘘をついていない。きっと僕の傍に居続ける。 おそらく、きっと、ここに眠っているアスカが目を覚ますことはないだろう。 僕は、永遠に彼女を失った。 でも同時に、彼女を永遠に自分だけのものにした。 アスカにとっても、それはきっと同じなんだ。 アスカは永遠に僕をアスカだけのものにした。 それでアスカは満足なんだろう。 「歌って」と言ったアスカ。 うん、わかったよ。僕は歌い続ける。 ここではただ1人になってしまったけれど、 アスカの分まで歌っていくよ。 僕たちは、いつでも一緒だし、僕たちは常に自由だ。 たとえ、生涯逃れられない檻の中に捉えられた小鳥でしかなくとも。 僕たちは、僕たちなりに、一生懸命歌って行こう。 それが、僕たちの未来に何をもたらすかはまだわからないけれど、 それでも、何があっても、僕たちは、自由だ。 僕はもう一度、アスカにキスをした。 再び、アスカの目から涙がこぼれ、 同時に僕にはアスカが少し微笑んだような気がした。 劇終

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